先日、私の愛用品のひとつとして、アメリカ発の〈FEIT (ファイト)〉のレザースニーカーを紹介しました。
アッパーに大判のヌメ革を使用した、ミニマルなデザインのハイカットスニーカーです。
この記事の中で、「Handsewn Goodyear」を謳う同ブランドの靴のコンストラクションはどのようになっているのだろうか?という問いが浮上します。そして、つい最近その答えが得られたので、きちんと収拾をつけるべく、新たに記事を作成することにしました。タイトルで匂わせたとおり、個人的には風変わりだなと感じる製法が取られていることがわかりました。
修理サービスと紹介動画
どうやら、FEITでは最近ブランド公式の修理サービスが提供されはじめたようです。
上記のページに埋め込まれた動画を見ると、アッパー・中底・本底がどのように組み立てられているのかがよくわかります。この動画を、埋め込み機能を使って本ページでも引用させていただくことにしました。上記のページだと映像が再生されていても音声は流れませんが、下の動画だと音声つきです。
なお、実際の修理作業を担当するのは〈Goods & Service〉という業者のようです。米国ロサンゼルスにある、スニーカーの修理やカスタムを手掛ける業者の模様。
コンストラクションに着目すると……
上記の動画を確認し、分解の様子に着目してコンストラクションをひも解いてみたいと思います。今回分解されているのは、過去の記事で紹介した〈Hand Sewn High Cuoio〉というモデルだと見受けられます。
動画を確認した上で、コンストラクションの特徴として着目すべきは下のポイントでしょうか。
- 中底にはヌメ革が使われているように見受けられる (これは分解しなくても、靴の中を覗き込めばわかる)
- 中底のすくい縫いのために、中底にはリブテープが使われている
- すくい縫いは、中底とアッパーを縫い付けているだけ。ウェルトは使われていない
- 本底は接着剤で接着されており、アッパーや中底とは縫われていない。
このように、一般的なグッドイヤーウェルトとは随分異なる製法である事がわかります。ウェルトを使った本底の縫い付けをしないので、「Handsewn Goodyear welt」とせず「Handsewn Goodyear」と銘打ったのでしょうか。一般的なグッドイヤーウェルト製法のリファレンスとして、紳士服飾の評論家である飯野高広氏の著書より図面を引用させていただきました。
出典: 飯野 高広 著、「紳士靴を嗜む はじめの一歩から極めるまで」、朝日新聞出版、2010年、ページ112
下手な絵で恥ずかしい限りですが、動画を参考に、上の図に倣って断面構造を図示すると下のような感じでしょうか。
こうやって見ると、FEITのコンストラクションは中物のコルクの層が厚く、ソールの屈曲性に支障を来たしていそうな様相です。確かに、ソールはあまり曲がらないなという印象はありましたが、このようなコンストラクションならさもありなんといったところ。
また、構造を見る限り、アッパーと中底が傷みすぎることがなければ、本底の張替えは何度でもできるのかなという印象を持ちました。しかし、いくらブランドが公式で修理サービスを提供しているとはいえ、米国に送って修理するのはあまり費用対効果の高い方法ではないような気がします。如何せん特殊な構造なので、国内の靴修理屋でどの程度柔軟に修理してもらえるかが気になるところです。
そして、この動画を見てもなお、修理でなく新品製造のすくい縫いの際に敢えてミシンを使わず手縫いとする理由が理解できません。やはり、職人がすくい縫い用のミシンが使える環境下にいないから、ということなのでしょうか。技術的難易度はさておき、工賃だけでカバーできるのであれば、リブテープを使わずに中底に溝を掘ってすくい縫いしてくれればいいのに、と思ってしまいます。そうすれば、修理性を犠牲にすることなく中物の量を減らすことができ、おおよそ許容できる範囲のコストのもと、ソールの屈曲性を中心とした履き心地を大きく改善できたのではないでしょうか。
最後に
今回は、過去に浮上した疑問を解き明かす回となりました。
FEITのスニーカーのコンストラクションは以前から気になっており、フリマサイトに状態が悪くて安いものが出品されるようなことがあれば、購入して分解してやろうとも考えていました。そうした中、公式自ら種明かしをしてくれたのでありがたい限りです。しかし、工夫の凝らされた優れたコンストラクションだな、という印象はなく、どこか風変わりで非効率的だな、といった印象が残ります。
あまり数は多くありませんが、スニーカー類の紹介記事をいくつか公開しています。よろしければ、下のリンクから併せてご覧ください。
コメント 本記事の内容について、ぜひ忌憚なきご意見をお寄せください。