クロコダイル革の小物を作る (1) きっかけと複雑な思い、そして告解

「こんなイメージの、ワニ革の小物が欲しい」

ふんわりとした構想止まりだったのものを、いろいろな巡り合わせの結果形にすることができました。

保革クリームを塗り込んだ後のクロコダイル革のミニ財布
ナイルワニの革でできたミニ財布 | Small wallet made of Nile crocodile skin

ナイルワニ (ナイルクロコダイルとも) の革の顎を使ったミニ財布で、エキゾチックレザーを得意とするメーカーで作成いただいたものです。元ネタはあり、そこから型紙を起こしていただくような形を取りましたが、本質的にはフルオーダーでの製作となっています。

オーダーのきっかけ

ミニ財布を誂えてもらうことにした背景に、下の2つの構想がありました。

完全キャッシュレス時代到来まで使える「アガリ」の財布が欲しい

私はキャッシュレス派で、なるべく全ての支払いにスマートフォンを使った電子決済を使うようにしています。スマートフォンひとつで決済や身分・資格証明などを全て網羅できることが理想です。しかしながら、2022年現在、日常生活は電子的なトランザクションだけでは完結しません。こと決済に関しては、クレジットカードと最低限の現金は欠かせません。

そうした思想もあり、せめて財布はミニマムにすべく過去10年以上にわたってミニ財布を愛用してきました。運転免許証、健康保険証にクレジットカード2枚と、最低限の紙幣・硬貨が入るような財布です。カテゴリとしては男性用の小銭入れになるものですが、私は基本的に札入れなどは併用せず、ミニ財布ひとつで済ませてきました。ただし、決済の際にスマートな立ち振る舞いが要求されそうな場所に赴くときだけ、革のマネークリップを併用することがあります。

長らく愛用してきたミニ財布 | Small wallets of my own, having been used for the past decade
長らく愛用してきたミニ財布 | Small wallets of my own, having been used for the past decade

一方、この10年でキャッシュレス経済も徐々に進展してきました。もしかすると、次の10年で念願の「完全キャッシュレス」時代が到来しているのかもしれません。だとすると、もし今から新しい財布を手に入れるとすれば、それが「アガリ」の財布になるのではないか?

最後の財布になるなら、ラグジュアリーで使い勝手のいいものにしたい、ということでワニ革、特にクロコダイル革に関心を持ちました。ただ、ハイブランドも含め、既製品の中にクロコダイル革のミニ財布で使い勝手が良さそうなものが見当たらず、本当に進めるならオーダーかなぁ、と構想していました。

世の中がそれを良しとしない時代が来る前に、ワニ革という素材を楽しみたい

私は、ワニ革という素材には昨今の価値観の変化に起因した「賞味期限」があると感じます。もしかすると、牛革や毛織物なども含む全ての動物由来の素材にも同様の賞味期限があるのかもしれません。しかし、ワニ革のそれは他よりも期限が間近に迫っているのではないかと考えます。

ワニ革サプライチェーンと動物福祉

ファッション産業や消費者の意識の中にも、サステナビリティが重要な位置付けを占めるようになってきました。このサステナビリティの中でもファッションに特に大きな影響があるのは「エシカル消費」であると見受けます。この考えの中には「動物福祉」も含まれます。

エシカル消費とは | 消費者庁

その一方で、ワニ革のサプライチェーンには、動物福祉の観点で芳しくない噂も多く聞こえてきます。特に目を引くのは、世界各地にあるワニの養殖場においてワニが劣悪な環境で飼育されていたり、残酷な方法でと畜されていたりする、といった報告でしょう。

養殖場のクロコダイル | Crocodiles at a farm | Image by Kreingkrai Luangchaipreeda from Pixabay
養殖場のクロコダイル | Crocodiles at a farm | Image by Kreingkrai Luangchaipreeda from Pixabay

素人の私でも知っている範囲だと、下のPaolo Marchetti氏によるルポルタージュがあります。

THE PRICE OF VANITY - Paolo Marchetti Photographer
Vanity it has always triggered a huge interest, especially in the arts, just think of painters such as Tiziano and Charl...

氏の詳細な記事は、「DAYS JAPAN 2015年4月号」や「ナショナルジオグラフィック日本版 2016年9月号」などにも掲載されているようです。前者は、私も古本を取り寄せて読んでみました。

毛皮ブーム再来の陰で
ファッション界に毛皮が再び返り咲き、人気の素材としてもてはやされている。一方、生産の現場では、毛皮用の飼育動物の扱いが見直されつつある。

なお、上の報告でワニと同列で報じられているミンクやキツネの場合、毛皮のために動物を殺めているという性格も、現代の価値観では受け入れられにくくなっているものなのだと思われます。これは、皮革が食肉の副産物と位置付けられる牛や食用馬とは対照的です。食肉は、人間の営みの中で不可欠なものとして、それに関わる殺生がやや許容される性格があるのではないかと感じます。その副産物として革も余すことなく活用するのは、少なくとも「いただきます」の精神には適ったものかもしれません。

そうした中で、ワニはどちらの位置付けとなるのでしょうか?確かに、ワニの肉も食用されますが、人々をワニの養殖・狩猟に駆り立てるのはその皮革の価値なのかもしれません。革に価値がなくとも、人々はワニの養殖・狩猟を続けるのでしょうか?私には明確な答えがわかりません。

業界内の実際の動きとして有名な所だと、CHANEL (シャネル) やBURBERRY (バーバリー) などのハイブランドが既にワニ革を含むエキゾチックレザーの使用廃止を宣言しています。

「シャネル(CHANEL)」が、エキゾチックレザー(アリゲーター、クロコダイル、リザード、スネイク、ガルーシャ)の使用を廃止すると発表した。
使用廃止についてシャネルは、ブランド側が求める倫理基準を満たすエキゾチックレザーを調達することが近年困難になってきている点を理由に挙げ、「この決断は、クリエイティブ・スタジオの比類なきクリエイティビティ、卓越した技術、高い品質基準、革新的な素材、そして入念な仕上げといったシャネルのものづくりの根幹はそのままに、次世代のハイエンド製品を生み出す機会に繋がると考えている」とコメントしている。

シャネルがエキゾチックレザーの使用廃止を発表
https://www.fashionsnap.com/article/2018-12-07/chanel-exoticskins/

上の引用における黄色のハイライトは私の方で加えたものですが、これが現状のエキゾチックレザーのサプライチェーンの問題を如実に物語っているものだと考えます。

それでも、ワニ革を楽しみたい、という告解

ワニ革における動物福祉の問題を語っておきながらおかしな話かもしれませんが、それでも私はワニ革というマテリアルに強く惹かれてしまいます。不均一で美しいスケールが醸し出すラグジュアリーな雰囲気を、手中に収めたい。

天然藍で染色したアリゲーターの革 Alligator skin dyed with natural indigo
天然藍で染色したアリゲーターの革 | Alligator skin dyed with natural indigo

私の消費行動が、結果としてワニの動物福祉の問題を助長してしまうようなことになるかもしれません。それでも、私は自分の欲求に忠実に、ワニ革のアイテムを新規に手に入れることにしました。

ただし、冒頭でも挙げたように、ワニ革のアイテムには「賞味期限」があるはずです。サステナビリティやエシカル消費、動物福祉に関する意識は、今後も世間全般で高まっていくことでしょう。もし、ワニ革のサプライチェーンにおける動物福祉の問題が今後も改善されることがなければ、ワニ革を身につけていると後ろ指を指されるような時代が到来するでしょう。

一方で、そうした時代にはキャッシュレスが世の中にあまねく浸透しているのであれば、財布なんて不要です。ワニ革がNGの時代が先に来るのか、はたまた完全キャッシュレス時代が先に来るのか。もしくは、ワニ革のサプライチェーンがエシカルなものに転換するのか。今回作ったクロコダイル革の財布を愛でながら、時代がどう移り変わるかを見つめていきたいと思います。

次の記事にて、オーダーに向けたメーカー・工房探しと革探しについて紹介します。

Authored by
Navy Circle

サルトリアル・クラフツマンシップを中心としたクラシックファッションを追いかけるY世代。Respecting the long-lasting classics and craftsmanship

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