ミシン仕上げのボタンホールを手縫いにリメイクする

ボタンホール。ボタンを留めるという元来の機能面もさることながら、意匠面でも重要なコンポーネントです。特に、ジャケットや一部のコートのフラワーホール (襟穴) は、服の表情を大きく左右します。

手縫いのフラワーホール
手縫いのフラワーホール

高級なスーツやジャケット、コートの場合、ボタンホールを手縫いでかがっているものが多いです。一方、それほど高級でない服だとしても、ボタンホールだけでも手縫いにすれば高級感を演出できるのでしょうか?かく思案した3, 4年前の私は、安価なスーツのジャケットのボタンホールを手縫いにリメイクしてみることにしました。

今回は、記憶を頼りにその際の経験を紹介したいと思います。

リメイクしたジャケット

ボタンホールをリメイクしたのは、10年ほど前に某百貨店で注文したイージーオーダーのスーツのジャケットです。国内の工場で縫製されたものです (恐らくO社)。

ボタンホールをリメイクしたスーツ

注文当時は「手縫いのボタンホールの良さ」など一切眼中になく、ボタンホール手縫いのオプションがあるかを尋ねることすらしていませんでした。

ラペル幅などにトレンドからの逸脱を感じてしまい、ボタンホールのリメイクを検討していた当時、既に着用頻度が限られていました。そうした中でも、この上着のボタンホールを手縫いにするとどれくらい印象が変わるのだろうか?という好奇心から、リメイクを試してみることにしました。

リメイク前のボタンホールの写真を残せていなかったので、ボタンホールの仕様が近しい別のスーツの写真を下に挙げています。まずはフラワーホール。いかにも「ミシンで仕上げました」と言わんばかりの、少し味気のない雰囲気です。穴は穿たれておらず、ステッチだけのフラワーホールです。

ミシン仕上げのフラワーホール
ミシン仕上げのフラワーホール
ミシン仕上げのフラワーホール (寄り)
ミシン仕上げのフラワーホール (寄り)

角度をつけて見ても、立体感がありません。

ミシン仕上げのフラワーホール (斜めから)
ミシン仕上げのフラワーホール (斜めから)

裏側はこのようになっています。

ミシン仕上げのフラワーホール (裏側)
ミシン仕上げのフラワーホール (裏側)

前身頃のボタンホールです。

ミシン仕上げの前身頃ボタンホール

誰にリメイクしてもらうか

リメイクの依頼先を探すことが、当時一番苦心したポイントでした。

新品の筒袖のジャケットに対して、袖のボタンホールを開ける場合であれば、「Sarto」や「心斎橋リフォーム」といったリフォーム業社が手縫いオプションを設けていることは知られています。一方で、既設のボタンホールを手縫いに改修する、といった修理はあまり聞かれません (依頼すれば、引き受けてもらえるのかもしれませんが)。

当時の私の場合は、たまたまInstagramで手穴かがりを専門にされている個人の方に辿り着き、その方に依頼をすることにしました。Instagramで作例も公開されており、非常に丁寧で美しい仕上がりでした。

Image by ❄️♡💛♡❄️ Julita ❄️♡💛♡❄️ from Pixabay

少しぼかした書き方になりますが、私が依頼した職人さんの場合、一穴をかがる費用は1,500円前後でした。実際には、ボタンホールの大きさや仕様 (ミラネーゼ仕上げなど) によって前後します。私が聞くところによると、ジャケットの前身頃のボタンホールを一穴かがるのに要する時間は一般的に15-20分のようです。手穴かがりには専門技術が要求されることを鑑みると、かなり格安で引き受けていただけた印象です。

どうリメイクするか

上にも書いたように、ボタンホールのリメイクには一穴いくら、の単位で費用が発生します。ジャケットには、上で写真を掲載したフラワーホール・前身頃のボタンホールに加えて袖口や内ポケットにもボタンホールがあります。全部のリメイクを依頼すると費用がかさむので、フラワーホールと前身頃のボタンホールだけをリメイクしてもらうことにしました。

ボタンホールに関しては、当時の私は「ミラネーゼ仕上げこそ至高」という勘違いに陥っており、芯糸と絹糸を使ったミラネーゼで仕上げていただくようリクエストしました。

ピークドラペルに施された、ミラネーゼ仕上げのフラワーホール
ピークドラペルに施された、ミラネーゼ仕上げのフラワーホール

前身頃のボタンホールのかがり方は、職人の方による現品をご覧いただいての判断としました。

なお、ボタンホールのリメイクは、生地によっては難しいこともあるようです。薄手の生地や柔らかい生地の場合、既存のボタンホールの糸をほどく際に生地がほつれてしまうためとのこと。今回リメイクを依頼したジャケットの場合、生地が目付300-350 g/m2程度のサージなので、懸念はなさそうでした。

リメイクの結果

さて、リメイク後の仕上がりはどのようになったのでしょうか?

まずは、フラワーホールから。

リメイク後のフラワーホール
リメイク後のフラワーホール

ミラネーゼのステッチ自体は綺麗なのですが、元のボタンホールの糸を解いた跡が目立ちます。また、ボタンホールの糸を解いた影響か、穴の中に糸が広がっていてあまり綺麗ではありません。元の味気ないフラワーホールよりも見栄えはしますが、仕上がりは十分満足のいくものではありません。

もしかすると、下のジャケットのようにミラネーゼではない仕上げで依頼をすれば、もう少し綺麗に仕上がったのかもしれません。

手縫いのフラワーホール
手縫いのフラワーホール

次に、前身頃のボタンホール。

リメイク後の前身頃ボタンホール
リメイク後の前身頃ボタンホール

こちらは、元のボタンホールの糸を解いた跡なども見受けられれず、綺麗に仕上がっています。手縫いならではの、糸目が詰まった感じがいいですね。

リメイク後の前身頃ボタンホール (斜めから)

「手縫いのボタンホールは機械のそれよりも柔らかく、ボタンが掛けやすい」とよく言われますが、リメイク前後での柔らかさ・ボタンの掛けやすさに違いは感じられませんでした。

最後に

好奇心から着手してみた、ボタンホールの手縫いへのリメイク。

もちろん、最初から手縫いでオーダーしておけば済む話ではあるのですが、どうしても既存のボタンホールが気に入らない、という場合には十分取り得る策かなと思います。ただし、私がミラネーゼ仕上げにこだわって失敗したことを踏まえ、元のボタンホールの糸を解く影響を計算に入れて仕様を決めるのが吉のようです。

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