アメリカ大陸横断の旅 (1) 旅の計画と構想

アメリカ大陸横断の旅。

米国を東西に横断するSouthwest Chief号
米国を東西に横断するSouthwest Chief号

この壮大な響きに憧憬を抱いた私は、半ば無謀にもそれを実際に行動に移すことにしました。そして、大陸横断というからには空路ではなく陸路での旅であるべし、ということで、鉄道を使って北米の西海岸と東海岸の間を単身1往復することとしたのです。

かれこれ15年以上も前の出来事となりますが、これから数回はいつもと趣向を変えて、当時の旅に関するエピソードを紹介したいと思います。その間、当Webサイトのメインテーマに関する更新はお休みとなることをご容赦ください。

なお、私は鉄道に特段関心があるわけではありません。鉄道に乗ることそのものに喜びを感じたり、鉄道を写真に収めることに熱心であったりはしない人間です。あまり鉄道愛を感じられるものではないストーリーであることをあらかじめご了承ください。もし、これから鉄道でのアメリカ大陸横断を考えている方がいるとすれば、少し古い話ではありますが何かの参考になればと思います。

(一方で、これだけ広い国なので、おとなしく飛行機で移動することを強く推奨したい次第でもあります)

旅に出るきっかけ

旅の発端は、当時の友人との何気ないお喋りから。

「アメリカに行って西海岸から東海岸まで横断してみたいよね、ルート66なんて通ってさ」などと他愛もない会話をしていました。もちろん、ルート66が既に廃線となっていることなど知る由もなく。その後1週間ほどはああだこうだと夢と妄想を膨らませていたのですが、結局前進することはありませんでした。しかしながら、アメリカ横断という壮大なアイデアが私の心の中で燻り続け、いっちょ一人で行ってやるか、と大した覚悟もなく行動に着手することにしました。

ルート66
Image by Cathalin from Pixabay

鉄道の旅

広大なアメリカを、どのような手段で横断するか。

長距離バスと鉄道

自分で車を運転することには自信がなかったので、自ずと公共交通機関での旅に絞られます。冒頭のように空路は除外するとすると (そもそも、当時はまだLCCが普及する前だったので、飛行機での移動は予算の面で現実的ではなかったのですが)、選択肢はGreyhound (グレイハウンド) のような長距離バス、もしくは鉄道の2択となります。しかし、長距離バスの利用者はどちらかというとあまり裕福でない人が多く、社内の衛生環境や治安の面で難しさもある、なんて話も耳にしました。

長距離バスの車内の風景
Image by Trond Abrahamsen from Pixabay

USA Rail Pass

移動手段について調べていると、程なくして鉄道の周遊券の存在にたどり着きます。その名も〈USA Rail Pass (USAレイルパス)〉で、名前のとおり米国全土を周遊可能なパスとなります。サービスを提供するのは〈Amtrak (アムトラック)〉という鉄道事業者。米国は日本と異なり鉄道は上下分離方式で…… といった説明は他に譲るとして、私はこの鉄道パスで大陸横断に挑戦することに決めました。

Amtrak

パスの入手方法

USA Rail Passは現地で購入するだけでなく、日本の旅行代理店から買い求めることもできます。両者に大きな価格差が見受けられなかったので、私は日本で購入することにしました。この場合、日本の旅行会社にバウチャーを発行してもらい、それを現地のAmtrakの窓口でパスに交換してもらうこととなります。

ロサンゼルスのユニオン駅にあるAmtrakのチケットカウンター
ロサンゼルスのユニオン駅にあるAmtrakのチケットカウンター。ここでパスを引き取った
USA Rail Passのホルダー
USA Rail Passのホルダー。パス発券時にもらったもの

パスの価格と利用範囲

なお、私がUSA Rail Passを購入したときは、オフピーク期間 (ローシーズン) の30日間有効なもので、設定価格は469米ドルでした。東海岸を走る〈Acela Express (アセラエクスプレス)〉などごく一部のサービスを除けば、あらゆる鉄道、加えて提携する長距離バスの普通席に乗り放題となっていました。また、別途差額を負担すれば、特等席や寝台車にも乗車が可能となっています。

額装したUSA Rail Pass
使い終わったUSA Rail Passは額装して飾っている

2024年現在のサービス

なお、本稿の作成に際してAmtrakのWebサイトを確認していたところ、2024年現在は完全な乗り放題、というわけではないようです。セグメント (Travel segment) 数、すなわち乗車便数に制限があるような説明が見受けられ、30日間有効のパスだと最大10セグメントとなっているようです。

行程の全体像

一連の行程を全体像としてまとめてみました。全体で30と数日間の旅となりました。

北米大陸横断鉄道旅行の行程
北米大陸横断鉄道旅行の行程

サンフランシスコ (San Francisco) に上陸したところからスタートし、メジャーな都市や名勝地を巡る旅です。フライトの予約の都合上、帰りは北米全土を見渡してもバンクーバー (Vancouver) からのフライトしか手配ができず、最終的にバンクーバーを発つルート取りとしました。北米大陸内の移動は陸路のみで、空路は一切利用していません。

11の行程 (そのうち、便宜上行程7は往復分を1行程にまとめました) で、のべ18の鉄道・バスサービス (すなわち、18セグメント) を利用しています。ルートは出発前に決め、各経由地の宿も確保したうえで渡航したのですが、鉄道便の予約は現地で行いました。また、詳しくは別途紹介しますが、私が利用するつもりだったとある区間が実は運休となっており、現地に到着してから大幅なルート変更に迫られるようなトラブルにも遭遇しました (上の行程はルート変更後のもので、実際に旅した行程です)。

西海岸のサンフランシスコやロサンゼルス (Los Angeles)サンディエゴ (San Diego) に始まり、東海岸のワシントンDC (Washington DC)ニューヨーク (New York)ボストン (Boston) を経て、再度西海岸のシアトル (Seattle)、バンクーバーに至っています。すなわち、北米大陸を2度横断したこととなります。

総移動距離

上に示した12の行程で移動した距離を積算したところ、14,800 kmとなりました。なお、各行程での移動距離は、時刻表に記載の運行マイル数に基づいて計算しています。また、各経由地で利用した地下鉄やタクシーなどでの移動距離は含んでいません。

この14,800 km、改めて見つめてみるとなかなかの距離です。というのも……

  • 地球の1周は4万km → この旅を通じて地球の1/3周強を鉄道・バスで移動した計算となる
  • 東海道新幹線の東京・新大阪間の距離 (営業キロ) は556 km → この度を通じて東京・新大阪間を13往復したのに等しいこととなる
  • 私が現在通勤で地下鉄に乗る距離は約5 km → この旅を通じて1,480日分の通勤に等しい距離を公共交通機関で移動したことになる。仮に年間240日出社するとすれば、6年分の通勤に等しい

後にも先にも、これほどの距離を陸路で移動したことはありません。

総移動時間

距離と同様に総移動時間を確認したところ、189時間となりました。ただし、ここには駅での乗り継ぎを待つ時間などは含んでおらず、鉄道やバスに実際に乗車し、移動している時間 (時刻表基準) だけを足し合わせたものとなります。

すなわち、時間にしてほぼ丸8日分陸路の移動に使ったことになります。30余日の滞在期間の4分の1を移動に費やした、とも言えます。多忙な今ではこのような贅沢な時間の使い方は到底考えられるものではなく、比較的時間に余裕があった当時だからこそ、の旅のスタイルだったのかなと再確認させられます。

正規運賃で移動した場合の総コスト

当時の記録によると、全ての行程を普通席・正規運賃で乗車した場合、総費用は1,119米ドルとなっていたようです。

このうち、65米ドル分は実費で切符を購入し、それ以外はUSA Rail Passで旅しました。パスの価格は469米ドルなので、正規運賃との比較をするとすれば十分に元が取れた計算となります。

最後に

今回は普段とは趣向を変えて、10年以上前の旅のエピソードについて紹介させていただきました。

ロサンゼルスのユニオン駅 (Union Station) にて。Pacific Surflinerを降車

パンデミックによる行動制限の余波もほぼ感じられなくなった今、鉄道の旅をご検討の方の参考になればという思いで、すこし昔の話を引っ張り出してみました。昨今の異次元の円安ドル高、そして米国の全体的な治安悪化という向かい風も無視できませんが、長旅に出るには機会の見極めも重要。私の場合、計画を開始したのは実際に出国する1ヶ月前とほぼ思いつきでの行動だったのですが、時間がある時に行っておいてよかったな、と感じます。

この先のいくつかの記事にて、上の図に挙げた11の行程ごとに、それぞれのエピソードを紹介していきたいと思います。

Authored by
Navy Circle

サルトリアル・クラフツマンシップを中心としたクラシックファッションを追いかけるY世代。Respecting the long-lasting classics and craftsmanship

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