ここ2, 3年くらいでしょうか。巾着のような手提げのミニバッグをよく目にするようになりました。
PCなど大きなアイテムを持ち歩かなければならない場合は別ですが、私は出かける際の手荷物はミニマム志向で、できるだけ手ぶらで行動することを是としています。しかし、特に上着の内ポケットに頼れないことも多い夏場は、鞄がないと小物が溢れてしまうこともしばしば。そんなシチュエーションで、この類のミニバッグがあると便利そうだなと感じていました。
そんなモチベーションで方々を探し求めた結果、手にしたのがこちらの2つ。

既に過去の記事で何度か登場したものとなりますが、〈Maison d’Artisan (メゾンドアルチザン)〉による合切袋 (がっさいぶくろ) スタイルのミニバッグです。Maison d’Artisanの鞄については、既に今年2025年の春先に下のショルダーバッグを紹介していますが、このショルダーバッグは下の記事を公開した直前に出来上がったばかりもの。
一方、今回の合切袋は昨年2024年の秋に手に入れたもので、昨年の総括エピソードの中でも取り上げています。合切袋は夏向けの装いに向いた鞄かな、ということで翌年の夏前まで寝かせておいた結果、入手と記事公開の順番が逆転してしまいました。
今回・次回の2回に分けて、Maison d’Artisanの合切袋を紹介していきたいと思います。
入手の経緯
はじめに、Maison d’Artisanの合切袋に辿り着いたいきさつについて。
いい感じのミニバッグを求めて
冒頭でも言及したように、いい感じのミニバッグを求めてあちこちを探し回っていたのがそもそもの始まりでした。この手の鞄はジャンルとして黎明期にあったためか、大手の製造者だけ見ているとあまり選択肢が多くありません。何か見つかったとしても、作りが安っぽかったり、素材選びが好みでなかったりと、琴線に触れるものにはなかなか巡り会えず。
そうした中、個人作家の方々の作品はどうだろうかとハンドメイド作品のマーケットプレイス〈Creema (クリーマ)〉を覗いた際に、Maison d’Artisanとその合切袋を知ることとなりました。

Maison d’Artisan主宰の佐藤さんと打合せ
Creemaを通じて最初に興味を持ったのは、本体にキャンバス地を使ったものでした。

詳しく知りたいということで、早速InstagramのDMでMaison d’Artisanにコンタクトを取ってみました。幸いにも、主宰の佐藤さんとお会いして話を聞かせていただけることに。加えて、本来は受注製作のアイテムではあるものの、キャンバス・総革それぞれの実物を拝見することができました。そして、総革製のものをオーダーすると同時に、お持ちいただいたキャンバス製の現品を購入させていただいた結果、手元に2つが揃うこととなりました。
Maison d’Artisanの合切袋
今回は、現物のかたちで最初に手に入れたキャンバス製のものを紹介し、総革製のものは次回の記事でハイライトしていきたいと思います。ただし、キャンバス製の個体に踏み込む前に、両者共通の基本構造に着目してみます。
「合切袋」とは?
その最たる特徴は、袋口のやや外側を紐で縛るつくりになっていること。

縁に沿ってループ状の紐通しが8つ取り付けられており、その中を革の編紐が走る単純な設計となっています。こうした構造の鞄は、日本で古来から親しまれている「合切袋」という手提げ鞄に由来するもののようです。出掛ける際の一切合切の手荷物を放り込んでおく袋なので、合切袋なのだとか。和装のお供としての起源を持つ合切袋ですが、今回のMaison d’Artisanのものは洋服にもまったくの違和感なく馴染みます。
昨年12月の時点ではこの鞄を指して「巾着鞄」と呼んでいましたが、巾着は袋口を折り返してできるトンネルに紐 (緒とも) を通して縛る構造なので、やや正確さを欠いた表現であったかもしれません。

なお、合切袋はマチが取られていない一方、合切袋と同じ開閉構造ながら底マチが設られたものは「信玄袋 (しんげんぶくろ)」と呼ばれているようです。
サイズ感
大きさについては、横に500 mlのPETボトルを並べてみると最もイメージしやすいでしょうか。

財布やイヤホン、サングラスといった身の回りの小物は余裕を持って収納できます。写真には写っていないですが、肌寒い時の羽織り物として、〈Patagonia (パタゴニア)〉の〈Houdini (フーディニ)〉シリーズのパッカブルジャケットを入れておくことも多いです。

上の写真に登場する小物の一部は、下のように別途紹介しているものです。
キャンバス製の作品
ここから、キャンバスの合切袋の方を深掘りしていきます。
LIMONTAのキャンバス生地
ボディの素材は、イタリアの〈LIMONTA (リモンタ)〉製の布帛となっています。
LIMONTAといえば〈PRADA (プラダ)〉が使用する高密度のナイロン生地で有名ですが、今回使われているのはコットンを主体に化繊が混紡されたバスケットウィーブ。帆布と呼んでも差し支えないものかもしれません。経糸はトープ色で、緯糸は生成りでしょうか。遠目に見るとベージュに見えます。涼しげで夏にちょうどいい素材。

中身を空にして横たえても、下の写真のようにボリュームが保たれているのがわかります。

これは、裏地に使われているヌバックによって、美しいフォルムを出すためのハリが生みだされているからなのだとか。

ただし、素材に強いハリがある分、少なくとも今の状態では紐を最大限に縛っても口が閉まりきりません。鞄を振り回したりひっくり返したりしなければ問題ないとは思いますが、鍵やらリップクリームやら飴ちゃんやら、小物を入れる時には配慮が必要かもしれません。

アクセントに使われる革
袋口や脇・底縫いのパイピングなど、各所に施された革の縁取りがアクセントになっています。

使われている革は、フランスはアルザス地方のタンナリー〈Tanneries Haas (タナリーアース)〉による〈Novonappa (ノヴォナッパ)〉です。実は、こちらの革は総革製の方の製作にも選んだものと、色も含めて同じもの。そのため、革の説明は次回の記事に回したいと思います。
手縫いのステッチ
製法の観点で特筆すべきは、やはり手縫いのステッチワーク。
サドルステッチ、そしてMaison d’Artisanのシグネチャーでもある半返し縫いのコンビネーションとなっているのは、先のショルダーバッグの記事でも多く触れましたとおり。ショルダーバッグ同様、もしかするとパイピングのある脇・底縫いも手縫いなのかもしれませんが、未確認です。

上の写真の真ん中に写っている大きめの紐通しの形は、ショルダーバッグのストラップの根革と同じ形となっています。

ステッチの糸の色は、くすみピンクといったところでしょうか。ダークブラウンの革とのコントラストは、手縫いのステッチを愉しむのにこの上ないものです。コバの色も同系色で仕上がっています。
真鍮のメタルウェア
紐通しは、真鍮と思しき釘またはカシメで留められています。

内側を見ると、紐通しはひとつひとつ真鍮のプレートでしっかりと圧着・補強されています。表から見えない箇所ですが、軽やかな表情のキャンバスバッグに隠れた重厚感を与えてくれる要素です。

花冠のようなアクセント
最後に花を添えるのが、革の編紐に取り付けられたパーツ。

革を丸く切って端を摘んだもののようですが、鞄を手に持つ際に指に絡めたりもできる実用的なものです。
手に取ってみて
こんなキャンバス × レザーの合切袋を、手に取ってみました。花冠のパーツを握っています。

上衣はゴートスウェードのカバーオールですが、小物の収納力はゼロ。そこで、財布をはじめ小物を持ち歩くのにこの鞄が役立ちます。茶色の革があしらわれているおかげで、茶色の革靴と馴染みがいいように感じます。

上の写真で登場するローファーは、下の記事で紹介しているものです。
ちょっと近所に出かけるようなシチュエーションにも。

スニーカーもキャンバスなので、相性のいいコンビネーション。

Tシャツとパンツについては、それぞれ下の記事で取り上げています。
最後に
今回は、Maison d’Artisanによるキャンバス地を使った手縫いのミニバッグを紹介しました。
今年になって、東京・青山のセレクトショップ〈CIRCLE (サークル)〉でも、Maison d’Artisanの総革製の合切袋が受注製作のかたちで取扱い開始となったようです。
店主の方による熱のこもった紹介記事が公開されており、こちらも必見だと思います。しかし、同店のブログサイトがHTTPSに対応していないため、こちらからリンクを貼ることができません……。検索すると出てくると思いますので、是非あわせてご覧になってみてください。
下の続きの記事にて、総革製のものを紹介しています。
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