仕事における装い方が変わったためか、ここ2, 3年、めっきりドレスシャツを着なくなってしまいました。
気づくと、最後にドレスシャツを入手したのは遥か昔、パンデミックが火蓋を切ったのよりも前。一部のシャツは少しくたびれ感が目立つようになってきたというのもあり、久しぶりにドレスシャツを一着仕立てました。
選んだ生地
ものぐさな性格の私は、ドレスシャツのアイロン掛けがあまり好きではありません。クリーニング店に外注しようにも、残念ながらシャツをハンドアイロンで丁寧に仕上げてくれるようなこだわりのある店は近所にありません。昔住んでいた場所では、そうした個人営業のクリーニング店によくお世話になったものなのですが。
こうした理由で、手を伸ばすのはいつも形態安定系のシャツばかり。舶来の高番手生地でもドレスシャツを仕立てはしたものの、洗濯もアイロン掛けもとにかく面倒。そのため、よほど特別なオケージョンでない限り出番が巡ってくることはありません。軽めの脱水で洗ってハンガーに吊るしておけばそのまま着られる、という利便性には何事にも代え難いものがあります。
Thomas Masonの「Downing」
そうした中、Thomas Mason (トーマスメイソン) のシャツ生地ラインナップの中に、「Journey (ジャーニー)」というコレクションがあることを知ります。その名が示唆するとおり、旅先でも気兼ねなく使える程度に耐シワ性が高い、ということでしょうか。
一方、当時は手持ちのベンガルストライプのシャツを入れ替えたいと考えていた折でした。そこで、Journeyコレクションの中からベンガルストライプの生地を探してみたのですが、どれもストライプのピッチが細め。私が求めていたイメージとは異なるものでした。
ならば代わりに、と提案いただいたのが、今回選んだ「Downing (ダウニング)」というコレクション。Journeyほどとはいかないものの、多少の形態安定性があるとの話でした。英国首相官邸の代名詞でもあるロンドンの「Downing Street (ダウニング街)」に名を借りたこのコレクション、収録されているのは私が選んだような少し太めのベンガルストライプばかりです。
ビビッドなストライプ
このDowningですが、他のシャツ生地よりもストライプがビビッドで浮き立ったように見えます。
下の写真は、Downingと手元にあった他のベンガルストライプのシャツを比較したもの。比較対象のシャツがどのような生地で作ったのかは記録が残っていないのですが、見た感じピンポイントオックスフォードか何かのようです。Downingとの比較に資するか微妙なところですが、そこは甘めに見てください……。
向かって右手側の別のシャツ生地の方は、紺色のストライプの上にポツポツと現れる白い緯糸が目立ちます。一方、向かって左手側のDowningのストライプは、ソリッドな紺色に見えませんか?これは生地の織り方に理由があるようで、Downingは経糸に120番手の双糸を使用しているのに対し、緯糸は70番手の単糸を使うポプリンであるとのこと。緯糸が相対的に細く、かつ経糸が緯糸よりも密に打ち込まれているので、白い緯糸が目立たないということでしょうか。Downingのこうした特徴は、シャツ生地のバンチブックを何冊か捲っている中でも、顕著に感じるものでした。
完成したシャツ
最後に、仕上がったシャツを少しだけ。
今回仕立てたシャツは全てミシンで仕上げていただいたものですが、裁断後は1人のシャツ職人が自宅の工房で丸縫いしてくださったもののようです。イタリア・ナポリのカミチェリアを彷彿とさせられる製作体制です。
いくつかのディテール
襟型は、このご時世に至っては時代遅れ感のあるワイドスプレッドにしました。タイドアップして着用する機会が少なそうなので、ネクタイをしない時の襟の収まりを重視して。シャツ全体を見ても、上で言及したストライプのビビッドさが伝わります。
背中にはギャザーを。雰囲気を楽しむ、というよりは、洗いざらしで着ようとしたときにシワが目立ちにくくできるかな、という狙いで入れてみました。縫製難易度は顕著に上がり (職人さん談)、工賃も若干アップしましたが、これが吉と出るか狂と出るか。
袖を通してみて
袖を通してみると、こんな感じです。
タイドアップしてみて
そして、普段滅多に着ないスーツと、あまり締めないネクタイと共に着用してみました。
併せたスーツは、下の記事で少しだけ言及したエスコリアルウールの三つ揃え。時候を無視して思いっきり秋冬のスーツですが、そこはご愛嬌ということで。
やはり、襟の角度が今の気分とは異なるのが少し気になります。1着のシャツで欲張ってタイドアップ・アンタイド両方を狙うのではなく、タイドアップする時は専用の襟型のシャツを用意しておくべきだと感じます。
最後に
今回は、最近誂えたドレスシャツについて取り上げてみました。
注文時に重視していた耐シワ性ですが、結論としては期待外れでした。ドラム式洗濯乾燥機で弱めに脱水して (所有する洗濯機にて設定できる最小の脱水時間が1分なので、1分に設定)、干す際にはシワを伸ばして形を整え、厚手のハンガーに吊るしたのですが、ちょっとこのまま人前に出るのは憚られるな、というシワ具合。ハンドスチーマーでも十分にシワを取ることはできなかったので、結局アイロンを引っ張り出す結果となりました。Downingに高い形状安定性を求めてはいけないようです。
また、背中にギャザーを入れたからといって、背中に多少シワが残っていても誤魔化せるというものでもなさそうです。そもそも、ヨークに入ったシワはギャザーによるごまかしは効かないですし。しっかりとアイロンを掛けてこそ、ギャザーがデザインとして引き立つのかもしれません。
この他にも、過去に誂えた注文服を中心に、私のドレスウェアに関するエピソードを紹介しています。よろしければ、下のリンクから併せてご覧ください。
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