7年前にアメリカ・ニューヨークに滞在していたとき、非常に個性的で魅力的なスニーカーに出会いました。
厚手でナチュラル仕上げの牛ヌメ革を使用し、底付けはグッドイヤーウェルト。アメリカ発の〈FEIT (ファイト)〉による、ハイカットのレザースニーカーです。
当地にて上の写真の個体〈Hand Sewn High Cuoio〉を購入した後、日本でも色違いを購入して今に至ります。
そこで今回は、FEITのレザースニーカーを紹介したいと思います。
以前、私がこれまで付き合ってきたコート系スニーカーについてまとめた記事を掲載しましたが、今回取り上げるFEITのスニーカーもコート系スニーカーの一種と呼んでいいのかもしれません。
FEITの世界観と不思議なコンストラクション
まずは、このブランドの背景について少しだけ触れてみたいと思います。
FEITというブランドの世界観には、ファッション業界における「大量生産・大量消費・大量廃棄に対するアンチテーゼ」というものが中心にあるようです。彼らのWebサイトやInstagramでは、土に還る素材を使い、手作業で丁寧にものづくりを行う姿勢が強調されています。
「Handsewn Goodyear」の謎
一方で、私がFEITに関して長らく気になっているのが、彼らが「Handwewn Goodyear」と呼称するコンストラクションです。下のWebページの動画にあるように、手でウェルトを中底に縫い付けていることが強調されています。
一方で、下のInstagramの投稿を見ると、ウェルトの縫い付けにはリブテープが使用されているように見えます。なお、この画像よりもウェルティングの方法を鮮明に映し出している資料は確認できませんでした。
中底に溝を切ってすくい縫いを行う伝統的なハンドウェルトとは異なるので、誤解を招かぬようHandsewn Goodyearと称しているのでしょうか。
気になるのは、リブテープを使ったウェルティングを機械ではなく手縫いで行うことに、靴としての機能性・意匠性・耐久性の面でメリットはあるのか?という点。手縫いと機械で何も変わらないのに、ブランドの世界観を体現するためだけに手縫いとし、それをさも良い物とアピールするのだとすれば、少し違和感を感じます。もしくは、単に機械を持っていない (持てない) ことが理由なのかもしれませんが。
なお、ハンドウェルトによる底付けで作られたスニーカーとして、インドネシアの〈Jalan Sliwijaya (ジャランスリワヤ)〉のスニーカーが思い当たります。私も、過去に〈United Arrows (ユナイテッドアローズ)〉による別注品であり、下の記事で言及されているモデルを目にする機会がありました。しかし、既にこちらの記事で紹介したようなスニーカーが手元にあったので、購入には至りませんでしたが。
FEITのHand Sewn High
さて、主題のレザースニーカーを詳しくみていこうと思います。
私が所有する3足のうち、ナチュラルカラーのものは前述のとおり牛ヌメ革です。黒のものも同様に牛ヌメ革ですが、白は「Semi-cordovan」と称する革を用いたものとなっています。
「Semi-cordovan」の謎
Semi-cordovanとは何なのかを、FEITの商品ページから探ってみました。
Cordovan leather, historically made from the buttocks section of a horse skin, has been used only for luxury dress shoes. FEIT shoes use the entire skin—hence the name “semi-cordovan”. The leather is tanned slowly, nourished with natural oils, and shaved.
A century ago, when horses were still a driving force behind transportation, hides were plentiful. Now they are extremely scarce and difficult to come by. The use of this highly luxurious and elevated skin allows the foot to breathe and because it is much softer, does not require breaking in.
(拙訳: コードヴァンという革は、歴史的に馬の臀部から採れる革であり、高級なドレスシューズにしか使われてこなかった。FEITの靴は革全体を使うので、”Semi-cordovan” と名付けている。革は時間をかけて鞣されており、天然由来の油分で保革され、削られる。
100年前、馬がまだ輸送・交通の原動力だった時代、馬革は豊富にあった。今は非常に希少で、入手が難しい。この非常に高級な革を使用することで、足は呼吸することができる。加えて、その柔らかさゆえに履き慣らしの必要がない)
出典: https://www.feitdirect.com/products/handsewn-high-rubber-tan
要は、コードヴァンが馬の臀部の床革であるのに対し、コードヴァン層よりも表層にある銀付革のことを指しているのでしょうか?同じ馬の臀部であっても、コードヴァンと高々厚み1 mm程度の銀付革は全く違う革です。そうしたことから、私の推測が正しければ、この「Semi-cordovan」はコードヴァンの特性を全く持ち合わせていないはずです。
何というか、優良誤認を仕向けられているかのような印象を抱いてしまいます。Handsewn Goodyearの件といい、ここまでややネガティブな面にフォーカスしてしまっていますが、謎のマーケティング施策を傍に置けば、靴そのものは悪くないものだと踏まえています。
なお、FEITの創始者であるTull Price氏がredditに降臨し、AMA (Ask me anything) スレッドを立てているのを見つけました。そちらでも、「Semi-cordovanとは一体何なのか?」が議論されています。下にその回答の一部を抜粋していますが、詳しくはスレッド全体をご確認ください。
Comment
by u/feitdirect from discussion I am Tull Price, a veteran and expert in the footwear industry and founder of FEIT footwear – AMA!
in IAmA
フォトレビュー
前置きが大変長くなってしまいましたが、ここからフォトレビューに移りたいと思います。
今回は、私としても一番着用頻度の高いHand Sewn High Cuoioを取り上げることにしました。一番着用頻度の高いとはいえども、月に1, 2回程度。購入後7年が経過していますが、あまりくたびれてはいません。
まずは正面から。靴紐はオリジナルのものが千切れてしまったので、市販の平紐に交換しています。
踵から。踵の縫い合わせはスキンステッチとなっています。
そして上から。ここまでの3枚の写真を見てのとおり、ソールの巻革を除けばホールカットの構造となっています。縁のステッチなどがなく、ミニマルな表情が素敵です。
比較的厚めのヌメ革が使われており、木型への釣り込みもそう簡単ではないでしょう。
さらに、側面から。
なお、シューツリーは〈Marken (マーケン)〉の〈ミレニアムブーツツリー〉です。
底には、ハーフラバーと〈LULU (ルル)〉のトゥースチールを取り付けました。グッドイヤーウェルトとはいえども、オールソール交換まではしないだろうと見込んでのことです。
なお、履き下ろしてからしばらくした後、つま先のすり減りが気になったのでトゥスチールを取り付けたのですが、これは失敗でした。捨て寸が短い靴なので、歩行の蹴り出しの際にトゥスチールのせいで滑るような感覚があるためです。また、着地の際に木材のフローリングや絨毯を傷めてしまう心配もあります。つま先もハーフラバーで覆った方がよかった、と後悔しています。
履き心地
今回紹介した素仕上げや黒の個体のように牛革を使ったモデルは、履き心地はかなり微妙です。
ボールジョイントの部分で屈曲しないので、歩いていると非常に疲れます。登山靴を通り越して、スキーブーツで歩いているような気分に。所詮は、見た目重視のファッションスニーカーなのかもしれません。
最後に
いきなり難癖をつけることから始まった本記事ですが、スニーカー自体は大変気に入っています。
一方で、ハイカットモデルは履くのが面倒なので、ローカットモデルにも興味があります。しかし、私が最初にHand Sewn High Cuoioを入手した時から比べ、FEITのスニーカーも価格が倍近くに高騰してしまい、容易に手を出せない存在となってしまいました。ハイカットの踝の部分を切ってローカットに改造してみようか、といったことも脳裏をよぎります。
いずれにせよ、他にない存在感を放つスニーカー。大事にしていこうと思います。
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