「ザ・紺ブレ」を誂える

以前、英国のボタンメーカー〈London Badge & Button (ロンドンバッジアンドボタン)〉によるメタルボタンを入手したエピソードをご紹介しました。

メタルボタンを纏ったネイビーのブレザージャケットを仕立てることが当時の主目的だったのですが、今秋そのブレザージャケットが仕上がりました。

新たに誂えたネイビーのブレザージャケット
新たに誂えたネイビーのブレザージャケット

タイトルに「ザ・紺ブレ」と記したとおり、紺無地に金ボタンと、全体像としては王道的なブレザージャケットとなっているのではないかと位置付けています。今回は、そんな紺ブレを紹介していきたいと思います。

なお、早速、下の記事で紹介した〈NAKATA HANGER (ナカタハンガー)〉のハンガー〈NH-2〉が撮影備品として活躍しています。

"NH-2" by NAKATA HANGER
“NH-2” by NAKATA HANGER

選んだテキスタイル – John Cooperの紺無地ツイル

生地は、英国の生地マーチャント〈John Cooper (ジョンクーパー)〉による紺無地のツイルを選択。要望に沿って取り寄せていただいた複数の着分生地の中に、こちらが含まれていたという経緯です。

John Cooperによる「West End」と名付けられた生地
John Cooperによる「West End」と名付けられた生地

John Cooperといえば、旧式の織機であるドブクロス織機 (Dobcross loom) の名を冠した〈Dobcross (ドブクロス)〉が有名です。同じく紺無地のDobcrossも一緒に取り寄せていただいたのですが、今回はウェイトが軽めの生地がいいな、という趣旨、および色合いを重視してこちらを選択しました。

Webで調べたところ、Dobcrossの目付は340 g/mのものが多い模様ですが、私が選択した生地は推定250-280 g/mと軽めです。目付が軽いので、春は4月上旬頃まで、秋は9月下旬頃から着られるかなというイメージです。冬場に着たとしても、それほど違和感を覚える風合いではありません。また、目付は軽いですが、私の主観では打込み具合は十分しっかりしていると感じます。原毛はSuper 160’sと細いものですが、経緯とも2プライと見受けられ、一部のイタリア生地のようなヤワさはありません。

ネイビーブルーのブレザージャケット。ラペルのロール部を中心に、生地の風合いにクロースアップ
ラペルのロール部を中心に、生地の風合いにクロースアップ

整理 (生地の仕上・フィニッシング) はクリアに仕上がっており、ザ・サージといった表情。自然な光沢を持つ生地の風合いが、プレーンでツヤのある金ボタン (後述) とうまく調和しているのではないかと思います。一方、生地感の面で相性の良いトラウザーズはある程度限られ、起毛素材やデニムとは合わせにくいという懐の狭さもあります。このブレザージャケットとは別に、ホップサックやフランネルなど季節感のあるものもあると便利ですね。

なお、こちらの生地はJohn Cooperの日本の代理店による別注品のようですが、あえなく廃盤となってしまった模様。そのためか、生地のクオリティに対して生地代は比較的安く抑えられました。ただし、この生地もDobcrossと同様にドブクロス織機で織られているのかどうかは定かではありません。横にあったDobcrossとも比べて触った印象では、織機の特性がもたらす柔らかさという点では謙遜ない気がしました。

金メッキのプレーンなボタン

ボタンは、上でも挙げたLondon Badge & Buttonのボタンを私の方で購入のうえ、施主支給の形で供出し、取り付けていただきました。光沢のある金メッキ仕上げで、ドーム型ではなく平坦。刻印のないプレーンなメタルボタンです。

London Badge & Buttonのプレーンな金メッキのボタン
London Badge & Buttonのプレーンな金メッキのボタン

冒頭で言及したとおり、ボタンの詳細は別途まとめています。下の記事をご参照ください。

ブレザージャケットの袖ボタンは何個がいいのか?

ところで、当初迷ったのが、袖のボタンをいくつにするか。

紺ブレをオーダーされた方、それを仕立てられた方のエピソードを探しましたが、金ボタンのブレザーのオーダーに関する情報発信は思ったよりも限定的でした。上のボタンの記事でも引用したAlan Flusser (アランフラッサー) 氏による指南書「Dressing the Man」に記載のあった氏の見解をもとに、最終的に4つとすることで決着しました。

As to the ideal number of buttons for the blazer’s front and sleeves, personal taste tends to defer to tradition. To begin with, the number of sleeve buttons is related to the coat front button arrangement. With the most popular jacket model being the two-button, single-breasted, four sleeve buttons are the norm, although two are equally proper. Three sleeve buttons on a two-button coat seem slightly out of balance, whereas with the three-button model, three or four sleeve buttons harmonize handsomely.

(拙訳: ブレザーの前立てと袖のボタンの理想的な数については、人々の好みは伝統に沿う傾向がある。そもそも、袖ボタンの数はジャケットの前立てのボタンと繋がりがある。最もポピュラーな2つボタン前立てのシングルブレストの場合、袖ボタンは4つが一般的ですが、2つでも適切である。3つだとややバランスが欠くように見える。3つボタン前立ての場合、袖ボタンを3つまたは4つにすると調和が取れる)

Alan Flusser “Dressing the Man” より
Alan Flusser, “Dressing the Man”, Day St. 2002, ページ110
袖口に取り付けられた4つの金ボタン (1)
袖口に取り付けられた4つの金ボタン (1)
袖口に取り付けられた4つの金ボタン (2)
袖口に取り付けられた4つの金ボタン (2)

袖のボタンの数については、下のディスカッションスレッドも興味深いものでした。こちらでは、トラディショナルな英国風、そして現代最もオーソドックスなのは4つ、一部イタリアのものでみられるのが3つ、2つは米国の〈Brooks Brothers (ブルックスブラザーズ)〉のサックコートが源流、といった見解が繰り広げられています。

Protocol for Number of Sport Coat/Suit Sleeve Buttons?

なお、一番上 (肩側) のボタンホールだけ眠りになっているのですが、このメタルボタンにはナットやホーンなどのボタンとは異なり足があるので、他のボタンよりも少しだけ浮き足立ってしまいます (納品後しばらくして気づく)。こうしたメタルボタンの場合、すべての袖ボタンのアライメントを取るうえで、すべてのボタンホールを開けるのが最善かもしれません。

今回使用したメタルボタンの裏側
今回使用したメタルボタンの裏側

シルクの裏地に挑戦

今回、裏地にはシルクサテンを選択してみました。

裏地に設えたシルクサテン (1)
裏地に設えたシルクサテン (1)
裏地に設えたシルクサテン (2)
裏地に設えたシルクサテン (2)

そのいきさつを書いていると大変長いものとなってしまったので、裏地編はスピンオフし、下の記事でお届けしています。

その他のディテール

生地こそ王道的なものを選びましたが、ジャケットの全体像としてはナポリっぽいクセを少し含んだものとなりました。実のところ、この辺りはそこまでしっかり煮詰めて議論せず、前回作っていただいた別のジャケットを踏襲した結果このようになった側面もあったりします。このあたりは「ザ・紺ブレ」が言わんとするものからは少し脱線したディテールといえるでしょう。

袖山の雨降らし、いわゆるManica a mappina (マニカマッピーナ) については、改めて見ると今回は控えた方が良かったかなという気もしますが、一旦これでよしとすることにしました。着ていて気になったら、イセのギャザーを殺すような修理を相談してみようと思います。
(袖を外す修理となると、費用が高くつきそうですが……)

今回仕立てたブレザージャケットの、ラペルから肩周りにかけての雰囲気
ラペルから肩周りにかけての雰囲気

腰のポケットについても、これまたあまり深く考える事なくパッチにしましたが、既成服に目を向けるとフラップ付きの切りポケット、もしくはアメトラの流れを汲んだパッチ & フラップが多いようです。下の着画のようにドレスダウンするシーンを考慮すると、私としてはパッチポケットの方が使いやすさを感じるところではあります。

着てみた

さて、ここまで紹介したブレザージャケットを、まずはタイドアップして着用してみました。

紺ブレをタイドアップで

最近ネクタイを締めることは滅多になく、ここまでドレスアップすることに幾許かのぎこちなさを感じつつ。

タイドアップして着用 (1)
タイドアップして着用 (1)

余談ですが、今年ネクタイを着用した日がどれだけあったか、日記を遡って振り返ってみたところ、上の着画を撮影した日を含めてわずか6日でした。そのうち1日はプライベートで食事に出かけた日、別の1日はスタジオポートレートを撮りにいった日、残りの3日は洋服を仕立てに行った日でした。タイドアップすること自体は嫌いではありません。しかしながら、現在私が置かれた環境においては、仕事の場だと周囲から浮いてしまったり、周りに変な気を遣わせたりとあまり良い事がありません。

タイドアップして着用 (2)
タイドアップして着用 (2)

同じような理由で、上の写真の黒のオックスフォードシューズについても、最近滅多に出番が回ってきておりません……。かなり気に入っている靴なのですが。

紺ブレをニットのインナーでドレスダウン

そうしたこともあり、実際にはニットなどをインナーにすることが多くなりそうです。下の着画では、ハーフミルドくらいかなと思しきフランネルのトラウザーズを合わせました。起毛素材のトラウザーズとはコーディネートしにくい、と上でコメントしたものの、クリアな梳毛のジャケットとの間でギリギリ喧嘩を回避できているかなといったところです。

ニットのインナーでドレスダウン
ニットのインナーでドレスダウン

直近で紹介したドレスシューズやベルトとも合わせてみました。

バーガンディのドレスシューズ・ベルトとともに
バーガンディのドレスシューズ・ベルトとともに

それぞれ、以下の記事でハイライトしたものです。

最後に

今シーズン仕立てていただいたブレザージャケットを、納品後早速ご紹介してみました。タイミングよく、納品直後から仕事でお客さまの前に出るイベントが立て続いており、早速活躍の場面が多く生まれています。

上でも言及したとおり、紺ブレの注文服に関するエピソードはなかなか多くは見つかりませんでした。この記事が、紺ブレを仕立てようと検討をされる皆さまの参考となれば幸いです。

なお、今回のオーダーにあたって調べごとをしていた際にたどり着いた下のWebページ。紺ブレの本場アメリカの非白人の方から見ると、紺ブレはこんな風に見えるのだなというのがとても興味深い一節です。

I haven’t stepped into a country club, played golf, nor am I a WASP, but I’ll still wear this slightly obnoxious, preppy garment.

(拙訳: 私はカントリークラブを訪れてゴルフに興じることはなく、ましてWASP (White, Anglo-Saxon, Protestant) でもない。しかし、わずかに不愉快でプレッピーなこの服 (= 紺ブレ) を着ようとしているのである)

https://alittlebitofrest.com/2020/10/18/the-navy-blazer-with-brass-buttons/
The Navy Blazer with Brass Buttons
I haven’t stepped into a country club, played golf, nor am I a WASP, but I’ll still wear this slightly obnoxious, preppy...

今回紹介したブレザージャケット以外にも、私のワードローブにあるドレスウェアの一部を紹介した記事を公開しています。ご関心があれば、下のリンクから一覧をご確認ください。

「ドレスウェア」関連の記事一覧
手縫いの洋服を中心に、スーツやジャケット、トラウザーズなどのドレスウェアに関するレビューやエピソードを公開しています。

《関連記事》手縫いの洋服


コメント 本記事の内容について、ぜひ忌憚なきご意見をお寄せください。