フォーマルな夜会でダークスーツを装う

私ごとですが、昨年末にとあるパーティーに参加する機会がありました。

それは、結婚式や結婚披露宴への参列を除けば、「ダークスーツはどのように装うべきなのか」について考えさせられた初めての機会となりました。婚礼に招かれる場合であれば、ダークスーツとシルバーのオッドベスト…… とある程度相場が決まっていますが、婚礼ではない夜会のダークスーツはどうあるべきなのか。

結局、私も自信のある答えに辿り着いたわけではないですが、招かれた経緯や私なりの当日の装い (再現) について紹介したいと思います。

カクテルレセプションへの招待とドレスコード

さて、件のパーティーですが、とある繋がりがきっかけで、とある欧米系の組織から招かれたものです。ただし、紙・電子メールも含め招待状のやり取りは行ってもいません。

一方で、招かれたのは夕方のカクテルレセプション。今回の招待元の性格に鑑みると、ある程度フォーマルな場となることが予想されました。招待状は受け取っていないので、正式にドレスコードを通知されたわけではありませんが、ダークスーツが適切だろうと判断したという次第です。

もし、招待状にドレスコードの記載があったら?

ここまで述べたとおり、私はこの手の夜会に参加し慣れているわけではありませんが、特に招待状をもらった際のドレスコードの考え方は下のようなものだと踏まえています。

例えば、夕方に開催されるパーティーの招待状に「平服でお越しください」というドレスコードの記載があれば、ダークスーツは無難なオプションとなるはずです。もちろん、個々の催しのフォーマルさにも依存するものであり、ダークスーツだとドレッシーすぎる結果になる可能性も否定できません。しかし、格式の高い場にカジュアルな装いで出向き、ホストや他の参加者に失礼となるよりはマシでしょう。

英語の招待状だと「Business attire」が上の「平服でお越しください」に相当するといえるはず。「Black tie optional」とあれば、私ならダークスーツで間違いなしと判断します。もちろん、ディナースーツ (タキシード) も選択肢に上ります。「Black tie preferred」になれば、私はディナースーツを着たいですね。

初めての出番となった、ミッドナイトブルーのスーツ

あまり社交的ではない私にとって、こうしたイベントはやや腰が重く感じるところもあるのですが、ひとつだけ気持ちを前向きにしてくれる要素がありました。それは、パンデミックの最中に仕立てたスーツが、ようやく日の目を見るということ。

そもそも、このスーツを発注したのは2019年の暮れでした。そこからパンデミックに突入してしまい、仮縫い・中縫いのフィッティングもままならず。そして、1年以上かけて完成するも、着る機会もやってこず。足掛け5年かけて、ようやく活躍の場が巡ってきたわけです。

それが、こちらのミッドナイトブルーのスーツ。ダークスーツとして装うつもりで作ったものですが、袖山の雨降らしやラペルのピリに一癖感じる一着。生地は出自不明 (覚えていないだけ) ですが、ドレスアップのニーズに応えてくれる上質な光沢を湛えています。

ミッドナイトブルーのスーツのジャケット
ミッドナイトブルーのスーツのジャケット

非常にドレッシーな風格なので、ビジネスの場面には非常に似つかわしくない一着です。

Vゾーンをどうするか?

上のとおり、過去に仕立てたダークスーツの出番がやってきたことは喜ばしいことですが、問題となったのはVゾーンをどのようにするか。

ドレスシャツは、ダークスーツ同様ハレの場のために準備しておいた (そしてほとんど出番のなかった)、200番手で四子糸 (4プライ) のシャツを選択。ネクタイは色・柄などどうすればいいのやら、と迷い、Googleで見つかる文献に目を通してみましたが、要約すると「明るすぎない色合いで、柄は無地もしくは保守的なもの」が望ましい模様。

ネクタイの選択

私が考えるに、柄については無地やドットが無難でしょう。トーンオントーンの織柄のペイズリーなどもいいかもしれません。逆に、小紋や織柄ではないペイズリーなどは、フォーマルな場には向かないのかなという気がします。ストライプのタイは日中のフォーマルウェアに取り入れられることもあるので、どう判断するか迷うところです。ただ、国際的な場においては、少なくとも自分の出自に関係のないレジメンタルタイは避けた方がよいはず。

また、ネクタイは生地の織られ方にも注目する必要があるはずです。スーツやドレスシャツの生地にも光沢感があることが前提となりますが、ネクタイもそれに調和して光沢のあるツイルやサテンなどを選ぶのが望ましいかと思います。

なお、ダークスーツの装いに関して、かの落合正勝氏は著書で下のような見解を示されています。

第2章でも触れたが、クラシックなダークスーツに白または淡いプルーの無地のワイドスプレ
ッドのシャツ、黒のストレートチップ、紺地に白のピンドットのネクタイをコーディネイトすれ ば、世界中どこのパーティであろうと通用する。自信がなくても、そのスタイルで党々と闊歩すれば自信らしきものはつく。

落合正勝、新版 男の服装術、株式会社PHP研究所、2004年、ページ231

当日の装い (再現) と他のオプション

これらの見識を踏まえて、当日はこんな感じで装うことにしました。
(当日に撮った写真ではなく、後日その格好を再現して撮ったものです)

ミッドナイトブルーのスーツに、ネイビーのピンドットタイを添えて
ミッドナイトブルーのスーツに、ネイビーのピンドットタイを添えて

タイは、無難にネイビーのピンドット。英国の「Drake’s (ドレイクス)」によるもので、同ブランドの定番であり、英国の「David Evans (デイヴィッドエヴァンス)」で製造される50オンスヘビーツイルが使用されたものです。生地の特長であるハリと光沢が、ダークスーツの装いにピッタリです。

ポケットチーフも、王道的な白のリネンを選択。

ミッドナイトブルーのスーツに、ネイビーのピンドットタイを添えて
ミッドナイトブルーのスーツに、ネイビーのピンドットタイを添えて

足元は、クォーターブローグのオックスフォードシューズ。今回のような場であればブローギングの無い靴の方が正統なのでしょうが、「ストレートチップ」と呼ばれるような飾りなしのキャップトゥオックスフォードが手元になく、こちらで対応しました。当日は事前にプロの手でハイシャインにしていただいたのですが、下の写真では既に落としてしまっています。

ミッドナイトブルーのスーツとクォーターブローグのオックスフォードシューズ
ミッドナイトブルーのスーツとクォーターブローグのオックスフォードシューズ

フレンチカフのドレスシャツには、アメジストのカフリンクスを装着。

ミッドナイトブルーのスーツと、アメジストを冠したカフリンクスをコーディネート
ミッドナイトブルーのスーツと、アメジストを冠したカフリンクスをコーディネート

夜会のダークスーツはブラックタイ (ディナースーツ) からフォーマル度合いを一段落としたものと考えると、オニキスのカフリンクスが最もしっくりくるのでしょう。しかしながら、オニキスのカフリンクスが手元になかったため、こちらで代用しました。

Vゾーンについては、無地のバーガンディーも捨てがたいところです。ただ、色味が難しいところで、明るい色だと某国の前大統領を彷彿とさせるものになってしまいます。

ミッドナイトブルーのスーツに、ダークバーガンディーのソリッドタイを締める
ミッドナイトブルーのスーツに、ダークバーガンディーのソリッドタイを締める
ミッドナイトブルーのスーツに、ダークバーガンディーのソリッドタイを締める
ミッドナイトブルーのスーツに、ダークバーガンディーのソリッドタイを締める

もしくは、無地のダークネイビー。ただ、これだと少しストイックすぎる気もします。

ミッドナイトブルーのスーツに、ダークネイビーのソリッドタイでストイックな装い
ミッドナイトブルーのスーツに、ダークネイビーのソリッドタイでストイックな装い
ミッドナイトブルーのスーツに、ダークネイビーのソリッドタイでストイックな装い
ミッドナイトブルーのスーツに、ダークネイビーのソリッドタイでストイックな装い

現地の列席者の装いは?

最後に、当日の列席者の装いはどのようなものであったのかについて、軽く触れてみたいと思います。

まず、ホストであった取引先の面々は、上席の方はディナースーツを、他の方はダークスーツを着用されていました。私と同様に招かれた日本の方は、黒のスーツだったり、普通のビジネスシーンで着るようなスーツの装いの方が目につきました。ごく少数、タイを締めていない方がいました。これは少しいただけないですね。

見た目から欧米系の方かな、と思しき方々については、ボウタイの着用率が高かったのが興味深いところです。ビジネススーツにボウタイ、チェックのシャツにボウタイ、といった装いが見受けられました。

女性の場合、日本の方と思しき方はカクテルドレスよりもおとなしめのワンピースを着ている方が多かった印象。

最後に

私自身が必要に迫られたことをきっかけに、ダークスーツの装い方について考えをまとめてみました。

その装いにはある程度決まりきったお作法があるだろうと考えたものの、特に日本語においては教科書的な情報が見つからないのが意外でした。この記事が、私と同じような境遇に置かれた方に、有益なインスピレーションをもたらすことができればうれしく感じます。私自身も今回の経験を通じて、上の落合氏の提言どおり自信らしきものはつきました (それほど堂々と闊歩していたわけではありませんが……)。

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