つい先日のことですが、下のイベントに足を運んでみました。
国内随一のスーツファクトリー〈RING JACKET〉のオーダー会開催
2024.08.02
1954年、大阪にて『注文服のような着心地の既製服』というコンセプトのもとに設立された国内屈指のスーツファクトリー〈RING JACKET(リングヂャケット)〉。今日に至るまで立体的かつ着心地の良い服を作り続け、現在では世界中のウェルドレッサーに愛されています。
出典: https://www.beams.co.jp/news/2597
この度、「ビームス ハウス 丸の内」にて〈RING JACKET〉のオーダー会を開催いたします。
〈Brilla per il gusto〉オリジナルモデルと〈BEAMS F〉オリジナルの”フィレンツェモデル”をベースに、スーツとジャケットをお作りいただけます。幅広い生地の中からお好みをお選びいただき、体系補正の細かいリクエストも可能です。 自分だけの特別な一着を、この機会にぜひお作りください。
セレクトショップ〈Beams (ビームス)〉による、洋服のオーダー会です。なかでも、Beamsが大阪の紳士服メーカー〈リングヂャケット〉から供給を受けているスーツやジャケットのパーソナルオーダーを主旨とする会のようです。
結果、ただの冷やかしになってしまったのですが…… 調べたことや感じたことを取り留めのない雑記にしてみました。いつもに輪をかけて体系的でない内容で恐縮ですが、もしご関心があればお付き合いください。
Beamsとリングヂャケット
Beamsとリングヂャケットといえば、数年前からよく話題に上るようになった〈Beams F (ビームスF)〉レーベルのハンドメイドラインの洋服。
Beams Fのハンドメイドライン
その名が示唆するように、手縫いの割合を増やして特別感の醸成が図られている商品ラインのようです。店頭で何度か拝見する機会はありましたが、残念ながら、私はこれまで購入に至ったことはありませんでした。
従来、Beams Fのスーツは岩手の〈東和プラム〉ジャケットは岡山の〈創作屋〉が中心となって供給しているようです。どちらも技術力に定評のある工場ですが、リングヂャケット製のハンドメイドラインがさらに上位カテゴリの位置付けになるのでしょうか。
手縫いの割合を増やすとはいえ、ジャケットに関してはフラワーホールと身頃のボタンホールが手かがりとなり、かつ上襟 (カラー) が梯子掛けになっている程度の模様。肩や袖山のイセの量、手の込んだ芯据え、上襟の縁の字の目を通しているか、または後身頃のクセ取りの具合といった点も手縫いの洋服のキモになってくるかと思うのですが。
スーツのトラウザーズについては、閂 (かんぬき) 止めが手縫いになっていたような。
フィレンツェスタイル
前述の手縫い箇所のようなディテールではなく全体像に目を移すと、フロントダーツを廃し、サイドダーツをやや前身頃側に振ったサルトリアフィオレンティーナの様式を採用しているのが特徴的。
細腹がない分、縫製難易度が上昇したり、生地の歩留まりが下がったりと、コスト上昇に直結しそうな仕様です。
フィレンツェスタイルといえば、リングヂャケットや東和プラム、創作屋に並び立つ有力なファクトリーである、東三河は豊橋の〈アルデックス〉や、アルデックスと取引していると思しきオーダーサロンからも見かけるようになりました。最近の流行りなのか、はたまた他のファクトリーとの差別化狙いなのか。
オーダー会に期待していたこと
こんなことを考えつつ、件のオーダー会に出向くこととしました。事前に、下のインスタライブのアーカイブで軽く予習もしておきました。
パターンと縫製グレードの違い?
最も気になっていたのは、パターンや縫製グレードの点で既製品との差分がどのくらいあるのか?という点。どうやら、リングヂャケット直営のパーソナルオーダーと足並みを揃えていることが要因のようなのですが、オーダー価格はBeamsで取り扱われているリングヂャケット製の既製品と顕著に乖離しています。これだけ価格が異なるので、寸法調整や体型補正を超えた付加価値があったりするのだろうかと考えた次第です。
インスタライブで登場した生地とそのオーダー予算
ところで、上のインスタライブでは、フランスの名門マーチャント〈Dormeuil (ドーメル)〉の〈15.7 8 Ply (フィフティーンポイントセブン エイトプライ・15 Point 7 8 Ply)〉という生地で2ピースを誂える際のオーダー価格は486,000円 (外税) だと言及されています (先頭から28分頃)。
この15.7 8 Plyですが、生地問屋の〈鷹岡〉によるDormeuilの生地コレクション〈Masterpiece (マスターピース)〉に採録されている生地で、実は私も某所でオーダーし、現在納品を待っているところです。こちらのコレクション、当初は某百貨店のオーダーサロンのエクスクルーシブで企画されたらしいのですが、現在は他でもちらほら見かけるようになりました。
この生地、確かにとてもいい生地だと思いますが、税込で50万円の予算があれば手縫いの職人によるMade-to-measure (MTM)、場合によってはビスポークも視野に入ってきそうな気がします。そうしたことから、既製品よりも数段上の仕立てが期待できるのではないか…… と期待したワケです。
なお、2ピーススーツの基本価格が297,000円 (ややこしいですが、こちらは内税) とのことなので、税抜で216,000円のアップチャージとなります。要尺が3 mだとして、アップチャージ分を単純に要尺で割って導かれる生地のメートル単価は72,000円 + 税 (基本価格に生地代も多少含まれていると想定されるので、実際の生地単価はもう少し高いはず)。販路や上代設定の如何にもよるとは思いますが、この生地、そこまで高価ではないイメージですが……。これだとエスコリアルウールよりも高額なのでは。
訪問して分かったこと・感じたこと
訪問してわかったのは、パターンや縫製グレードは既製品と同じだということ。前述のようなコンストラクションの違いがあるのかと期待していましたが、そうではないようでした。
界隈を景気づける、付加価値の高い商品開発
個人的には肩透かしとなりましたが、オーダー会自体は大変盛況とのことで、初日は悪天候ながらも多くの方が注文に訪れていたとのこと。私は、マシン工程ベースで直縫いのMTMに30万円以上を費やす気にはなりませんが、Beams x リングヂャケットの型紙や雰囲気に魅了されたファンの方が少なからず存在するようです。
全体的に皮肉めいた口調になってしまっているのは私の不徳のいたすところですが、「中身の割に不当に高すぎるだろ」などとなじる意図は毛頭ありません。Beamsやリングヂャケットが付加価値の高い商品を開発し、それが消費者にしっかりと評価されているのを見るのは、ひとりの洋服好きとして非常に喜ばしいことだと感じます。数年前に、帝国データバンクでリングヂャケットの決算情報を閲覧してみたことがあります。単年の数字を見たのみですが、利益率という点では苦戦しているような印象を受けました。今回のような企画を経て、日本の有力ファクトリーの国際競争力に一層弾みがつけばと願う次第です。
オーダーが高価なのではなく、既製品がお値打ち?
もしかすると、パーソナルオーダーの商品が高いと見るのではなく、既製品が大変お値打ちということなのかもしれません。ちょうどシーズン立ち上げ時期のためかWebに商品情報が掲載されていないのですが、店頭で見かけたBeams Fのハンドメイドラインのガンクラブプレイドのジャケット、12万円ながら雰囲気があっていいなと思いました。この辺りは、全国に店舗を持つ大手のアパレルチェーンによるバイイングパワーが成せる技ですかね。
スクリーンショット出典: https://www.beams.co.jp/item/beamsf/jacket/21160585015/ (2024年10月取得) Beams Fのハンドメイドラインの既成ジャケット
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