急に気温が上昇した、先週末。

先日紹介した〈Valstar (ヴァルスター)〉の〈Valstarino (ヴァルスタリーノ)〉に続き、急ピッチで春物の衣類を引っ張り出しています。
春物の衣類といえば、私の手元に数ある春夏の洋服のなかでも、個人的に最も「格好いいな」と感じる一着があります。それが、下の写真のジャケットです。

この「格好いい」は「気に入っている」や「思い入れがある」とはまた違った感覚で、洒落者っぽい雰囲気が漂っている、とでもいうのでしょうか。
ドレスウェアは注文服をメインに紹介している本Webサイトですが、こちらは吊るしの洋服です。プロデュースは〈Camoshita United Arrows (カモシタユナイテッドアローズ)〉によるもの。大手セレクトショップ〈United Arrows (ユナイテッドアローズ)〉で長年ディレクションを担ってこられた、鴨志田康人 (かもしたやすと) 氏の名前を冠したレーベルです。

購入したのは、かれこれ10年以上前のこと。セールか何かで安くなっていたものを衝動的に購入したのですが、当時はあまり良さがわからず、ほぼ眠ったままの状態となっていました。ふと手に取ったときにその魅力に気付いたのが数シーズン前。以降、好んで着用するようになりました。
今回は、そんな「雰囲気のあるリネンジャケット」を紹介していきたいと思います。
生地について
過去の投稿に倣い、まずは使われている生地に着目してみます。
多色のウィンドウペーンがあしらわれた、リネン100%の生地となっています。薄茶色のベースに滲んだようなブルーが乗っていますが、これも一種のマドラスチェックと呼べるのでしょうか?

ジャケット用、シャツ用にせよ何にせよ、リネンといえば平織で織られているものが多くはないでしょうか。冒頭でも触れたリネンのValstarinoも、同様に平織の生地が使われています。

翻って、このジャケットの生地をつぶさに見ると、その組織は2/2の綾織となっているようです。平織よりもやや目の詰まった感じがあり、ちょうどこの梅春の時期、あるいは秋口にちょうどいい風合いではないでしょうか。

既製品ということもあり、生地の出自などは不明です。そもそも、購入当時はそこまでこだわって洋服を選んでいなかったということもあります。目付は300 g/m弱くらいかなという印象。
仕立てに着目
前述のとおり本品は既成服ですが、なかなかどうして手の込んだ一着となっています。
趣向を凝らしたコンストラクション
上の写真に見られるとおり、3パッチポケットの柄合わせが完璧なのは当然のこととして、各ポケットの縁に手縫いで閂 (かんぬき) が施されています。

フラワーホールや前身頃のボタンホールも手縫いとなっています。一方、袖のボタンホールは費用をケチってミシン仕上げにしてしまいました。

古いのに今っぽい、フィレンツェ様式の面構え
こちらは2010年代前半に展開されていたものだったと記憶していますが、いい意味で中庸であり、今見ても古さを感じません。ラペル幅が8 cmやら7 cmやらといったものが席巻していた時代ですが、本品は王道の8.5 cmとなっています。なお、ラペル幅については、細いラペルの幅を出すお直しについて下の記事で紹介しています。
直上の写真からも垣間見えますが、前身頃のダーツを廃したフィレンツェ様式の作りとなっています。脇下のダーツが前身頃側に振られていると同時に、細腹のないいわゆる2枚裁ちとなっています。胸にダーツを通し、細腹を設けて3枚裁ちにするよりも生地の要尺や製造の手間が増えるので、既成服にしては贅沢な仕様です。

これは、柄の連続性を保つための工夫なのか、はたまたCamoshita United Arrowsがサルトリアフィオレンティーナを積極的に踏襲しようとしているからなのでしょうか。Camoshita United Arrowsというブランドに関する知識はありませんが、件の鴨志田氏がフィレンツェの名門〈Liverano & Liverano〉の洋服を愛用しているという話は色々なところで見かけます。

下の洋服は、フィレンツェの某サルトリアによって仕立てられたジャケットですが、ラペルの雰囲気やフロントカットなど、本品と通じるところがあるように感じられます。

下の記事でも書きましたが、ここ最近日本のファクトリーによるフィレンツェ様式の提案が多く見られます。そうした点が、10年以上昔の既成服ながら「今っぽさ」を感じる要因なのかもしれません。
そして、フィレンツェの洋服の多くに見られるように、肩山にはギャザーは入っていません。

個人的には雨降し袖、すなわちManica a mappina (マニカマッピーナ) として柔らかさを出しもてよかったのではという気もします。
本品の購入当時は歯牙にも掛けなかったポイントばかりですが、洋服のコンストラクションや仕様に興味を持った今、改めてみると手の込んだ一着だなと感慨深い限りです。Camoshita United ArrowsはMade in Japanを前面に押し出したブランドとのことですが、こちらのジャケットはどちらの工場で作られているのか興味があります。
着てみた
そんなこんなで、急に気温が上がった先週末、こちらのジャケットに袖を通して街に繰り出してみました。
コーディネートが重たくなると秋っぽい雰囲気が出てしまいかねないので、生成り色のニットポロシャツを差し込んでみました。トラウザーズも目付が軽く、明るめな色彩のものを選択。

秋であれば、ダークトーンのインナーや無彩色のトラウザーズとのペアリングもいいのですけどね。

上のコーディネートで組み合わせたトラウザーズは、下の記事で紹介しているものです。
何層にも重ねられた格子柄には淡い青のものも含まれているので、ブルージーンズとも親和性が高そうだなと感じました。
最後に
今回は、私の春夏のワードローブの中で最も男前なジャケットを紹介しました。

大きな柄が入った生地については、バンチブックの小さなスワッチだとなかなか完成形のイメージを掴みづらく、なかなか自信を持って選ぶことができません。過去に紹介した下の洋服は4 x 5 cmの升目のウィンドウペーンですが、こちらは着分の生地を見ることができたので、仕上がりの予想ができました。
雑な仕上がりですが、本品を写した写真を、一般的なバンチブックに掲載されている生地スワッチと同寸になるように切り出してみました。スワッチで見るとどことなく地味に感じてしまいます。

そうした点では、ジャケットの形をして店先に並んでいる既製品だからこそ手にすることができた一着となりました。衝動買いした当時はあまり活用できなかったということはあれども、どこかに光るものを見出せていただのかもしれません。
この他にも、過去に誂えた注文服を中心に、私のドレスウェアに関するエピソードを紹介しています。よろしければ、下のリンクから併せてご覧ください。

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