ここ数年続くスニーカーブーム。
男女とも足元の主役がドレスシューズからスニーカーに移り変わっていることに加え、希少性の高いスニーカーはプレミア価格で取引されるようになっています。また、従来の靴修理の域を超え、ソール交換やペイントなどのスニーカーのカスタマイズも盛んに行われるようになっています。
私は依然ドレスシューズが好きですが、いわゆる「コート系」スニーカーも愛用しています。昨今のトレンドにおける中心的存在ではないかもしれないコート系スニーカーですが、私が過去10年近く試してきたものについてまとめてみることにしました。
Common Projects
ローテク系のプレミアムスニーカーブランド〈Common Projects (コモンプロジェクツ)〉
2010年代前半、様々なメディアで定番スニーカーとして脚光を浴びており、私も「これを履いていれば間違い無いだろう」と、都合3足愛用してきました。一足のスニーカーに5, 6万円も出すのは高いよなぁ、と思いつつ。
Achilles Low Retro
これまで購入した3足は、いずれもローカットの〈Achilles Low Retro (アキレスローレトロ)〉モデルでした。1足は写真を残すことなく処分してしまったのですが、残り2足は下のようなモデルです。












構造は、カップソールを接着し、周囲にオパンケステッチが施されたものとなっています。写真は残っていないのですが、インソックを剥がすと見えた中底はパルプボードでした。私も最近知るところとなったのですが、スニーカーもドレスシューズと同様に中底の素材が重要で、パルプボードよりもナンポウ、ナンポウよりもピット曹で鞣したヌメ革を使っているものが上質といえるようです。そうした観点だと、5, 6万円もするスニーカーの中底がパルプボードなのは少し残念です。
Common Projectsの実力や如何に……?
なお、以下のYouTube動画にて、Common Projectsのスニーカーが分解され、その品質が評価されています。総評として、価格の割に……。ということのようです。
動画を見て個人的に気になるのは、今回評価の対象となっていたスニーカーのアッパーがフルグレインではなく、限りなくスプリットレザーに近いものではないか?と示唆されていたところです (動画の6:25付近より)。動画でも言及されるように、5-6万円のスニーカーであればアッパーにはフルグレインレザーを使っていてほしいところです。上で写真を掲載した私の白のスニーカーも、見るからにスプリットレザーに表面加工をした風合いだったので、大いに心当たりはあります。
ECCO
デンマーク発の靴メーカー〈ECCO (エコー)〉
独自のダイレクトインジェクションによるソール形成に特徴のあるメーカーです。
Soft8
大変失礼ながら、ECCOにはなんとなく野暮ったく洗練されていない印象を持っていたのですが、今回紹介する〈Soft8 (ソフト8)〉というシリーズに出会い、以降愛用してきました。

羽根周りに余計なステッチがなかったりと、全体的にミニマルなデザインが気に入っています。







アウトソールは、「Fluidform」と呼ばれるポリウレタンフォームのダイレクトインジェクションとなっています。
上のWebページにもあるとおり、ラストの足裏を忠実に反映できるのがダイレクトインジェクションの重要なメリットのひとつとなっています。しかしながら、ECCOのスニーカーが特段履き心地がよいか?と問われると、他とあまり違いを感じないような……。
一方、ポリウレタンのため加水分解による劣化は避けられず、かつダイレクトインジェクションという製法上アウトソールの交換は難しいものと想定され、長きにわたって着用し続けることは難しいでしょう。とはいうものの、上の2足は購入から4年以上が経過していますが、今のところソールがボロボロになったりする様子は見受けません。
一点難点なのが、上の掲載写真からも垣間見えますが、ソールの汚れが落ちにくい印象です。上の写真もソールが黒ずんでしまっていますが、メラミンスポンジなどで擦っても汚れをしっかりと落とせませんでした。
下のモデルは、デニムのようにインディゴで染色した珍しい革を使ったものです。











タンナリーを持つ靴メーカーであるECCO
ECCOという靴メーカーの特徴のひとつに、自社でタンナリーも運営しており、自社の製靴に使用するのに加えて革を外販している点があります。鞣し工程において水の使用量を抑える〈DriTan〉という製法・技術に力を入れているようです。環境保護意識の高い欧州に居を構え、かつ靴の製造・販売、すなわちB2C事業を主とし、消費者のイメージを重視するECCOならではの取り組みなのかもしれません。
下の写真は、ECCOの代理店であり、革の卸売業を営む〈川村通商〉のパンフレットを写した物です。見開きの右ページに、ECCOの革が掲載されていることがわかります。

Soft8、突然の廃盤
Common Projectsに幻滅した後、ECCOのSoft8に出会い、これでローテクスニーカーのチョイスには困らないだろう…… と考えていた矢先、2021年シーズンをもってSoft8は廃盤となってしまったようです。近しいもので〈Soft7〉というシリーズは依然継続されていたり、〈Street〉というラインが登場したりしたのですが、コテコテしたデザインで食指が伸びません。
永代製作所
ECCOのSoft8という選択肢が消失したので、以前から気になっていた東京・白山の〈永代製作所 (えいだいせいさくじょ)〉のMade-to-Order (MTO) スニーカーにトライすることにしました。









永代製作所のMTOスニーカーについては、多くの方がWebで情報発信しているため、あえて今さら紹介する必要はないでしょう。中底に革を使用しているため、数回ならアウトソールの交換にも耐え得るだろうとのことでした。

アッパーには、フランスのタンナリー〈Tannerie d’Annonay (アノネイ)〉のボックスカーフが使用されています。かなり上等なボックスカーフで、キメが細かく、かつ磨くとしっかり光ります。
カップソールはアッパー同様黒としたかったのですが、当時選択できたのは〈Vibram (ビブラム)〉の〈Arctic Grip (アークティックグリップ)〉というもののみ。雪上や氷上でも滑りにくいアウトソールが特徴のようなのですが、私はこのスニーカーでそうした場所に赴くことはないため、オーバースペックに。そもそも、高級で繊細なカーフを使った靴を傷みの原因になり得る融雪剤の巻かれた場所で履きたくないという点でも、不釣り合いなコンビネーションです。

なお、永代製作所ではスニーカーのMTOの際にも木型への乗せ甲・幅貼りに対応していただけるようですが、私は標準木型のままで作成いただくことにしました。
最後に
永代製作所のスニーカーは1年以上前に納品いただいたものの、最近ようやく履き下ろすことができたので、これまで私が渡り歩いてきたコート系スニーカーについて思いを巡らすことにしました。ECCO Soft8のディスコンが非常に残念なところですが、しばらくは永代製作所のスニーカーが大活躍してくれそうです。
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