前回の記事にて、〈NAKATA HANGER (ナカタハンガー)〉による高級ハンガー〈NH-2〉を取り上げました。
今回は、NAKATA HANGERの中でもNH-2と同様に高価格帯に位置する〈AUT-02〉や〈AUT-03〉にも着目し、簡単な比較ができればと思います。
比較にあたっての観点
はじめに、今回3つの異なるモデルのハンガーを比較するにあたっての私の観点に触れておきたいと思います。
単にジャケットやコートを掛けておくだけなら、今回比較する3つよりも安価な〈AUT-05〉で十分ですし、数百円で入手できる厚みのあるプラスチックのハンガーで事足ります。そうした中で、私がNH-2の入手を進めるにあたって背景にあったのが、前回の記事でも触れたようにジャケットやコートの写真をハンガー吊しで見栄えよく撮影できるようにすること。そうした見栄えを重視しながら、比較を進めていこうと思います。
NH-2・AUT-02・AUT-03それぞれの特徴
まずは、今回比較したい3つの特徴に触れておきたいと思います。
NH-2
NAKATA HANGERのラインナップの中でも最上位に位置するハンガー。
厳密には、そのさらに上位に〈WJ-01A〉〈WJ-02A〉という蒔絵が施されたモデルが設定されていますが、これらのベースの形状はNH-2と共通しているように見受けます。
AUT-02
NH-2と同様に、1ピースのブナ材を削り出して成形された (NAKATA HANGERではそれを「一本物」と呼称しています) ハンガーです。
NH-2よりもやや抑揚の少ない形状で、トレンチ (溝) も浅めです。NAKATA HANGERのWebサイトによると、ハンガーの本体は木材をノコギリで荒く切削した後、手作業での削り出しによって成形しているとのことです。
手作業に依存してしまう削り出しの工程を簡素化した構造を採ることで、NH-2と比べて3分の1程度の価格で提供できるようにしたのでしょう。
なお、下位モデルのAUT-02にあって、上位モデルのNH-2にないものがひとつあります。それはパンツ掛けのオプションで、AUT-02はパンツ掛けのバー付き・バー無しから選ぶことができます。ひとつのハンガーにジャケットもトラウザーズも掛けておきたい場合は、NH-2よりもAUT-02の方が便利です。
AUT-03
NH-2やAUT-02と比較し、金具が埋め込まれた中心の部分にボリュームがある形状が特徴的です。
NH-2やAUT-02とは異なり、市販の大半のハンガーと同様に2つの木片を接合して成形されています。AUT-03も、AUT-02と同様にパンツ掛けのバー付き・バー無しが設定されているようです。
おまけ
今回は比較対象としませんが、これもまあまあ高級な逸品 (AUT-02よりも高額だったはず)。
形状の比較
3種のハンガーの形状を見比べてみます。
正面から見たシルエット
まずは正面から見たシルエット。肩のラインや首の高さに着目してみたいと思います。ただし、写真はいずれも三脚を立てず手持ちで撮影したものなので、構図に十分な一貫性がありません。それを差し引いてご覧ください。
構図に一貫性がないという問題はあるものの、シルエットの違いがわかるよう画像を重ね合わせてみました。NH-2の画像の上に、向かって左半分にAUT-02、右半分にAUT-03の画像を重ね合わせています。
3つを見比べると、AUT-03が顕著になで肩になっているのが特徴的です。NH-2とAUT-02は肩の傾斜角はおおむね似通っているものの、首の高さに違いが見られます。NH-2と比べてAUT-02が簡素化されている部分のひとつと見受けられます。
上から見たシルエット
次に、上から見たシルエットを見てみます。こちらも手持ち撮影なので、構図に揺れがあることをご承知おきください。
3つを比較すると、AUT-02の肩のラインはNH-2・AUT-03と比べて真っ直ぐなのが印象的です。加えて、AUT-02は肩の厚みが顕著に薄いことがわかります。人間の肩周りの再現度という観点では、AUT-02は他の2つよりも一歩劣っているのかもしれません。
服を掛けたときのシルエット
次に、洋服をかけた際の、洋服のシルエットに着目してみます。モデルとして選んだのは前回と同じで、下の生地で紹介している一着となります。
NH-2に掛けたジャケット
まずはNH-2から。前回の投稿でも掲載した写真です。前身頃の打ち合わせが逆になってしまっているのは、ご愛嬌ということで……。
AUT-02に掛けたジャケット
続いて、AUT-02。NH-2と同様にジャケットの肩はしっかりと乗っていますが、上でも触れた首の短さに起因してか、やや寸詰まりな印象を受けてしまいます。
AUT-03に掛けたジャケット
最後に、AUT-03を見てみます。上でも言及したとおり、AUT-03は他の2つと比較してなで肩に作られています。その結果、私のジャケットを吊るすと前身頃の打合せが本来よりも深くなってしまいます。もしかすると、なで肩の体型に沿って仕立てられたジャケットであれば、AUT-03の方が綺麗に吊るせるのかもしれません。
背後から見た肩周り
参考までに、後ろから見た肩周りも。こちらは構図のばらつきがより大きいので、比較・考察に資するものではありません。
総括
ここまでの比較の結果を、私なりに総括してみます。
NH-2は、洋服の見栄えを高めるハンガー
今回比較に使用したジャケットが1着のみであることに注意した上で、ジャケットを見栄えよく吊るすという目的を高度に実現できるのはNH-2かな、と思います。3万円以上の投資に見合ったものかはなんとも判断し難いですが、少なくともNH-2はAUT-02やAUT-03よりも吊るし映えします。NH-2を購入したものの、実はAUT-02やAUT-03のような手持ちの下位モデルの方がよかった…… といった結果でなく、ホッとします。
クローゼットに眠らせておくにはもったいない
一方で、単にクローゼットに服を掛けておくだけなら、AUT-03もしくはより下位のモデルで十分なことも再確認しました。そして、AUT-02はNH-2と同様に一本物ではあるものの、価格相応に簡素化された形状であることもわかりました。肩のカーブや厚みについては、一本物ではない下位モデルのAUT-03の方が高いレベルにある印象です。
この先、ハンガーを増やすとしたらどれを選ぶ?
私にとって、写真撮影用のハンガーはNH-2が1点あれば十分です。また、現状以上にクローゼットの着数を増やす予定はありませんが (新しいジャケットやスーツ、コートなどを入手したら、それと同じ分既存のものを処分するので)、もしハンガーを追加するならAUT-05で十分かなという所感です。
余談 – 終わりに変えて
今回紹介したように、私はわざわざ木製のハンガーを購入して使用しています。
そうしたときに厄介なのが、洋服に付属する中途半端にこだわったハンガー。既製品・注文服を問わず、下のような樹脂製のハンガーが付いてくることが多いです。
その多くは、イタリアのハンガーメーカー〈Mainetti (マイネッティ)〉のものだと予想されます。
買い手における無駄なコストの源泉になっており、かつ捨てるのも面倒。別売りにしてもらえると、私としては嬉しいのですが……。
コメント 本記事の内容について、ぜひ忌憚なきご意見をお寄せください。
ハンガーレビューはご指摘の通り余りありませんので興味深く拝読いたしました。
明らかに仕立ての良い上着がより美しくなる様はハンガーを揃えたい気持ちを抱えたまま幾年も過ぎてしまった小生の購買意欲を蘇らせました。同時に、当該背に四角の生地が縫い付けられた上着も気になりました。フィオレンティーナな仕立て程度の理解ですが大変綺麗ですね。
最後に大好きなテーラーの名前も出てまいりましたのでこちらも楽しみにしております。
コメントを投稿いただき、ありがとうございます。
こちらの記事がご参考になったようで、大変嬉しく思います。
私も、かつて高級なハンガーに長らく興味があったものの、なかなか食指が動かないでいました。もしこれからNAKATA HANGERを試されるのであれば、B級品に懸念がなければ年末の福袋がいいかもしれません (今年も設定があれば、ですが)。
ジャケットはまさにご賢察のとおりで、フィレンツェ仕立てのものとなっています。
仕立てていただいたのは、日本の工房となりますが。
最後に、アットリーニのスーツですが、別のスーツとの入れ替えのためつい最近他の方のもとへ旅立ってしまいました……。ご紹介できず残念です。