現在、某所にてブレザージャケットを仕立てていただいているのですが、それに使用するメタルボタンを見繕っています (施主支給の形で、こちらで購入して支給するスキーム)。
仕上がりのイメージに加え、作りの良さや入手製、価格などを鑑みた結果、英国のボタンメーカー〈London Badge & Button (ロンドンバッジアンドボタン)〉のものを使用することにしました。
London Badge & Buttonについて
London Badge & Buttonのボタンはテーラーが在庫で持っていたりするのを見かけることも多く、ボタン専業メーカーとしては比較的知名度の高いものではないかと思います。国内の付属屋でも取り扱いがあると聞きます。常に国内で在庫しているのかは不明ですが。
下の伊勢丹のWebページによると、創業は1685年の老舗なのだとか。
しかしながら、London Badge & Buttonの公式Webサイトには1973年設立とあります。また、英語の文献で、London Badge & Buttonがそれほど古くから存在していることを示すものは見つかりませんでした。親会社の〈Toye, Kenning & Spencer (トイ、ケニング & スペンサー)〉が1685年の創業のようなので、一部で混同されているのかもしれません。
選んだボタン
今回は、プレーンでツヤあり、平らな形状のゴールドのボタンを狙い撃ちで探すことにしました。巷では、ブレザージャケットのメタルボタンとしてシルバー色のものが人気のようですが、クラシックかつ国際標準なのは依然ゴールドでしょう。すなわち、ファッション (トレンド) ではなくクラシックであるかを重視するとすれば、私はゴールドが無難な選択肢になるのではないかと考えます。また、一口にゴールドのメタルボタンといえども、形状が平らなものだけでなくドーム状のもの、ツヤの有無や模様・紋章の有無など、さまざまなバリエーションが考えられます。かの有名なAlan Flusser (アランフラッサー) 氏は、これまた有名な著書「Dressing the Man」のなかで下のように述べています。
The most traditional blazer button is the brass or gilt variety. Unless your family has its own coat of arms or you are entitled to wear a distinguished club button, the classiest choice is the plain, flat English gilt button with a shank that must be anchored into the cloth. Alternatively, men with gray hair or those planning to wear predominantly gray-toned trousers will often opt for the aforementioned button in a dulled nickel or silver shade. In the case of brighter blue tropical wool or linen blazer, off-white mother-of-pearl buttons are always an option.
(拙訳: 最も伝統的なブレザーのボタンは、真鍮製か金メッキである。家紋がある、もしくは特定のクラブのボタンを着用する権利がある場合を除き、最も上品なのは、平らで英国製、そして足付きの金ボタンであり、足が生地にしっかりと縫い付けられている必要がある。他方、白髪の男性や、グレーのトラウザーズを主に着用する男性は、くすんだニッケルやシルバーのボタンを選んでもよい。明るめのブルーのトロピカルウールやリネンのブレザーの場合、オフホワイトの白蝶貝のボタンが有力な選択肢となる)
Alan Flusser, “Dressing the Man”, Day St. 2002, ページ110
そうした中で、たまたまLondon Badge & Buttonのボタンを安く入手することができそうだったので、直近の1着分に加えてもう1着仕立てられる分だけ、ボタンを購入してストックしておくことにしました。前身頃のボタンについては、6つボタンのダブルブレストのジャケットを2着作ったうえで、紛失時の予備が数個確保できるだけの数があります。
London Badge & Buttonのボタンは、ジャケット1着分が化粧箱にセットされた状態で売られていることが少なくありませんが、今回私が入手したのはバルクで売られていたものです。店頭で客が触れる状態になっていたためか、全体的に多少小キズが見受けられますが、格安だったので不満はありません。
前身頃用の大きなものは直径21 mmで、重さは4.6 g。袖用の小さなものは直径15 mmで、重さは2.8 g。いずれも、裏にはブランドと「Made in England」の刻印があります。真鍮のダイキャストに金メッキが施されているのでしょうか。学生服のボタンのような安っぽさは一切なく、しっかりとしたボタンです。
仕上がりのイメージ
今回のオーダーで選んだ生地の色味・生地感に近い手持ちのジャケットに、購入したボタンを載せてみました。
他に候補に考えたもの
今回紹介したLondon Badge & Buttonですが、実は本命のボタンではありませんでした。
Benson & Cleggのプレーンボタン
本命にしていたのは、同じく英国・ロンドンの〈Benson & Clegg (ベンソン & クレッグ)〉でした。
ロイヤルワラントメーカーであるBenson & Clegg。London Badge & Buttonなど他のメーカーと比較して長い歴史を持ち、格式が高そうに感じます。しかしながら、平らでプレーンなゴールドボタンが欠品・入荷未定という状況だったため、撤退しました。
スクリーンショット出典: https://bensonandclegg.com/collections/plain-elegant-blazer-buttons/products/giltblazerbuttonsetsinglebreasted (2023年9月取得)
London Badge & Buttonのツヤ消しのゴールドボタン
また、上で紹介したボタンとは別に、London Badge & Buttonによる艶消しのゴールドボタンも1着分購入してみました。個人的にはツヤありの質感が好きですが、選んだ生地に合うのはどちらなのか、中縫いの際に確認したいと考えています。
英国の軍隊向け被服製品サプライヤー「E. C. Snaith」の取扱いボタン
英国で軍隊に所属する方に向けて、制服やボタンを含む付属品を供給する〈E. C. Snaith〉の取扱いのボタンも眺めてみましたが、今回の条件に見合うようなものは見当たらず。
E. C. Snaithにおける連隊固有のボタンの取り扱いは多岐に渡りますが、私はそうした特定の組織への帰属を示すアイテムを取り入れるのには抵抗があります。同様の理由で、レジメンタルタイも避けるようにしています。タータンについては、現代ではファッションに高度に融合しているのでOKかなと。
スクリーンショット出典: https://www.ecsnaith.com/buttons/gilt.html (2023年9月取得)
Holland & Sherryのビンテージボタン
〈Holland & Sherry (ホーランド&シェリー)〉といえば、世界最古の服生地のマーチャントとして名の知れた存在です。生地だけでなく、Holland & Sherryの企画によるメタルボタンも存在するようで、eBayなどで販売されているのを目にすることができます。
スクリーンショット出典: https://www.ebay.com (2023年9月取得)
Holland & Sherryの紋章付きボタンも一興かと思いましたが、元々のコンセプトである平ら・プレーン・ゴールド (金メッキ) からブレないようにすることに。
Sporrongのビンテージボタン
今回のブレザーに使うことを積極的に考えたわけではありませんが、ボタン探しをする中で興味深いものがありました。
スウェーデンのロイヤルワラントメーカーである〈Sporrong (スポロング)〉による、ビンテージのボタンです。Sporrongは1666年創業の非常に長い歴史を持つ装飾品メーカーで、当時から軍服のボタンを含むメタルウェアを製造していたようです。
Sporrongのボタンを見つけたのは、東京・銀座のボタン専門店である〈ミタケボタン〉の店頭でした。
店頭で見ることができたのは、恐らく下のスクリーンショットのものと同一かと思います。上で挙げたボタンとは雰囲気がガラッと変わり、表面にエナメルの装飾が施されたドーム型のボタンです。紋章は、スウェーデンの国章のように見受けられます。
スクリーンショット出典: http://shop.mitakebuttons.com/?pid=89655655 (2023年9月取得)
スクリーンショットに見えるように、1つ6,000円以上となかなか手を出しにくい逸品です。
最後に
ややニッチなテーマですが、ブレザージャケットのメタルボタンに関する私の近況を書き起こしてみました。このブレザージャケットが仕上がった際には、改めてその完成形を紹介したいと思います。
このほかにも、服飾関連の生地・素材に関する記事をいくつか公開しております。ご興味があれば、下のリンクからその一覧をご確認ください。
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