前回の記事では、中国・雲南省発の靴工房〈Yearn Shoemaker (ヤーンシューメーカー)〉が新たに展開を始めた〈Artisanal Line (アルティザナルライン)〉について紹介しました。
記事内でも言及したように、私も早速注文をさせていただくことになりました。今回は、まだ届いたばかりのYearn Shoemakerの新作を紹介したいと思います。
注文から到着、開封まで
ドレスシューズ本体の前に、注文から開封までの経緯について少々。
メールを通じた注文
今回は、メールでYearn Shoemakerに問い合わせ・相談をした延長で注文をしたため、Webサイトではなくメールでのやり取りで注文を進めました。メールでPayPalのインボイス・決済ページのURLを送ってもらい、支払いもPayPalで済ませています。
一方、下のページのように、現在ではWebサイト上でMade-to-order (MTO) の仕様を決めて発注することもできるようになっています。前回注文を実施した2022年初旬の時点では、MTOの場合はメールで専用の書式を要求し、それに記入して返送、といった手続きが必要だったので、少し注文しやすくなったのではないかと思います。
受取と開封
ひとつ前の投稿でも書きましたが、6月中旬に注文し、手元に届いたのが8月上旬。標準リードタイムは1ヶ月弱であったのですが、先方での革の調達に時間がかかり、納期に響いたようです。一昨年にYearn Shoemakerから靴を購入した時には、中国からDHLで発送されましたが、今回はUPSでした。UPSの場合は、配達時に商品と引き換えに関税や通関手数料を配送員に現金で支払う方式のようです。個人的には、電子決済が可能なDHLやFedExの方がありがたい。
ところで、以前の注文の際には、元箱がDHLのビニール袋に無造作に放り込まれていたために、到着時点で箱が壊れていたといったエピソードを紹介しました。一方で、今回は元箱が段ボール箱でしっかりと梱包されており、改善が見受けられます。なお、私の靴の個人輸入ヒストリーにおいては珍しく、税関での開封検査を逃れて手元にやってきました。
なお、前回の箱が壊れていたことを報告した際に提案いただいた割引ですが、先方も覚えてくれていて今回しっかり適用してくれました。義理堅い。
ツイード生地で作られたシューバッグは、前回と同じ。丈夫そうな袋なので、出張などでYearn Shoemaker以外の靴を持ち運ぶ際にも活用しています。
シューバッグは片足ずつ、計2点用意されています。
アッパーの雰囲気
シューバッグを開くとこちら。
続いて、アッパーの様子に踏み込みたいと思います。
Conceria Zontaの銀付きスウェード
前回の記事でも触れましたが、選んだ革はイタリアのタンナリー〈Conceria Zonta (コンチェリアゾンタ、以下Zonta)〉の銀付きスウェード。
銀付きスウェードならではの触感
革の網状層の中でも銀面 (乳頭層) に近い部分を利用する銀付きスウェードは、広く流通しているスプリットスウェード (床スウェード) よりも繊維がより密に詰まっていてキメが細かいと言われています。ことばでも写真でもうまく表現ができないのですが、確かに毛足が短く滑らかで、これまで手にしたスウェード製品よりも質が良さそうな印象を受けます。ボソボソ感が少ない、とでも言うのでしょうか。
特に、フェイシング (羽根) 周りは「ビロードのような」という形容に値する上質な手触りです。これは、釣り込みにおける力のかかり具合の兼ね合いで、他の部位よりもテクスチャが良く感じるのでしょうか?それとも、たまたま特に触感の良い部分が充てがわれたからでしょうか?
メジャーな銘柄の銀付きスウェード
革の銘柄は確認しそびれてしまいましたが、Zontaの銀付きスウェードといえば〈Castorino (カストリーノ)〉が有名です。Zontaは公式Webサイトが見つからないので、皮革販売業者〈Euroleathers (ユーロレザーズ)〉のWebページを下に挙げました。
Instagramを眺めていると、ビスポークシューメーカーの作例とともに見かける名前。既成靴だと、英国の〈Tricker’s (トリッカーズ)〉が多く採用しているようです。
他の銀付きスウェードで有名なものといえば、英国の〈Charles F. Stead (チャールズFステッド)〉による〈Janus Calf (ヤヌスカーフ)〉またはイタリアの〈Conceria Ilcea (コンチェリアイルチア)〉の〈Alicante (アリカンテ)〉などでしょうか。
スウェードを主力製品とするCharles F. Steadからは、〈Kudu Reverse (クードゥーリバース、ウシ科の動物「クードゥー」の革)〉や〈Reverse Elk (リバースエルク、ヘラジカの革)〉さらには銀面・床面の両面を活かせる〈Doeskin (ドゥスキン、雌鹿の革)〉のように、牛革以外の銀付きスウェードが展開されています。私の手元にも、アメリカのカジュアルシューズブランド〈FEIT (ファイト)〉によるReverse Elkを使ったサンダルがあったりします。
こちらはキメが細かいというよりも、屈強なスウェード。ノギスを使った実測で2.3 mmと非常に厚手のスウェードです。ヘラジカの皮は牛よりも分厚いのでしょうか。
明るめの茶色
色味は、これまた1つ前の記事でコメントしたように、ダークブラウンよりも十分明るく、かといってタバコブラウン・金茶と呼ぶほどではありません。手持ちのスウェードのアイテムの中で、ダークブラウンや金茶のものとこの靴を比較してみたのが下の画像です。
Churchill風のサイドエラスティックデザイン
デザインは、前回注文した靴と同じで、英国屈指の靴ブランド〈Anthony Cleverley (アンソニークレバリー)〉の名作〈Churchill (チャーチル)〉を踏襲したもの。イミテーションウィングにサイドエラスティック、イミテーションレースがシンボルとなっています。本家Churchillとの差分を見出すとすれば、パーフォレーションが親子穴となっていることと、踵のシームの入り方 (オリジナルのChurchillはヒールカウンターを縦断するように縫い目がある) でしょうか。
前回も言及したように、シームレスヒール仕様にすることはできず。縫い目はあるものの、起毛しているので比較的目立たなく感じるのは予想どおり。
ハンドラスティングを売りにするくらいなら、最初からヒールカウンターを縫い目なしでパターニングしてくれるといいのに、などと思ったりもします。ただし、これはシームレスヒールの釣り込みによる工程上のコストは最終的な商品価格に影響を及ぼさない程度に小さい、という仮説が成り立つ場合のみ妥当なものであり、実際には何らかの困難 (例えば、一部のアッパーの革は極度に固くてシームレスヒールで釣り込み難い、といったもの?) があるのだろうと想像します。
前作との比較
今回の靴と前回の靴を並べてみました。パターン・木型はまったく同一の2足です。
前回の靴は、アッパーに手染めしたクラストカーフを使用しています。
下の写真は、2足とも左足を小趾側から写したものです。アッパーのコンストラクションに関しては、前回の標準ラインと今回のArtisanal Lineとの間で大きな相違はありませんが、ソールに目を移すと違いが目につきます。
最後に
途中脱線もしましたが、Yearn Shoemakerのドレスシューズについて、主にアッパーに着目して紹介しました。ボトミングを含めたその他の側面については、長くなってしまったので次回にしたいと思います。
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