先日、いつもの呑み屋にて目を惹かれたとあるワイン。
米国はナパヴァレー (Napa Valley) のワイナリー〈Caymus Vineyards (ケイマスヴィンヤーズ)〉の50周年記念ボトルです。

口当たりの滑らかなタンニンと、凝集した黒系果実のキャラクターが特徴のカベルネソーヴィニヨン。その昔、贈り物としてやってきたことをきっかけに、お気に入りのひとつとなった銘柄です。
50周年記念の2022年ヴィンテージは昨年から流通しているので、何を今更といった感が拭えません。いつもながら情報感度が鈍く、ようやっとこのようなセレブレーションがあることを知った次第です。一方、特別なヴィンテージでありながらもかなりお値打ちだったので、店で1本開けたのち、せっかくなのでともう1本連れ帰ってきたのが上の写真のものです。たくさん仕入れすぎたインポーターがこのタイミングで放出に動いていたりするのだろうか、と邪推。

ところで、冒頭の写真で50周年ボトルの後ろに写っている、そして直上の写真でキャップシールに「45」とエンボスされているのは、2017年ヴィンテージのもの。こちらは、旅行でナパヴァレーに訪れた際にCaymus Vineyardsのエステートショップで購入したもので、訪問から5年以上経った今も自宅のセラーで眠っています。どちらかというと蔵出しされてからすぐ楽しめるワインかと思うのですが、勿体なくて開栓できずにいます。
そんな出来事にインスパイアされるかたちで、今回はCaymus Vineyardsを中心に、ワイナリー巡りでナパヴァレーに赴いた際のエピソードを。

Caymus Vineyardsのエステート訪問
まさかこのようなかたちで情報発信するとは夢にも思っておらず、使える写真が全然ないのですが、Caymus Vineyardsのエステートでの様子をいくつか。

テイスティング
事前の予約などはせず、ウォークインでワインテイスティングに参加しました。緑に囲まれた中庭のスペースに案内されます。1脚のグラスに1杯ずつ順に注いでくれるスタイルのため、複数並べての飲み比べは不可。

フライトは、下のリーフレットのような組合せとなっていました。Caymus Vineyardsを経営するWagner Familyによるワインが5つ並んでいます。Caymus Vineyardsからは、冒頭にも出てきたスタンダードキュヴェと、一世を風靡したスペシャルキュヴェである〈Special Selection Cabernet Sauvignon〉の2つ。Caymus Vineyardsは当日4件目に尋ねたワイナリーで、既にかなり出来上がっていたということもあり、1つのフライトを2人でシェアすることにしました。あまりお行儀の良くないことかとは思うのですが……。

エステートでの体験はやや物足りない感あり
当時、Caymus Vineyardsを含めて10件近くのワイナリーやテイスティングルームに足を運びましたが、Caymus Vineyardsでのエステートエクスペリエンスはかなり地味で質素なものでした。現地でできたことはテイスティングと買い物のみで、畑やカーヴ、醸造施設の見学オプションはありません。そもそも、メインの製造拠点はナパ群の東に位置するフェアフィールド (Fairfield) に移っているようで、このエステートには最低限の製造設備しか備わっていないのかもしれません。Special Selectionの方はラベルに “Estate bottled” と書かれているので、今なおこのエステートで醸造・熟成・瓶詰めまでしているのでしょうか。
米国のアペレーションコントロールはフランスなどのものとは異なり、使用する葡萄の85%以上がナパヴァレー産であれば、醸造がナパヴァレーの外であってもナパヴァレーのアペレーション (American Viticultural Area, AVA) を名乗れるようになっているとのこと。そのため、Caymus Vineyardsのように醸造施設を地価の安いフェアフィールドなどに移転しているワイナリーは少なくないようです。

太っ腹なところは高評価
一方、Caymus Vineyardsの何が良かったかというと、非常に太っ腹であったこと。というのも、50米ドル (当時) のテイスティング代は、テイスティング後にギフトショップで買い物をすれば同額の割引として相殺してもらえたのです。そのため、2017年ヴィンテージのスタンダードキュヴェをたった35米ドルで持ち帰れたと言う次第。しかし、今思えば当時はワイン自体も米ドルもまだまだ安かったので、Special Selectionの方を買っておけばと後悔しています。

手頃にケイマススタイルを味わえるBonanza
なお、Wagner Familyによる「ケイマススタイル」を20米ドル前後と安価に楽しめる〈Bonanza (ボナンザ)〉というワインがありますが、こちらは残念ながら日本未上陸。米国だとスーパーマーケットや〈CVS Pharmacy〉のようなファーマシーストアでも見かけるので、米国出張の際に買い求めています。本邦でも広く流通するようになるといいのですが。

その他、訪れた場所
この旅行では、ナパヴァレーに4泊滞在しました。前半は、せっかくなのでワインカントリーの趣きを味わえるヨントヴィル (Yountville) のとあるブティックホテルを利用。こちらが非常に高額だったので、後半はナパ市街のAirbnbで宿代を浮かすことにしました。




前述のとおり、Caymus Vineyards以外にもワイナリーをハシゴしたのですが、その中からハイライトをいくつか。
特別感のあるテイスティングルームのCliff Lede Vineyards
1つ目は、前半で泊まったホテルと同じくヨントヴィルに位置する〈Cliff Lede Vineyards〉を挙げてみます。
こちらは、渡航前にオンラインで〈Backstage Reserve Tasting Room (バックステージリザーブテイスティングルーム)〉という特別プログラムをオンライン予約して向かいました。エステートツアーなどはなくテイスティングのみで1フライト75米ドル (当時) とやや高額な部類ですが、広々ゆったりしたテイスティングルームで、芸術にインスパイアされたというワインをいただきました。アテンドしてくださった方がとても親切丁寧にワインの解説をしてくれたのが好印象なテイスティングツアーでした。




日本語で案内してもらえるKenzo Estate
2つ目は、ゲームソフトウェアメーカー〈CAPCOM (カプコン)〉の創業者である辻本憲三氏が興した〈Kenzo Estate (ケンゾーエステート)〉

日本人が経営しているワイナリーだけあって、日本人のスタッフの方から説明を受けられるのがメリット。ただ、東京のテイスティングルーム (行ったことないけど) ではなくワイナリー現地だからこそ得られる何かがあったかどうかは、疑問の残るところ。とはいえ、Caymus Vineyardsなどとは異なり全銘柄エステートグロウンとのことなので、多少のありがたみはあるのかも。

Kenzo Estateについて印象的だったのは、他のワイナリーの方からの評価が高いこと。テイスティングにアテンドしてくれるスタッフの方と話す際に、「今日この後Kenzo Estateにも行くんだけど……」と口にしたところ、「Kenzo Estateはすごくプレスティージャスなワイナリーだよね」といったコメントを何度も耳にしました。優れた栽培家・醸造家を招聘していると聞きますし、山間のテロワールには何か特筆すべきものがあるのでしょうか。私はテイスティングではそこまで深掘れませんでした。
独特の設備が興味深いPalmaz Vineyards
最後に紹介するのは、〈Palmaz Vineyards (パルマスヴィンヤーズ)〉です。
独特な構造の血管ステントを発明したJulio Palmaz医師によって創業されたワイナリーで、Kenzo Estateの成り立ちとも類似点を見出せるワイナリー。実際に、Kenzo Estateのお隣さんともいえるロケーションとなっています。
一連のワイナリー訪問のトリを飾ったのがPalmaz Vineyardsだったのですが、ここで初めて醸造施設やカーヴも含めたツアーに参加することができました。テイスティングと併せて1人100米ドルと決して安くはないのですが、ワインのラインナップも比較的高価格帯にあるのでこんなもんでしょうか。しかし、その醸造設備は一見の価値ありで、山の中腹から裾野にかけて複数の横穴が切り開かれており、”Gravity flow (グラヴィティフロー)” と呼ばれる重力に沿って葡萄が処理される製造ラインが構築されています。除梗、圧搾、発酵…… といった工程に沿って葡萄、およびその中間加工物を山の上から下へと流すことで、各工程でのポンプを使った汲み揚げが不要となり、葡萄に優しいワイン作りにつながるのだとか。
また、栽培や醸造に各種リモートセンシングを導入しているというのもユニークです。定期的にセスナを飛ばして葡萄畑の赤外線写真を撮影し、葡萄の生育状況をモニタリングしたりもしているのだとか。さらに、リアルタイムの指標が施設の天井に投影されるという派手な演出もありますが、これは実用というよりもツアー客を喜ばすための仕掛けなのかなという印象。
ツアーの最後に、テイスティングルームでの試飲会。それぞれのワインにアミューズがペアリングされる洒落た内容です。メインはカベルネソーヴィニヨンのタテ飲みだったのですが、2013年から2015年は傑出したヴィンテージが続いた、といった解説をされていました。違いはわからず。

Palmaz Vineyardsからは、下のようなヴィンテージガイドがあるのも興味深いです。
上に書いたCaymus VineyardsやCliff Lede Vineyardsのものに限らず、異なるワイナリーを訪れてはワインを少しずつ購入しました。日本へ持ち帰る際には下のような発泡スチロールの緩衝材付き段ボール箱を入手し、万が一瓶が割れても極力被害を抑制できるように1本ずつラップを巻いて梱包し、機内預けとしました。このような箱はどこのワイナリーでもそれなりに取り扱っているようで、10米ドル程度で購入できました。言うまでもなく免税範囲を超えた輸入のため、入国時に空港にて税金を納めています。

最後に
今週は、ひょんな出来事からナパヴァレーでの出来事を紹介することとなりました。

全体的にとても満足度の高い旅となり、機会があれば再度足を運びたいと願っています。しかしながら、パンデミックの前後で物価や為替が大きく変わってしまったため、ハードルが大きく上がってしまいました。上で紹介した4つのワイナリー以外にも、〈Frog’s Leap Winery (フロッグスリープワイナリー)〉や〈Schramsberg Vineyards (シュラムスバーグヴィンヤーズ)〉など、当地にはいい思い出の残るワイナリーが多くあり、次回も再訪したいなと考えています。

なお、今回この記事を作成するにあたって下調べをしていたところ、Caymus Vineyardsはワイン愛好家からは厳しい評価がなされている側面もあることがわかりました。商業的にウケる味を追求するために、テロワールやヴィンテージを無視して過度に手を加え過ぎだ、といった指摘でしょうか。個人的には、その良し悪し云々ではなく、欧州のテーラリング文化が米国の〈Brooks Brothers (ブルックスブラザーズ)〉などによって画一化・大衆化された経緯に近しいものを感じた次第です。
Caymus – Why the Hate?
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ナパヴァレーのあるカリフォルニア州には、この旅から遡ること十余年前に鉄道で各所を巡りました。その際のエピソードを下の記事で紹介しています。
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