フラットレンズの眼鏡

アイウェア。本Webサイトで盛り立てていきたいと考えるものの、なかなか筆が進まないトピックです。そんなこともあり、今回は手持ちの眼鏡のひとつを紹介していきたいと思います。

それがこちら。フラットレンズを装着した眼鏡です。

フラットレンズを装着した眼鏡。フレームはEYEVAN 7285によるもの
フラットレンズを装着した眼鏡。フレームはEYEVAN 7285によるもの

フレームは〈EYEVAN 7245 (アイヴァン7245)〉によるもので、プラスチックとメタルのコンビ。昨年のベストバイアイテムのひとつとして紹介したものでもあります。

フラットレンズとその特徴

まずは、「フラットレンズとは何か?」について。

フラットレンズとは

虫眼鏡のような古典的なレンズを思い浮かべるとイメージが湧くように、通常、眼鏡のレンズは曲面状に形成されています。

メガネのレンズ
Image by Sebastian Kalies from Pixabay

これに対し、フラットレンズは外面が平面となっています。かなり簡略化したものとはなりますが、一般的な近視矯正レンズとフラットレンズの断面図を下の図に示してみました。

一般的な近視矯正レンズとフラットレンズの断面図
一般的な近視矯正レンズとフラットレンズの断面図

このように、一般的な近視矯正レンズは断面がカーブしているため、フレームもそれに合わせて湾曲しています。一方、フラットレンズを嵌め込むためには、フレームは一般的なものとは異なり真っ直ぐでなければなりません。すなわち、フラットレンズには専用のフレームが必要となります。

独特のギラつき

そうしたフラットレンズの最大の特徴は、独特の光の反射です。

外面が平らなので、光源との角度次第でレンズ全体が光を反射してギラつきます。これは、下のような面々をイメージするとわかりやすいかと。

似たような性質を持つものとして、外面に反射膜を蒸着させたミラーレンズが挙げられます。ただし、ミラーレンズは鏡のようにどの方向からでも光を反射しますが、フラットレンズはちょうど窓ガラスのごとく、光源の位置に応じて特定の角度でのみ光を反射するという点で異なります。すなわち、フラットレンズは常にギラギラしているわけではないのです。

ミラーレンズのイメージ
ミラーレンズのイメージ
Image by nadejda bostanova from Pixabay

また、ミラーレンズの反射はコーティングによる作用のため、レンズのカーブ度合いを選びません。ミラーレンズは、スポーツ用サングラスなどハイカーブのサングラスに多く見られるのがその証左です。

フラットレンズの眼鏡を作ったいきさつ

そんなフラットレンズの眼鏡やサングラスですが、2017-2018年頃に少し流行ったような記憶があります。

安価な矯正フラットレンズの発見

ただし、当時は視力矯正用のフラットレンズは高額だったとも記憶しています。フラットレンズを使うデザイン性の高い眼鏡・サングラスを扱う眼鏡店にて、両眼で40,000円程度だったような。偏光や高機能コーティングならまだしも、ファッションに支払うにはやや躊躇してしまう金額です。

そうした中、昨年たまたま東京・神保町の眼鏡レンズ専門店〈れんず屋〉を訪れた際に、フラットレンズが比較的安価に売られているのを発見します。〈日本レンズ〉という初めて聞く名前の国産メーカーの、フラットな矯正用プラスチックレンズを19,800円から作れるとのこと (2023年当時)。

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一部では、2カーブ程度のものもフラットと呼んでいることもあるようですが、上記のレンズは外面が完全に平らなゼロカーブとなっています。

注文してみる

そこで、フラットレンズの眼鏡を1本作ってみることにしました。

フラットレンズ対応フレームの調達

その時点ではフレームも持っていなかったので、冒頭でコメントしたようにEYEVAN 7285のフレームを新規に購入しました。上でも書いた、過去のフラットレンズ流行時から存在していましたが、継続的に生産されているモデルではありません。たまたま、東京都内のEYEVAN直営店の在庫を手にすることができました。

EYEVAN 7285によるフラットな眼鏡フレーム
フラットレンズ向きの眼鏡フレーム。上から見てもほとんどカーブがないのがわかる

〈MATSUDA (マツダ)〉のヘリテージコレクションにも比較的フラットなフレームがいくつかあったのですが、私にはこれらを御せるほどのキャラクターが無いので断念。オブジェとして見ても非常に美しい眼鏡ですが、自分で掛けられなければ価値を発揮できません。

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ベースとなるレンズの選択

そして、フレームをれんず屋に持ち込んでレンズを発注します。

フラットレンズにはガラスとプラスチックの選択肢が用意されていたのですが、上で書いたようなギラつきはガラスの方が強いらしいです。一方、カラーレンズに仕上げることができるのは、染色が可能なプラスチックのみとのこと。今回はレンズに薄く色を入れようと考えていたので、プラスチックを選択します。また、私はそれほど強い近視ではないということもあり、安価な屈折率1.5のものを選びました。先ほど言及した日本レンズというメーカーの〈フラットCR〉という名称の製品です。

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レンズの色

レンズカラーは濃度50%のグレーとしました。はっきりカラーレンズであることがわかりつつ、アイコンタクトの妨げにならない程度の濃度です。もう少し薄めて30%程度でも良かったかな、という気もします。なお、今回の場合は、3,000円ほどのレンズ染色加工料を納めることとなりました。

実は、パンデミックによってマスクの着用が必須となった頃から、薄めのカラーレンズを入れた眼鏡が欲しいと考えていました。口元をマスクで隠したうえに濃色のサングラスを掛けると、少し近寄りがたい雰囲気が生まれてしまうので。しかし、このレンズを発注したのはCOVID-19が5類感染症に移行し、世間の脱マスク化が進んだ2023年5月から程なくした頃でした。やや遅きに失してしまった感があります。

コーティングの選択

近年では、レンズを通した視界を良好にする観点で、レンズに反射防止 (Anti-reflection, AR) コーティングを施すことが一般的です。

しかし、敢えてレンズの外面で光を反射させたい場合、こうしたARコーティングが裏目に出てしまいます。実際に、店の方の見解としても、フラットレンズの独特の表情を活かしたいなら外面には施さない方がいいとの談。他方で、着用時の眩しさを抑えるために内面には施工しておいた方がいいとのことなので、その提案に沿うことにしました。

完成した眼鏡

既に何点か写真を掲載しましたが、完成した眼鏡を少しだけ紹介します。

フラットレンズの眼鏡
フラットレンズの眼鏡
フラットレンズの眼鏡
フラットレンズの眼鏡
フラットレンズの眼鏡
フラットレンズの眼鏡

テンプルを畳むと非常に薄くなることから、過去に紹介した〈Legame (レガーメ)〉の革のケースに収納して使っています。

EYEVAN 7285によるフレームで作った眼鏡とLegameによる革の眼鏡ケース
Legameによる革の眼鏡ケースと

光り具合

少しわかりにくいですが、下の写真でレンズの表面がジワッと光っています。この写真の視点を基準に向かって左奥に置かれた光源の光を反射して輝いています。

フラットレンズの眼鏡。レンズの表面が光を反射して光っている
レンズの表面が光を反射して光っている

とある写真に、この眼鏡がもっとわかりやすく光っている様子が写っていました。わざとらしく落ち葉が舞っていますが (笑)

フラットレンズが光っている様子
フラットレンズが光っている様子

角度によって、このように独特なギラつきを見せてくれます。

フラットレンズが光っている様子

視力矯正器具としての性能

上でも言及したとおり、一般的に使われているメガネのレンズにはカーブが掛かっており、かつARコーティングが施されているものです。眼鏡の視力矯正器具としての本質に立ち返ると、やはり今回私が作ったようなフラットレンズには欠点があります。

最も気になるのは、状況によっては眩しさを感じること。内面にはARコーティングがなされていますが、背後方向から進入した光が内面で反射しているのが原因ではないかと見受けています。レンズを含めたフレーム全体が顔に沿ってカーブしておらず真っ直ぐなので、こうした光の進入が生じやすいのでしょうか?

また、視野周辺部の像のひずみが少し気になります。この眼鏡を掛けている時は、無意識に首を振ってレンズの真ん中で物を見ようとしているような感覚があります。一方、れんず屋の方曰く、中心部の収差はカーブレンズよりも低いのだとか。

最後に

今回は、私が昨年作った眼鏡を紹介しました。

フラットレンズを装着した眼鏡。フレームはEYEVAN 7285によるもの

この記事をしたためていた2024年12月某日の前日の夕方、東京・秋葉原の中央通りの人混みを歩いていました。すると、メイドカフェか何かのキャッチの女性から

「あ゙〜〜〜!そこのメガネギラギラのおにいさ〜〜〜ん!」

と熱烈なコールをいただきました。師走の人混みの中でもひときわ存在感を放つフラットレンズのアイウェア、ひとつ作ってみてはいかがでしょうか?

今回の眼鏡以外にも、本Webサイトでは私の愛用品のひとつである〈Jacques Marie Mage (ジャックマリーマージュ)〉の眼鏡を紹介しています。ご興味があれば、併せてご覧ください。

Authored by
Navy Circle

サルトリアル・クラフツマンシップを中心としたクラシックファッションを追いかけるY世代。Respecting the long-lasting classics and craftsmanship

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