ここ数日暑い日が続いており、盛夏用の洋服も引っ張り出すようになりました。
そんな真夏向けに誂えたジャケットの一着がこちら。イタリア・ビエッラを拠点とする〈Fratelli Tallia di Delfino (フラテッリタリアディデルフィノ)〉の〈Aria 3.1 (アリア3.1)〉という生地で仕立てたものです。
こちらの生地、実は数年前にとある場所で投げ売りされていたものでした。今回は、そのエピソードを紹介したいと思います。
オンワード樫山の特別販売会
件の服地ですが、出会ったのは〈オンワード樫山〉による在庫生地の放出イベントでした。
主催していたのは、同社のパーソナルオーダー部門。オンワード樫山といえば、東京・新宿の伊勢丹メンズ館をはじめ、三越伊勢丹系百貨店のオーダーサロンを運営していることで有名です。パンデミックによる外出自粛の影響でオーダースーツの売れ行きが伸び悩み、生地の在庫が財務上無視できなくなってしまったのでしょうか。
このような生地の放出会は、同社の本拠地である大阪での開催が主であったようです。一方、私が足を運ぶことをできたのは、2022年の初頭に東京・芝浦で開催された会でした。Instagramの広告でこの催しのことを知り、主催者にDMで連絡を取って参加に漕ぎつけました。まだまだパンデミックの終息には道半ばだったので、少人数の完全予約制となっていました。
ボケっとしていて写真を残すことができなかったのですが、会場には大量の生地が雑然と並んでいました。2ピースにちょうど良い3 m少々の着分で売られているものもあれば、2 m弱の半端な丈のものも。さらには、数反はありそうな丸巻きされた生地のカット売りもなされていました。
オンワード樫山を含む総合アパレルは、既成服のファミリーセールを頻繁に実施していると聞きます。このイベントは雰囲気こそファミリーセールに似てはいるものの、陳列されているのはただただスーツやジャケット、コート用の生地のみ。どんな物好きが来ているんだろう、と内心楽しみにしていましたが、実際に多く見かけたのは服飾系の専門学校生のような風貌 (主観) の方々。後ほどコメントする販売価格を考えると、課題や卒業制作に使う生地にピッタリなのかも。それとは別に、1 mくらい山積みになった大量の生地を買い付けていた方も1人だけ目撃しました。個人でオーダーサロンを経営されてあるのか、それとも趣味なのか……。なお、オンワード樫山の関係者によると思しき下のInstagram投稿を見ると、会場のイメージを感じ取っていただけるかもしれません。
手に取ってみたFratelli Tallia di DelfinoのAria 3.1
そんな中、手に取ってみたもののひとつが、今回紹介するAria 3.1です。
このAria 3.1、3.2 mにカットされて販売されていました。一部では〈Ermenegildo Zegna (エルメネジルドゼニア)〉や〈Loro Piana (ロロピアーナ)〉に並び立つ名門ミルであるとされるFratelli Tallia di Delfinoの反物ながら、値段はなんと税込3,300円。東京・日暮里の生地屋で売られているような安物生地よりもさらに安い価格で入手できてしまいました。
2/2プライでしょうか。近寄ってみると結構しっかり撚られているのがわかりますが、生地の風合いはかなりソフト。イタリアっぽい生地です。目付は実測 (自宅のキッチンスケールで計量) で210 g/m。
Dots & Loopsのオリジナル (?) と思しき生地
実は、一番の掘り出し物は今回の主題であるAria 3.1ではなく、また別の生地でした。
そのひとつが、下の写真にあるツイードです。アテンドされていた販売員の方曰く、自社企画で尾州で織った生地とのこと。織元は断定されませんでしたが、〈御幸毛織 (みゆきけおり)〉か〈山栄毛織 (やまえいけおり)〉だったような…… とのこと。ビンテージ生地を再現したものと見受けられますが、しっかりと打ち込まれており、かつ滑らかな生地です。タグには「毛 100%」とだけありますが、数%カシミヤも混紡されていそうな様子。目付は、こちらも実測で460 g/m。
確証は得られていないのですが、かの赤峰幸生 (あかみねゆきお) 氏監修のブランド〈Dots & Loops (ドッツアンドループス)〉のオリジナル生地ではないか、との話もあります。こちらは2.9 mで税込2,200円。いくら処分品とはいえ、クオリティに対して破格です。手に取った時は、なんとかセットアップにできないかと思いましたが、残念ながら2.9 mだと私には手差しでも要尺が足りないとのことでした。
こんな感じで、多くの生地がメーター単価1,000円前後で販売されていました。ウールの生地が大半で、カシミヤなどの希少獣毛の生地は見かけませんでした。希少な生地は、別途生地問屋などに払い下げているのでしょう。
そしてジャケットへ
こうしたいきさつで購入した叩き売りの生地。先地での仕立てに対応してくださる、良心的かつ知識が豊富なオーダーサロンに持ち込み、ジャケットに仕立てていただきました。こちらはハンドメイドの工場ではなく、マシンメイドの工場で製作されたものです。
生地は3.2 mあり、トラウザーズとのセットアップを仕立てるのに十分な尺はありました。しかし、トラウザーズは不要と判断。余った生地は今も自宅の倉庫で眠っています。
かなり薄くて柔らかい生地ですが、シャツジャケットのごとく芯地をミニマムにした作りとしていただいています。それを前提とした仮縫いフィッティング後の補正、そして工場への指示は大変難しかったと伺いました。
肝心の涼しさは…… というと、これが不思議で、目付が倍近く異なる下のジャケットとそれほど変わらない印象。生地は薄いですが、着ている分には特段の涼しさを感じないような気がしています。側から見ている分には、薄手で涼しそうには見えるのですが。
上でも触れたように、やや強撚っぽくはあるのですが、吊るしておくだけでシワが目立たなくなるほどの耐シワ性はありません。もちろん、スチームを当てればすぐに綺麗にはなります。
なお、掘り出し物のツイードの生地は、下のようにトラウザーズになりました。
最後に
今回は、盛夏用のジャケットを引っ張り出したことをきっかけに、パンデミック中の少し変わったイベントについて触れてみることにしました。
この特別販売会、私が参加したものの次の会を最後に開催が途絶えてしまっています。あわよくばリピートをと目論んでいた手前残念ですが、セールがないというのはオーダースーツの売れ行きが盛り返しつつあることの兆候だと、ポジティブに受け取っておこうと思います。
この他にも、過去に誂えた注文服を中心に、私のドレスウェアに関するエピソードを紹介しています。よろしければ、下のリンクから併せてご覧ください。
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