私の愛用品 (15) The Inoue Brothers…のワッフルTシャツ

大変季節外れの話題なのですが、今回は私の「冬場のユニフォーム」とでも言うべき定番アイテムについて触れたいと思います。

咲き始めの梅の花

早速ですが、それがこちら。〈The Inoue Brothers… (ザイノウエブラザーズ)〉によるワッフル生地のTシャツです。セットインスリーブでクルーネックの、何の変哲もない長袖Tシャツ。

The Inoue BrothersによるピマコットンのワッフルTシャツ
The Inoue BrothersによるピマコットンのワッフルTシャツ

「冬場のユニフォーム」とはいうものの、それは単に私がそのように活用しているだけであり、実際には例年春夏シーズンに展開されているアイテムです。そこで、春夏の洋服が徐々にリリースされているこのタイミングで取り上げることにしました。

冬場の屋内でちょうどいい保温性

多くの家庭と同様、我が家も冬場は暖房に頼りがちです。そうした中、私はどちらかというと暑がりで、それでいて暖房の温度設定に関する意思決定権が弱いため、いつも自宅の室内はやや暑く感じるものになりがち。

肉厚なワッフル生地

そんな中で、ワッフル地のTシャツといえば、古くは寒冷地を任地とする軍隊向けに「サーマルウェア」すなわち高い保温性を有するインナーウェアとして広まったという歴史を持ちます。

独特な升目状の凹凸を持つワッフル生地。「ワッフル」という同じ名称、そして同じ風合いながら、布帛 (織物) のものとニット (編物) のものが存在するというのもまた独特です。地の目を眼で辿ってみましたが、こちらのTシャツはニットのものだと思われます。

The Inoue BrothersによるピマコットンのTシャツ。ワッフル生地のボディ
ワッフル生地のボディ。布帛ではなくニットだと見受けられる

The Inoue Brothers…によるこちらのTシャツにおいて特筆すべき点は、Tシャツ1着の重量が480 g (手元の個体の実測) と非常に肉厚であること。500 mlの水が入ったペットボトルと大差ありません。目付に関しては、Tシャツに対して使われる「オンス毎平方ヤード (oz/yd2、単にオンスとも)」でいうと、12オンス前後でしょうか。5オンス程度がTシャツの一般的な目付だとされるなか、もはやスウェットとも謙遜ない、かなり重めのウェイトです。

使い勝手の良さから色ち買いへ

普通のTシャツ1枚だと肌寒く、かといって重ね着すると暑い。そんな私にとっては、冬場の部屋着として非常な快適なトップスとしてどハマりしました。

自宅で過ごす際には、これ1着で暑すぎず寒すぎずちょうど快適。なんだかんだで色ち買いし、今や手元にマスタードイエロー (黄色) は3着、黒は2着。丸1週間、余裕を持ってローテーションを組めるようにまでなりました。なんなら長袖だけでなく半袖のものもありますが、半袖のものはほとんど着ることはありません。

The Inoue BrothersによるピマコットンのワッフルTシャツ。黒・白・マスタードイエローを色ち買い
黒・白・マスタードイエローを色ち買い

入手したシーズンによって多少シルエットが違ったりするのですが、あまり気にせず着用しています。難点を挙げるとすれば、吊り干しすると生地が伸びてしまいそうなこともあり、平干しのスペースを確保するのに毎回苦労する点でしょうか。厚手なので一見乾くのに時間がかかりそうですが、サーキュレーターで風を送ると数時間で乾きます。

サステナブルなペルー産のピマコットン

ところで、The Inoue Brothers…といえば、南米ペルー産のアルパカの毛を使ったファッションアイテムが有名です。

The Inoue Brothersによるベビーアルパカのワッフルニットプルオーバー
The Inoue Brothersによるベビーアルパカのワッフルニットプルオーバー

翻って、今回紹介しているのは綿100%のカットソーです。ただし、アルパカと同様にペルーを原産地としたピマコットンが選ばれているのが特徴です。

The Inoue BrothersによるピマコットンのワッフルTシャツ。パッケージに貼られたラベル
パッケージに貼られたラベル

海島綿 (シーアイランドコットンとも) や〈Giza45〉〈Giza88〉に代表されるようなギザ綿、米国で商標保護されているスーピマコットンなど、世界には多くの超長綿、すなわち繊維長が長く高級なものと位置付けられる綿が存在します。そして、これらの起源はいずれもペルーにあるとされています1

そんなペルーという特別な産地の高級な綿の中でも、化学肥料や農薬を使わないオーガニックな農法で作られ、さらにはサプライチェーンのトレーサビリティ管理や労働倫理にも配慮したかたちで最終製品である洋服を作り上げる。こうした取組みが、上の写真のラベルにある〈Natural Pima Cotton Project (ナチュラルピマコットンプロジェクト)〉であるようです。

「ザ・イノウエ・ブラザーズ(THE INOUE BROTHERS…)」はペルー産の“天然ピマコットンコレクション”を2019年春夏に始動する。同ブランドはデンマーク生まれの日系二世兄弟、井上聡と清史によるエシカルファッションブランドで、南米ボリビアやペルーの先住民が飼育する高品質のアルパカやビキューナを用いたニットアイテムで知られる。本格的にコットンを使用して春夏コレクションを提案するのはこれが初めてだ。新コレクションで用いた天然ピマコットンとは、インカ時代から伝わるペルー原産の主に海岸沿いで育つ品種で、一般的なコットンに比べて環境負荷が著しく低い。綿花は本来、アオイ科の植物の種に繊維が生えて風に乗って遠くに飛ぶように進化したもの。雨が少なく水が足りない、乾燥していて養分が少ないといった土地で、日照はあるが植物の生育に適さないところで生まれているが、ピマコットンはその原型に近い。独特の光沢感がありソフトなタッチが特徴だ。「一度着たら病みつきになる。“コットンの大トロ”だよ(笑)。グローバルSPAブランドの商品に比べて価格は3倍するかもしれないが、その7倍は長く着てもらえる自信がある」と兄の井上聡は語る。

このコレクションは、栽培から紡績、紡織、縫製までをペルーで行い、オーガニックコットンの認証で最も厳しいGOTS認証をすべての工程で取得した。すべての工程でGOTS認証を経るのは極めて難しい。コレクションはベーシックアイテムが中心で、価格帯はクルーネックTシャツ7000円、ベースボールTシャツ1万円、ワッフルクルーネックTシャツ1万2000円、ジャージーショーツ1万5000円、ジャージーパンツ2万円、クルーネックスエット1万5000円、フーディースエット2万円、マウンテンシャツとバンドカラーシャツ2万5000円、ワークジャケット3万円などで、同ブランドが手掛けるアルパカニットコレクションに比べて手に取りやすい価格帯だ。すべて仲介者なしで行う直接取引のためこの価格帯が実現できた。

「ザ・イノウエ・ブラザーズ」は、「着る人、作る人、売る人、すべてを幸せにしたい」をモットーにエシカルファッションに取り組み、かねてからコットンについて問題意識を持っていた。「インカ時代から栽培された歴史があるピマコットンは、無農薬で育つ強さがあり、虫が付かないように虫が苦手な植物と混植した畑で育てられている。水の使用量は通常の綿花栽培に比べ、2分の1~3分の1程度ですみ、ほとんどは雨など自然環境によって賄われている。なにより、シルキーで自然な光沢感があるのが特徴だ」と弟の井上清史。

養分や水をたくさん与えると綿花はそれに応えて養分を旺盛に吸い上げて成長し、花も実もたくさん付ける。同時に光合成によってβグルコース(ショ糖に近い成分)を作るため、甘い樹液に虫を呼び寄せて大きく元気な木ほど虫が寄ってくると言われており、大量の農薬が必要になる。その結果、合成肥料は土壌に残り、窒素を含む成分と土壌のミネラルが結合して不溶性の塩になり、これがたまると不毛の土地になる。さらに雨が降ると表面の土が流れ、風で削られて土壌は減少する。つまり「綿花栽培は大量の水と農薬と肥料が必要になるという悪循環が起きている」と清史は警鐘を鳴らす。現在、害虫予防でたくさんの農薬を使うのではなく、害虫と益虫のバランスを保ち、それが狂いそうな時は素早く農薬を使うという方法を取る農家が増えているという。

出典: https://www.wwdjapan.com/articles/739618
Natural Cotton Project
Our 100% organic pima cotton project celebrates natural indigenous Peruvian pima cotton. No fertiliser or pesticide is u...

上の文献でも言及されていますが、このような取組みを客観的に証明するものとして、購入した商品にはそれらが〈Global Organic Textile Standard (GOTS)〉の認証を取得していることを示すカードが付属していました。

一方で、GOTSのWebサイトでCertified supplierの検索を試してみたのですが、The Inoue Brothers…やそれに類する名前は見当たらず。認証は別の事業者名でなされているのでしょうか……。

Certified Suppliers
GOTS is the worldwide leading textile processing standard for organic fibres, including ecological and social criteria, ...

1枚上着を着れば、ちょうどいい暖かさ

前述のとおり、室内にいるときにこれ1枚で快適だというのもありますが、さらに上に1枚羽織ればすぐに外出できるというのも重宝しているポイントです。

例えば、気温がだいたい5度から10度程度なら、この上にダウンジャケットを着ればすぐに表に繰り出せます。外に出た直後は少し肌寒さを覚えますが、10分も歩けば温まってきます。

The Inoue BrothersによるピマコットンのワッフルTシャツ。ダウンジャケットを羽織れば表に繰り出せる
ダウンジャケットを羽織れば表に繰り出せる

もう少し暖かければ、アウターの幅はさらに広がります。

The Inoue BrothersによるピマコットンのワッフルTシャツ。少し暖かい日ならダウンベストでちょうどいい
少し暖かい日ならダウンベストでちょうどいい

週に1, 2度の出社の際も、特段用事がなければこの格好で出向くことが多いです。当サイトのメイントピックのひとつであるドレスウェアですが、実のところ、普段はあまり日の目を見ることがありません……。

「ドレスウェア」関連の記事一覧
手縫いの洋服を中心に、スーツやジャケット、トラウザーズなどのドレスウェアに関するレビューやエピソードを公開しています。

最後に

今回は、私が愛用している冬場のトップスを紹介しました。

The Inoue BrothersによるピマコットンのワッフルTシャツ

上記のとおり、さまざまな蘊蓄のあるアイテムです。しかし、一着のワッフルTシャツとして見たときに、着心地や風合い、縫製やシルエットなど、本品よりも遥かに安価な商品と比べて何か抜きん出たものを見出したわけではありません。例えば、過去に下の記事で〈United Athle (ユナイテッドアスレ)〉というメーカーのTシャツを紹介しました。

このUnited Athleを引き合いに出すと、〈3960-01〉というモデル名の10.3オンスのワッフル生地のTシャツが、3,000円前後で提供されていたようです (2025年3月現在、ほとんど品切れとなっているようですが)。

それと比べると本品は数倍高価ではあるのですが、The Inoue Brothers…の世界観・ストーリーに共感して、過去数シーズンにわたって1着ずつ買い足し、今に至ります。当Webサイトでは、ファッションアイテムを中心にさまざまなモノをハイライトしています。その全てではありませんが、多くには心惹かれるナラティブが存在しています。それらを存分に引き出せていないのは私の不徳のいたすところです。

なお、本稿の中ほどに掲載したワッフル編みのものに限らず、同ブランドのベビーアルパカのニットウェアも複数愛用していたのですが、諸事情で最近はあまり活用が進んでいません。この辺りも、いずれ記事にまとめたいと思います。

The Inoue BrothersによるピマコットンのワッフルTシャツ

The Inoue Brothers…や上にリンクを掲載した泥染めのTシャツ以外にも、いくつかTシャツに関する記事を公開しています。ただし、いずれも既に入手が困難となってしまっているものです。ご興味があれば、併せてご覧ください。

  1. 大西基之、メンズ・ウエア素材の基礎知識 毛織物編、第1部11、万来舎、2014年 ↩︎
Authored by
Navy Circle

サルトリアル・クラフツマンシップを中心としたクラシックファッションを追いかけるY世代。Respecting the long-lasting classics and craftsmanship

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