国内の多くのイージーオーダーサロンからオーダーシャツ製造を請け負う〈ドゥ・ワン・ソーイング〉
そして、そのSPAブランドである〈土井縫工所〉
私としては、カジュアルシャツに分類されるプルオーバーシャツを何着か買い求めてきた土井縫工所。
一方、ドレスシャツについてはあまり接点がありませんでした。そうした中、今年になってオープンしたという土井縫工所の直営店に赴き、〈プレミアム縫製〉というあまり大っぴらにされていない縫製プランでドレスシャツを作っていただきました。今回は、その訪問・注文に至った経緯と完成したシャツを紹介したいと思います。
私のドレスシャツへの向き合い方
本Webサイトでは、スポーツジャケットやトラウザーズを中心として、ドレスクロージングに関する私の体験談の公開に注力しています。その一方、個人的なこだわりの低さもあってか、ドレスシャツについて語ることはあまりできていません。
億劫なアイロン掛け
ドレスシャツに関して感じるのは、どうしてもアイロン掛けが面倒なこと。以前紹介したのですが、ノーアイロンでの運用を期待して誂えた〈Thomas Mason (トーマスメイソン)〉の〈Downing (ダウニング)〉という生地を使ったドレスシャツがあります。仕上がってみると、期待とは裏腹にアイロン無しで着るのは難しそうだということがわかり、それほど多く活用できていません。
ノーアイロンとは対極にあるような高級なシャツ生地は、それでしか味わえない風合いの良さや色柄の美しさがあります。しかし、普段使いするドレスシャツに対しては、そうした質感・美感よりも実用性が先行してしまいます。
形態安定製品に魅力を感じるが……
そうしたことから、生地に樹脂加工を施すことで形態安定性が付加された生地に惹かれます。しかしながら、形態安定をフィーチャーする製品は、往々にして縫製がチープなのが悩みどころ。また、形態安定生地は忌避されがちなのか、そうした生地を取り扱うビスポークシャツメーカーは探しても見つかりません。上述のThomas Masonの生地を使ったシャツの製作を依頼した工房にも尋ねてみましたが、「ウチではその手の生地はやらない」との回答でした。
ただし、縫製に手が込み過ぎていると、それもそれで持て余してしまいます。20以上の手縫い工程を誇るナポリシャツなぞも数着買い求めてみましたが、手洗いが推奨されているところ、面倒なのでついつい洗濯機で洗ってしまいます。そうすると、アームホールの縫い目がほつれてしまったりして、次第に億劫になって着なくなってしまいました。
そうしたことから、アイロン不要で着られて、問題なく洗濯機で洗えて、縫製にも少し力をいれたドレスシャツがあれば…… などと考えていました。
直営店限定。土井縫工所のプレミアム縫製
そうした中、土井縫工所には、あまり表には出されていないものの縫製をアップグレードできる有償オプションがあることを知ります。それが、件のプレミアム縫製なのです。
土井縫工所は〈Wrinkle Free (リンクルフリー)〉というシリーズ名を冠した形態安定生地を展開しているので、プレミアム縫製とWrinkle Freeとの組合せは上に書いた私の要求を叶えてくれるものなのかも、と期待が高まりました。
プレミアム縫製のパッケージ
このプレミアム縫製は以下のような縫製仕様がワンパッケージになったもので、3,300円 (税込・2024年9月現在) のアップチャージにて提供されているようです。これらのうちいずれかを単体で適用することはできず、必ずワンセットになっているとのこと。
- オフセットスリーブ (袖の後付け)
- 釦総根巻き
- 前立て裾釦横穴
- 脇縫製24針/3cmの運針
ただし、こちらのオプションはオンラインストアでの注文には適用できず、東京・新橋の直営店での注文に限られるとの話でした。下の土井縫工所のWebページを見ると、かつては期間限定キャンペーンの体で、オンラインストアでも〈Calro Riva (カルロリーバ)〉などによる高級生地とのセットでプレミアム縫製が提供されていたようなのですが。
スクリーンショット出典: https://www.doihks.jp/info/premium_fabric.html (2024年10月取得) プレミアム縫製に関する説明
なお、冒頭でも言及したとおり、土井縫工所というブランドはその運営母体であるドゥ・ワン・ソーイングのSPAブランドです。一方で、同社のメインビジネスは取次店を通じたオーダーシャツの展開、すなわちB2B事業だと理解しています。たまたまGoogle検索でヒットした下の記事などを見ると、取次店向けにもプレミアム縫製のオプションが展開されているようです。
土井縫工所の直営店
というわけで、プレミアム縫製を求めて土井縫工所の直営店を尋ねてみました。
店舗はJR新橋駅の日比谷口から程近くの、雑居ビルの3階にあります。
下のInstagramの投稿を見ると、開業は今年1月とオープン間も無い様子。
今回私が尋ねた2024年9月の時点で、平日は要予約・土日は予約なしで訪問可能となっていました。特段許可は取っていないため、残念ながら店内の様子を写真で紹介することはできません。小綺麗な店内で広めの試着室があり、ゲージ服を着ながら採寸をお願いすることができます。実物をバンチブックで確認できるため、オンラインでの注文よりも生地のイメージが明確に掴めるのも実店舗ならでは。
肝心のプレミアム縫製での注文も問題なく対応可能で、形態安定生地との組合せもOKとのこと。土井縫工所が企画したオリジナルの形態安定生地を収録したバンチブックをめくり、今回は2種類の生地で注文することとしました。
届いたシャツ – 1着目
注文後、3週間で完成したシャツ2着が届きました。ここから紹介していきたいと思います。
綿100%の形態安定生地
1着目は、形態安定加工が施された綿100%の生地です。
ところで、ドゥ・ワン・ソーイングのYouTubeチャンネルに、形態安定を含む機能性生地についてシャツ生地の商社と対談している動画がありました。80・100番手と形態安定モノとしては細番手の糸をセレクトしたり、生地への樹脂の浸透方法を変えたりして、一般的な綿100%の形態安定素材よりも上質な風合いを実現しようとしているようです。
そして、こちらの生地は経80双・緯50単で織られたもので、ラベルにはピンポイントオックスフォードと書かれていました。織目に近づくと、経糸4本・緯糸3本を引き揃えて織られているように見受けます。オックスフォードというよりも、バスケットクロスと称した方が適切のような気もします。
下のタグに説明書きがありますが、ドゥ・ワン・ソーイングでは、形態安定生地の場合芯はフラシ芯ではなくトップヒューズ芯 (接着芯) を使用しているようです。
プレミアム縫製
標準グレードの場合だと、根巻きは前身頃の第1ボタンとカフスのボタンのみとのことですが、プレミアム縫製では全てのボタンに根巻きがなされます。そもそも、ボタンの根巻きってそんなに勿体振るほどのものでしょうか……。ドゥ・ワン・ソーイングほどの規模の工場であれば、ボタン付けは根巻きもできる機械を導入しているのではないかと推察します。
ボタンは薄手の白蝶貝のものを勧められたので、そちらを選択。同じ白蝶貝で2.5から3 mmほどの厚手のボタンもあり、個人的には厚手の方が高級なイメージでしたが。
袖と脇の縫い目に着目すると、袖が後付けになっているのがわかります。
写真はありませんが、脇の折伏せ縫いの幅も実寸で約2 mmと攻めた感じです。ただ、形態安定生地はハリが強いので、少しゴロゴロしそうなイメージ。同様に、形態安定生地の特性に依存してか、脇の縫い目などに少しピリが見られます。
肝心の形態安定性は……?
さて、気になるイージーケア性はどのようなものでしょうか?
ドラム式洗濯機で脱水時間を1分間に設定して洗濯し、手で伸ばしてからハンガーに吊るして干してみました。ただ、乾いたそのままの状態だと全体的にシワが目立つ仕上がりでした。スチームをしっかり目に当てるとシワが伸びるので、アイロンまでは必要がなさそうという感じです。
綿100%の形態安定生地が一般にどの程度の性能を有しているのかについて明るくはないのですが、乾けばすぐに着られるぐらいの形態安定性が理想的です。それに対し、スチームを当てる一手間が要求される本品は十分満足のいくものとはいえず、及第点といったところでしょうか。樹脂加工による形態安定性は、洗濯を繰り返すことで弱まるとされており、今後その性能がどの程度持続するのか気になるところです。
届いたシャツ – 2着目
2着目は、〈Solotex (ソロテックス)〉という合成繊維を使ったもの。
ベンガルストライプのSolotex
Solotexは〈帝人〉が開発したポリエステル繊維の一種とのことで、形態安定性に加えてストレッチ性をもたらすものとなっています。ポリウレタンを混ぜているわけではなく、ポリエステルがストレッチ性を持っているというのは画期的に聞こえます。今回の生地の場合、経糸はコットンで、緯糸がSolotexであるように見受けます。
ストレッチ性よりも、6 mmと少し太めのベンガルストライプがいいなと感じたのがこの生地を選んだ決め手でした。織りはオーソドックスなポプリンでしょうか。
縫製仕様については、1着目と同様です。上では書きませんでしたが、2着ともスプリットヨークにしていただいています。特にストライプは柄が綺麗に入りますし、緯糸にストレッチ性を持たせたこの生地の場合は運動量の面でメリットがあるのかもしれません。
1着目との顕著な違いが見られたのは形態安定性で、こちらは1着目と同様に洗濯して干したところ、ピシッと仕上がりました。ポリ混生地のなせる技でしょうか。
最後に
今回は、土井縫工所の上級グレード縫製で仕立てた形態安定生地のシャツを紹介しました。
いずれも袖を通してみましたが、手元に比較対象となる通常グレードのものがないため、プレミアム縫製による着心地の差異についてはわからず。プレミアム縫製の中で最も着心地に貢献しそうなのは袖の後付けですが、実際のところはパターンの工夫である程度袖を前振りっぽくできたりもするのだろうか、と想像すると、結局は自己満足の域に落ち着いてしまうのかもしれません。特に、Solotexのベンガルストライプの方はストレッチが効くため、縫製の如何による着心地の違いは無視できるレベルになりそうです。
なお、オンラインストアでは選べず、店舗での注文限定の縫製オプションとして、背中と袖山にギャザーを入れることもできるようです。ただし、形態安定生地との相性はよくないらしく、今回は選択しませんでした。
土井縫工所が取り扱う形態安定生地の中にもう1点気になるものがあったので、本稿の2着が届いた後にオーダーを入れました。こちらも納品されたら紹介したいと思います。
この他にも、過去に誂えた注文服を中心に、私のドレスウェアに関するエピソードを紹介しています。よろしければ、下のリンクから併せてご覧ください。
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