3プライウールモヘアのトラウザーズ。その生地について

今年の春夏シーズンに合わせて仕立てていただいた、ウールモヘアを使用したトラウザーズ。

ハイツイストのウールモヘアを使用した春夏向けトラウザーズ

余分な前置きは無しにして、早速ご紹介したいと思います。

パリッとしたハイツイストの生地

冒頭で触れた生地感について踏み込んでみます。

ジャンルとしては「ポーラー (Poral)」や「フレスコ (Fresco)」と呼ばれるハイツイスト (強撚) の平織りの生地。このジャンルだと、フランスの「Dormeuil (ドーメル)」による「Tonik (トニック)」が定番ですが、それに勝るとも劣らない程度にパリッとした生地です。
(クラシックなTonikを意識した対比。近年はTonik 2000やらTonik Woolやら派生品がさまざまありますが……)
詳細は不明ながら、目付は360-400 g/m (ダブル幅の幅なりで) ほどありそうな、ヘビーな春夏生地です。

残念ながら、モヘアの混率など詳細なスペックは不明です。注文前に、「3プライっぽい」といった話をしていたような記憶だけが残っています (生地の耳に書いてあったのだろうか……)。

モヘアの光沢感と、若干のパリッと感を覚えるテキスタイル
この角度からも、生地のコシが伝わってくる

このジャンルの生地については、大御所メディアであるParmanent Styleさんがまとめ記事を作成されています。

Permanent Style
A guide to high-twist bunches

かつて英国にあった「Boobros」というミル

この生地を織ったのは、Boobros (ブーブロス) という今は無き英国のミルのようです。

私は店先にあった着分の生地を拝見し、トラウザーズの製作を注文しました。生地問屋のデッドストックが、たまたま取り寄せられたような状況だったのでしょう。

このBoobros、調べてみても日本のパターンオーダー業者のブログ記事などが数件ヒットする程度で、英語の文献にすら巡り合うことができません。インターネットの普及以前に、廃業の憂き目に遭ってしまったのでしょうか。

Boobrosの織りネーム。珍しいので無理を言って縫い付けていただいた

少しググって得た程度の内容ですが、Boobrosという商標はかつて英国・ブラッドフォードに存在した「Ibatex Fabrics Limited」という企業が所有していたようです。地元紙によると、この企業もやはり閉業して長らく時間が経っているとのこと。この記事に同社の関係者を名乗る方がコメントしているのが興味深いのですが、同社はモヘア混の生地に力を入れていたことが示唆されています。

Explorer finds 'fascinating' items inside 'creepy' 19th-century Bradford mill
AN URBAN explorer stepped back in time after making his way into a disused mill in Bradford – finding some interesting t...

ウールモヘアのポーラーをプロデュースする競合には、TonikのDormueilや「William Halstead (ウィリアムハルステッド)」といった名前が挙がるところですが、そうしたメーカーとの競争に打ち勝てなかったのでしょうか。

カラフルな杢糸による味わい深さ

さて、ふたたび生地の風合いに着目して見たいと思います。

こちらの生地、遠目には灰色っぽく見えるのですが、近寄ると経糸のネイビーが際立ってきます。

前立て付近に寄ってみる

加えて、赤や緑、黄といった色が浮かんできます。さらにクロースアップしてみると、そうした色に染まった糸が緯糸に撚られているのが見て取れます。

生地にクロースアップ (約3 x 2 cm)
さらに生地にクロースアップ (約0.75 x 0.5 cm)

このような杢の入り方は、私はあまり他では見たことがありません。少量の糸をトップ染め、かつ多色で用意しなければならないと考えると、贅沢な使用だと感じます。遠目で見た時にどういった効果を及ぼすのかは不明ですが、何かしら生地の雰囲気に深みを加えてくれているのでしょうか。

履いてみた

試しに、このトラウザーズをややざっくりとしたニットポロと合わせてみました。ニットポロの裾はタックインさせつつ、トラウザーズのウェスマンにやや被せています。

ニットポロを組み合わせて

生地のハリに加え、パターンと仕立ての良さも相まって、比較的シルエットが綺麗に出ているのではないかと自己満足しています。

このトラウザーズと同時に仕立てていただいた、同じくウールモヘアのジャケットと。生地の風合いや目付が互いに似通っていて、セットアップのジャケパンとして重宝できそうです。

ウールモヘアのジャケットを合わせて

最後に

今シーズン仕立てていただいたトラウザーズについて、特に生地の雰囲気や出自に着目して紹介しました。

特に夏場はもう少しウェイトの軽いものを履きたくなりがちですが、気持ちを引き締めるにはこんな生地のトラウザーズに手を伸ばしたくなります。しかしながら、今年の異様な猛暑の前には、このトラウザーズの着用はしばしの間お預けとなってしまいそうです……。

コメント 本記事の内容について、ぜひ忌憚なきご意見をお寄せください。

  1. 萩原理人 より:

    いつも楽しく拝読させていただいております。
    トラウザーズのオーダーに関しても生地の考察から着用例まで興味深いものがありました。

    ところでお手すきの際に腕時計についてもご紹介ください。

    • navycircle navycircle より:

      コメントをいただき、ありがとうございます。
      いつも当サイトをご覧いただいているとのこと、大変嬉しく思います。

      実のところ、私は時計については服や靴ほど知識がないため、しっかり勉強したうえで何かご紹介できればと思います。ほどほどにご期待いただけますと幸いです。