賃貸住居の大幅な賃料増額請求を交渉で回避した話

私は、東京都内で集合住宅の一室を借りて暮らしています。

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今年の中旬に賃貸借契約の更新を迎えたのですが、貸主から突きつけられたのは非常に大幅な賃料アップ。どうしたものか…… と最初は躊躇したのですが、交渉によって現状維持、すなわち値上げを跳ね除けることができました

特に今年に入ってからの、都市部を中心とした地価の上昇。そして物価や人件費の高騰。これらを背景に、貸主から借主への賃料増額請求が非常に多く発生していると聞きます。

そうしたことから、私が賃料増額の回避に成功したいきさつを紹介したいと思います。

例のごとく、当Webサイトの主旨からまったくかけ離れたトピックとなりました。しかし、私と同じような困難に直面されている方の参考になれば、という思いのもと、年の瀬の振り返りとしてこうした内容をお届けする次第です。

私自身も、賃料交渉においてエンドユーザー (借主) の目線から経済合理性を追求するための施策を導き出すのに大変苦労しました。上で掲載した動画も「家賃の値上げ どう対処?」などと宣っているものの、結論は「家賃値上げを通告されたら、まずは大家と交渉せよ」という程度のアドバイスしか提供されていません。当時の私が知りたかったこと、そして多くの読者の方が知りたいのは、そうした交渉にどういった準備・どういった態勢をもって望むべきなのか?という点であるはずなのですが……。

そうしたことから、賃料増額請求の書類を手に青ざめたあの日の私に最善策を授けたい、という観点でエピソードをまとめていきます。ただし、私は不動産取引の専門家でも何でもないことを差し引いてご覧ください。当サイトの利用規約にもあるとおり、記載の内容が100%正確であることは保証しかねることをご理解ください。

今回取り上げるシナリオ

私が借りている住居の諸元や契約の内容、および一連の交渉の顛末をつまびらかにすると、私が賃貸借契約でコミットしている守秘義務に抵触してしまう可能性がゼロではありません。そこで、私自身の状況にも近しい、とある架空の人物「A氏」のシナリオを使って論じていこうと思います。

そこで、本稿の要点にも繋がる、このシナリオにおける4つの背景事項を挙げていきます。

契約条件と契約期間

まずは契約の内容について。A氏が締結したのは一般的な普通借家契約で、契約期間は2年です。契約書にはことさら特殊な条項は見つからず、一般的な契約内容だといえるものだとします。敷金は賃料2ヶ月分としておきます。

賃貸借契約書と重要事項説明書

自動更新条項

ただし、契約更新に関する点でいうと、いわゆる自動更新条項が含まれています。すなわち、たとえ更新契約書の取り交わしがなくとも、契約満了を迎えるたびに契約が2年間自動更新されること、および更新の度に1ヶ月分の賃料相当の更新料を納めることが取決めとなっています。サブスクみたいな話ですが (そもそも、賃貸住宅自体が一種のサブスクみたいなものですが)、これは要するに法定更新を回避するためのものだといえます。

そして、賃貸借の開始は2022年某日。すなわち、今年2024年に最初の契約更新を迎えることとなります。

地域と物件

次に、エリアと物件属性です。

A氏が借りている住居は東京都の都心5区 (千代田区・中央区・港区・渋谷区・新宿区) 内のどこか、としておきます。物件はSRC造の集合住宅で、戸数は60ほど。A氏が借りているのは1LDKの部屋で、占有面積は70 m2弱というイメージ。

20%の地価上昇を見せる当エリア

ここで重要なのは、そのエリアにおける賃料相場の推移です。指標のひとつとして、東京都財務局が公開する基準地価格を確認したところ、物件の近隣では現在 (2024年) の地価は契約締結時 (2022年) 比で20%上昇していることがわかったとします。

東京都基準地価格|東京都基準地価格|東京都財務局
東京都財務局の東京都基準地価格(東京都基準地価格)のページです。

ここでは架空のシナリオを論じていますが、実際に私が居住する地域においても、2022年から2024年に掛けて20%近い地価上昇が確認されています。

なお、賃貸住居の家賃相場は地価よりも高い推移で上昇しているケースも少なくない模様。すなわち、賃料は20%よりも大きな上昇幅を見せている可能性もある、ということです。

賃料

賃料増額請求に対してどのような手立てを講じるかを考えるうえで、賃料がどのレンジにあるのかも重要なポイントです。

本シナリオでは、A氏が納める賃料 (共益費など除く) は月々25万円であるとします。データが2022年当時のものではなく2024年現在のものとなってはしまいますが、上で言及したエリアの1LDK・2K・2DKの相場とそう大きく変わらない程度となっています。

都心5区のマンション賃料相場
都心5区のマンション賃料相場
スクリーンショット出典: https://www.homes.co.jp/chintai/tokyo/city/price (2024年12月取得)

なお、A氏はこれまでに賃料支払いの遅滞などは一切起こしていないものとします。

貸主と物件所有者の属性

貸主や物件のオーナーの属性も、賃料増額請求への対策を考えていくうえで重要なポイントだと考えます。

A氏が賃貸借契約を結んでいる相手は、大手サブリース業者であるB社。このサブリース業者は、物件の所有者である大手信託銀行のC社からこの物件を転貸しています。C社が一棟まるごと所有していて、B社が全室サブリース契約を結んでいる模様です。

相手が個人の大家ではなく、不動産賃貸を主業としている大手企業であるというのも、本件のユニークな側面のひとつかもしれません。区分所有されている投資用マンションなんかだと、貸主のロジックが大きく変わってくることが予想されます。

賃料増額請求の通知

それでは、ここからA氏のもとへ賃料増額請求が届いたいきさつを見てみましょう。

賃料増額請求の書類が届く

契約更新日を3ヶ月後に控えた2024年のある日、A氏は郵便受けにレターパックが届いているのを見つけます。送り主はB社となっています。

契約更新の書類が来たのかな、と開封してみると、「賃料増額のお願い」と書かれた送り状が。どれどれ、と読み進めてみると……

8万円の賃料アップ!?

2024年x月y日より月額賃料を80,000円増額敷金を160,000円追加いただきたくお願い申し上げます

という説明が目に飛び込んでくるのです。

月々8万円の増額なので、年間で100万円近い追加出費につながりかねません。また、従前の月々25万円が32万円となり、32%の賃料アップであることになります。これは易々と了承できる金額ではなく、まさに青天の霹靂。実際に、昨今の物価や地価の上昇トレンドを背景に1割程度の家賃アップは想定していましたが、ここまで大きな上昇を目にするとは予想だにしていなかったのです。

届いた書類一式の中には「賃料増額に係る回答書」という書類が含まれています。ここには、上記の増額に承諾する、もしくはカウンタープロポーザルとしてこちらから別の金額を提示するかの2つの選択肢が明記されています。そして、この封書が届いた日から約4週間後のとある日までに、この回答書を使用してのB社への回答が求められています。

8万円もの賃料上昇は果たして妥当なのか?

そもそも、今住んでいる部屋の家賃を32万円にまで引き上げるのは妥当なのでしょうか?

近隣の相場を見ると……

そんな疑問をいただいたA氏は、不動産情報サイトで近隣の賃貸住宅の募集広告に目を通します。すると、今住んでいる部屋と条件が近しい物件が30~35万円程度で募集に出ているのを目にします。調査対象を占有面積が多少異なる物件にも広げて見ましたが、平米単価を比べると、32万円をA氏の部屋の面積で割った金額と同等か、むしろそれよりも高いくらい。8万円アップとはなんて恣意的で乱暴な数字なんだ、などと訝しんでいたA氏ですが、あながちそうでもなさそうだという理解となりました。パンデミックが終息し、急速に経済が回り出した余波なのでしょうか。

新規賃料と継続賃料

さらに調べていると、新規賃料と継続賃料は同列に比較すべきものではないという見解にも辿り着きました。すなわち、今住んでいる部屋と全く同じ条件で新規に貸しに出されている物件の賃料 (新規賃料) が32万円だからといって、更新後のA氏の部屋の家賃 (継続賃料) も32万円にまで引き上げられるべし、とはならないということです。この辺りは、下の文献を参照いただくといいかもしれません。

小川不動産鑑定
第32回「賃料評価(その1)」
賃料の種類 | 賃料改定の松岡不動産鑑定士事務所
賃料の種類 | 賃料改定の松岡不動産鑑定士事務所 - 家賃、賃料の減額、増額の賃料改定を行なう名古屋の不動産鑑定士

A氏はこれまでも賃料の遅滞なき支払いや継続的な居住で貸主との信頼を培ってきたわけですし、賃料が極端に上がって引越しをやむなくされると経済的な負担が高まってしまいます。そうしたことを理由に、これまでのA氏の賃料と新規賃料の相場との間に大きな乖離があるからといって、今後のA氏の賃料、すなわち継続賃料を新規賃料と同等まで引き上げることは必ずしも妥当ではないとされるのです。

これを知ったA氏のマインドは、「やっぱり8万円は大袈裟じゃん」と揺り戻しになるのです。相手は賃貸借契約交渉のプロなので、まずは高い球を投げて様子をみており、実際にはその半額の4万円アップ程度での妥結を図っているのだろうか……と訝しみます。それでも、依然非常に高額であることは変わりません。

さて、どうするか?

予想外の高額な賃料増額請求に動揺を隠せないA氏。ただ、こうした要求に正面から応じる必要はあるのでしょうか?

無視して自動更新に持ち込む?

A氏の頭を真っ先によぎったのは、このまま自動更新に持ち込むということ。

自動更新条項の項にも書いたように、更新に際して契約書の取り交わしなどをせずとも、契約満期を迎えれば自動的に従前の条件で更新されることとなっています。そのため、A氏は回答期限を過ぎてもダンマリを決め込んでいれば、既存の条件で住み続けられるのではないかと考えました。

A氏の契約のように法定更新を阻止する条項がなければ、こうした策を講じると法定更新に移行することとなります。法定更新となれば、既存の条件のまま契約が無期限に延長される、すなわち、今の家賃でいつまでも住み続けられることになります。借り手に有利に作られた借地借家法が、借り手に授けたアドバンテージを最大限に生かした作戦。しかしながら、こんにちではA氏の契約のように法定更新の穴は塞がれているケースが大半ではないでしょうか。

無理矢理交渉のテーブルに着かされるかも?

そんな中、A氏はWebで調べごとをしていると、現実はそんなに甘いものでないことに気付かされます。

土地・建物の賃貸借契約における更新条件に限らず、2人のステークホルダー間の交渉が平行線の一途を辿る場合に、片方が民事調停を起こすことができます。これは、一方がもう一方を強制的に交渉のテーブルに着かせることを意味します。今回の場合だと、A氏が回答を渋る、または貸主側の期待を過度に下回る回答をするなどを安易に選んでしまえば、民事調停に発展する可能性も否定できません。貸主が民事調停を申し立てれば、借主側も裁判所に出向き、調停委員を交えて話し合いをしなければなりません。さらに、調停でも決着が付かなければ、民事訴訟にエスカレートする可能性すらあります。

貸主が弁護士をけしかけてくるかも?

調停・裁判となれば、貸主側も代理人、すなわち弁護士を立てるものと予想されます。弁護士を動かすにはもちろんコストが生じます。今回の貸主であるB社は大手サブリース会社なので、社内に貸主との交渉に長けた弁護士が在籍しているかもしれません。

月額8万円の賃料アップのために弁護士を動かすことの経済合理性については、一般的なエンドユーザーの立場だと推測・判断するのは難しいものです。ただ、色々調べて試算してみた結果、その合理性は一定程度ありそうだという観測に辿り着きました。すなわち、A氏は安易に自動更新を狙うのは得策ではなく、しっかりと戦略を立てる必要性を認識するに至りました。

ただし、貸主が弁護士を雇うのが経済合理的かどうかは、従前の賃料や上昇幅に依存するのかもしれません。例えば、家賃を8万円から10万円に引き上げるのに弁護士を雇って調停・訴訟になだれ込み、満額の家賃アップを勝ち取ったとしても、借主が早々に退去してしまったりすると弁護士費用をペイできなくなるような可能性も考えられるところです。

弁護士に相談だ

そんなこんなで調べごとをしていると、A氏はとあるWebページに辿り着きました。

それは、とある法律事務所のWebサイトにあるもので、貸主から賃料増額を打診された際に貸主が何を考えるべきか、について論じるものでした。この事務所の代表弁護士のD氏は不動産を専門にしており、賃貸借だけではなく売買やプロパティマネジメントなど、さまざまな不動産関連の案件に対応しているとのこと。さらに、弁護士に加えて不動産鑑定士や土地建物取引士といった、不動産の専門資格もお持ちである模様。

こうした専門性の高さに惹かれて、A氏は一度有料の法律相談に赴くことにしました。D氏曰く、最近賃貸住宅に住む方々によるこうした相談が増えているとのこと。

法律相談で明らかにしたかったこと

これまでの経緯を簡単にPowerPointの資料にまとめて、事務所を訪問したA氏。資料にまとめたのは、おおよそ上に書いたような内容です。

議論の焦点は以下の2点。

  • 論点1: 現在A氏が置かれた状況において、8万円の賃料アップは妥当なのか
  • 論点2: 賃料を可能な限り抑え、かつ貸主サイドとの関係をなるべく良好に維持することをゴールとした時に、貸主のとの交渉をどのように進めていくべきなのか

貸主側との関係維持というのも重要なポイントです。今後住宅の設備が壊れて補修をお願いするだったり、将来物件を退去する際の原状回復に向けた審査だったりと、貸主や管理会社の心象を大きく損ねることが裏目に出るようなイベントは少なくありません。こうした場面での不要な軋轢は避けたいと考えたのです。

論点1: 8万円の賃料アップは妥当なのか

まずは、一つ目の論点について。

弁護士であるD氏の見解は、「特段の事情がない限り、賃料増額は妥当とはいえず、法的に認められる可能性は低い。仮に増額となるにしても、現状のプラス5~10%程度ではないか」というものでした。

その理由は、本物件の契約からまだ2年弱しか経過していないこと。現在の賃料は賃貸借契約を締結した際に合意したものであり、法律用語ではこの時点のことを「直近合意時点」と呼ぶのだとか。直近合意時点からまだ2年弱しか経過していませんが、これは賃料の見直しを行うのに相当な期間が経過しているとはいえないもののようです。また、確かに地価や物価は上昇しているものの、これらは特段の事情といえるものでもない模様です。地価が2年前の2倍や3倍にも上昇していれば、話は別かもしれませんが……。

つまり、今回は2年間の普通借家契約における初めての更新なので、家賃の値上げにはまだ気が早いんじゃない?ということなのでしょう。これはA氏にとって嬉しい見解です。逆にいうと、初回の更新は賃料据え置きで、2回目の更新時に値上げを打診された場合、直近合意時点から4年近くが経過していることもあり、賃料増額が妥当だと判断されやすくなるのかもしれません。

論点2: 貸主のとの交渉をどのように進めていくべきなのか

2つ目の論点については、「不動産専門の弁護士に相談したことを申し添えて、論点1の内容をそのまま回答すればいいのではないか」とのことでした。

すなわち、A氏が「不動産専門の弁護士に相談した結果、直近合意時点からまだ2年弱しか経過していないため、賃料増額は妥当ではないとの見解を得た。したがって、現状の賃料を踏襲した契約更新を希望する」と回答すれば、恐らく貸主側は折れるはずだ、ということです。

弁護士を交渉代理人として雇う?

その一方で、A氏とD氏の間で交渉の委任契約を結び、今回の賃貸借契約更新に関する貸主との交渉をお願いするという選択肢もあることを教えていただきました。すなわち、アスリートの移籍交渉や年俸交渉のごとく、代理人を雇って交渉を肩代わりしてもらうというものです。もちろん、これはここまでの法律相談の域を越えるものであり、交渉の委任契約を結んでその費用を納める必要があります。

弁護士に委任契約をする場合のコストとリターン

論点2の中で掲げたゴール、すなわち賃料を抑え、貸主側との関係に亀裂を生まないことを達成するには、自ら交渉するよりもプロに任せた方が成功の期待値が高いのは言うまでもありません。肝心なのは、プロに任せるうえでのコストとリターンをどのように評価するか

委任契約のコスト

委任契約には当初想定していない費用が発生することになります。その金額については本稿では明言しませんが、それは24で割ると数千円程度に落ち着く程度のものでした。この24で割るというのは、目前の賃貸借契約の更新を進めて今の住居に向こう2年間 (24ヶ月間) 住み続ける場合に、委任契約の費用が1ヶ月あたりいくらに均すことができるのかを考えるものです。

委任契約のリターン

D氏の話を伺う限り、従前の条件で契約を更新する勝機は十分にありそうに聞こえます。しかしながら、いくらD氏から有益なアドバイスを得たとはいえ、A氏が自ら交渉に臨んだとすれば、手練れの貸主サイドに丸め込まれてしまい、8万円満額とはいわずとも、月2, 3万円の賃料アップに応じざるを得ないような状況に追いやられるのでは…… という懸念が浮かび上がります。

もちろん、調停にエスカレーションしてしまうようなタイミングでD氏に代理人となってもらうこともできるかもしれませんが、それより前の交渉段階での委任契約よりも費用が上昇する可能性が考えられます。そうしたことから、今委任契約を結ぶことで、先述の2, 3万円の賃料アップを回避できる可能性が高まると言えます。

今回の賃料増額請求に際して、A氏は貸主サイドとまだ何もコンタクトを取っていません。そのため、先方の出方は全くわからない状況です。このような賃料交渉にはきっと長けているだろうとは想定されますが、強気に出てくるのか、そうでもないのか。モデルを単純化して、A氏が単独で交渉に挑んだ結果、50%の確率で賃料据え置きとなり、50%の確率で3万円アップとなるとすれば、委任契約しない場合の賃料増額の期待値は15,000円となります。

一方、A氏によるD氏への信頼感が揺るぎなく高いあまり、D氏に代理人になってもらえば賃料は必ず据え置きで集結できると考えました。すなわち、委任契約によるリターンは15,000円となります。

コストをもってあまりあるリターン

こうした計算は皮算用の域を超えません。しかし、導かれたコストとリターンを天秤にかけると、月々に均すと数千円のコストで15,000円のリターンが得られることとなります。

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弁護士に交渉を委任だ

上記のような検討を踏まえ、A氏は貸主サイドとの交渉の委任契約を結ぶことにしました。

過去にもさまざまな案件で何度か有料の法律相談を受けたことはありますが、法律相談を超えて何かをお願いするのはこれが初めてのA氏。良くも悪くもドロドロした交渉や諍いから距離を置いて過ごしてこれたラッキーボーイ、初めて弁護士と契約す。

委任契約を結んだ後は、A氏から貸主側に連絡を取ってはならず、すべてD氏に対応してもらうこととなります。上にも書いたとおり、当初A氏のアクションアイテムは「賃料増額に係る回答書」に回答することでしたが、その回答も含めて対応いただくことになります。

超速攻で満額回答をゲット

そこで、D氏からB社の担当者にメールで連絡をしていただくことになりました。

結果、1通目のメールで貸主サイドが折れたようで、A氏のもとにはD氏から早々に「家賃据え置きで更新できることとなりました」と連絡が。内心、せっかくだからバチバチにやり合ってほしいなと期待していた手前、ちょっと拍子抜けなA氏。

勝利の決め手は圧倒的なパワー

D氏からB社へのメールは都度写しをいただいていたA氏ですが、件の1通目のメールを見ると、「確かに、何の前触れもなくこんなメールが来たら悶絶するよな……」というタフネゴシエーションが滲み出るようなもの。「中々のつはものが出てきたので、ここは現状維持を呑んでおくのが得策じゃないでしょうか……」と、貸主サイドで白旗が掲げられたことであろう、とA氏は想像しました。不動産専門弁護士の威光・威厳で相手を捩じ伏せたという点で、A氏は虎の威を借る狐になれたといえます。

ただし、成り行きは貸主の性格にも依るかもしれない

もしかすると、このようにほぼ無傷で決着したのは、貸主・オーナーが一棟所有・管理の形態であったためかもしれません。オラオラ系の個人不動産投資家なら、ストロングスタイルで殴り返してくる可能性もゼロではないかも。

不動産専門の弁護士に頼んでよかった

そのメールにつぶさに目を通すと、法律家としての観点だけでなく、不動産鑑定士としての観点も交えて、賃料を据え置きとすべし理由が非常に説得力の高いかたちで (少なくともA氏が見る限りでは) 語られています。

そうしたことから、不動産専門の弁護士に相談してよかった…… と、A氏は胸を撫で下ろしたのでした。その後、従前の条件のまま契約は更新され、A氏は末長く幸せに暮らしましたとさ。

まとめ

最後に、本稿のポイントをまとめておきたいと思います。

  • 地価・物価の急激な上昇を背景に、特に都心部において賃貸住宅の借主に賃料増額請求がなされるケースが増えている (らしい)
  • ダンマリを決め込んで自動更新や法定更新に持ち込むのが最善とは限らない。調停・訴訟にもつれ込む可能性を評価しておく必要がある
  • 悩んだら、不動産に強い弁護士に相談するが吉。30分や60分の法律相談だけでも次の一手につながる貴重な洞察が得られる
  • 費用が納得できるものであれば、交渉の委任契約を結ぶのも選択肢に。貸主サイドに対し、不動産専門弁護士の持つ威光・威厳を効かせることができ、交渉を一層有利に進められる
  • 不動産に詳しい弁護士の見極めは、弁護士だけでなく不動産鑑定士のような不動産専門資格を持っているかがひとつのポイントになる

最後に

今回は、私が今年遭遇した出来事に基づいて、同様の境遇にある方々へのヒントになるかもしれない情報をまとめてみました。

実は、当初本稿は有料記事 (300円程度) にすることを考えていました。noteなどによく見られるように、内容が核心に迫る途中の部分から有料化するようなイメージです。この記事の内容を必要としている方がいれば、潜在的な経済的恩恵につながる洞察を提供できるはずだ、といくばくかの自信があったためです。ただ、まずは様子を見てみようということでいつもどおりに公開しています。もしかすると、この先どこかでカギを掛けて有料化するかもしれません。

次の投稿は、いつもどおりのメイントピックに立ち返ろうと思います。ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

Authored by
Navy Circle

サルトリアル・クラフツマンシップを中心としたクラシックファッションを追いかけるY世代。Respecting the long-lasting classics and craftsmanship

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    1. よし より:

      はじめまして。私は賃料増額請求に関する実体験を提供している「賃料増額ドットコム」「賃料増額.com」というサイトを運営している、よしと申します。可能でしたらこちらのサイトのリンク先を私のサイトで紹介させていただけませんでしょうか?

      私のサイトでは、賃料増額を拒否し続けた事例や、その後の交渉・裁判までの詳細なプロセスが解説されています。同様の境遇にある方々へのヒントになるかもしれない情報をまとめて公開しています。思いが共感できましたのでメッセージさせていただきました。
      URL: https://chinryo-zogaku.com/

      • Navy Circle Navy Circle より:

        よし さま、コメントありがとうございます。

        本稿へのリンク掲載、もちろん問題ございません。志を同じくする貴Webサイトにて取り上げていただけること、嬉しく思います。