象革のミニ財布を誂える

以前、クロコダイル革でミニ財布を作っていただいたエピソードを公開しました。

とある既製品のミニ財布をベースとして、型紙作成を含めてスクラッチから作っていただいたものです。他の財布ともローテーションしながら2年ほど使い込み、少しアジが出てきたかなと感じています。とはいえ、納品当時はまだまだパンデミックの最中で、それ以前と比べると財布を持って出かける機会はあまり多くはなかったのですが。

少しエイジングが進んだクロコダイル革のミニ財布
少しエイジングが進んだクロコダイル革のミニ財布

今でも大変気に入っており、当時はこれが「アガリ」の財布になるかなと思っていましたが、案の定おかわりオーダーをしてしまうこととなりました。それが、今回紹介させていただく象革のミニ財布です (下の写真の左側)。

象革とクロコダイル革のミニ財布
象革とクロコダイル革のミニ財布

注文の経緯

実のところ、当初は象革はあまり視野になく、別の類の革で製作をお願いできないかと考えていました。

本命だったヌバックのワニ革

有望視していたのが、ヌバックのワニ革です。ヌバックのワニ革は以前からとても気になっており、何かいい革小物がないかと探していました。また、少し予算は跳ね上がってしまいそうではありますが、ヌバックのワニ革でドレスシューズを作るのもいいなと考えています。下で書いた内容と一貫性のない願望ではあるのですが……。

色味としては、下のような茶色やモスグリーンがターゲット。

ヌバックのワニ革のイメージ (茶色とモスグリーン)
ヌバックのワニ革のイメージ (茶色とモスグリーン)

そうした構想を、前回ミニ財布を作っていただいた工房に相談したところ、残念ながらヌバックのワニ革は色を問わず材料としての在庫がなく、かつ革問屋からの仕入れも難しそうとのこと。起毛加工を施してくれる加工屋との繋がりがあったりするのではないか、と期待していたのですが……。

思いつきで尋ねてみた象革

そうしたなか、テクスチャが比較的マットという点でヌバックと共通項を持つエキゾチックレザーとして、象革の存在が頭をよぎります。そこで、象革ならどうかと尋ねたところ、早速サンプルを郵送していただきました。サンプルは2種で、芯通しで黒・灰色に染められたものです。

象革のサンプルとクロコダイル革のミニ財布
入手した2つの象革サンプル

どちらにするか2週間ほど悩みましたが、黒の方が仕上がりのイメージを明確に持てたので、黒で製作を進めていただくことにしました。

象革の流通について

本題の完成品の紹介の前に、象革の商業取引の状況について簡単に整理しておきたいと思います。どうか、自称意識高い系Webサイトの戯言にお付き合いください。

サステナビリティ
「サステナビリティ」の記事一覧です。

流通している象革はアフリカゾウの革

さて、広く知られているとおり、象にはアジアゾウ・アフリカゾウの2種が存在します。いずれも、国際自然保護連合 (IUCN) のレッドリストにおいて絶滅危惧種に指定されていますが、革の商業取引に関する規制には差異があります。

アジアゾウはワシントン条約 (CITES) 附属書Iにリストされており、商業取引は原則として禁止されています。一方、一部の国を原産とするアフリカゾウは附属書IIに名前が挙がっており、適正な手続きのもとで日本への皮や革の商業輸入が可能となっているようです。すなわち、今回の象革もアフリカゾウのものであるはず、といえます。

アフリカゾウ
アフリカゾウ
Image by xiSerge from Pixabay

皮革の入手性とは対照的に、日本の動物園で飼育されている象の大多数がアジアゾウなのだとか。

アジアゾウ
アジアゾウ
Image by Penny from Pixabay

エシカルなサプライチェーン?

アフリカゾウの革を使うにせよ、輸入には原産国のCITES許可書の発行を含めた手続きが要求されることとなります。前回のクロコダイル革に続いて相談をした工房は全日本爬虫類皮革産業協同組合 (JRA) への登録があるので、材料のソーシングは抜かりなく進めてくれているのだろうと想定しています。

JRAは名前こそ「爬虫類皮革」とありますが、象に加えてアザラシやオットセイ、カバなどの皮革も含めたエキゾチックレザー全体の産業振興や適正利用の啓発を行っているようです。

エキゾチックレザーマーケットジャパン
エキゾチックレザーの総合サイト「エキゾチックレザーマーケットジャパン」のHP。クロコダイル、パイソン、リザード、オーストリッチなどのエキゾチックレザーに関する知識から、日本製エキゾチックレザー製品の証であるJRAタグについてご紹介しています...

一応、頼めばJRAのタグを添付してもらえたのですが、工房側で発行事務手数料 (?) を負担する形となるとのことだったので、今回は辞退することとしました。将来、仕上がった財布を売却するような見通しもないので。

完成した象革のミニ財布

こうした経緯で、象革のミニ財布を注文しました。形状・設計は前回のクロコダイル革を踏襲していますが、クロコダイル革と象革とで革の固さや厚みが異なるため、型紙は前回から少し調整いただいているとのことです。

ミニ財布の全体像

完成した象革のミニ財布
完成した象革のミニ財布

前回同様、かぶせから本体までぐるっと一周、1枚のパーツで仕立てていただいており、象革の模様を楽しむことができます。

1枚のパーツの象革で作られた本体部
1枚のパーツの象革で作られた本体部

下で引用掲載したのは、前述のJRAが発行した文献の1ページです。こちらにある写真と現物の革の模様を見比べるに、アフリカゾウの鼻の革が使われているように見受けられます。使用した部位はこちらからリクエストしたわけではなく、たまたますぐに入荷できたものを当てがっていただいたようです。

アフリカゾウの革の部位とテクスチャの違い
アフリカゾウの革の部位とテクスチャの違い
出典: 千石 正一 他 監修、「エキゾチックスキンの基礎知識」、1999年、ページ18

ミニ財布の細部

また、今回は内装も含め、外から見える・覗けるところはすべて象革となっています。いわゆる無双仕上げというものです。

内装にも表面と同じ象革を使った無双仕上げ

前回のクロコダイル革を使ったオーダーの際は、クロコダイル革に色がよく似た牛革を支給して内装に使っていただきました。クロコダイル革は斑 (ふ) はあれども全体としてツヤがあるため、内装がスムースな牛革でも違和感なく調和しますが、起毛感のある象革だとツヤ革とは少し喧嘩しそうな恐れも。そのため、今回は内装も共地を使用するメリットは多分にあります。

普段は見えないところですが、貴重な革が使われているのは贅沢。笹マチの内側でさえもエキゾチックレザー。

内装にも表面と同じ象革を使った無双仕上げ
内装にも表面と同じ象革を使った無双仕上げ

バネホックも、前回同様にPrym (プリム) 社のものを使っていただきました。やはり、Prymのバネホックのスナップ感はとても良好。

象革のミニ財布に取り付けられたPrymのバネホック
Prymのバネホック

前回失敗したコバの仕上げ

そして、前回上手くいかなかったコバの仕上げ。今回は、最初から水性顔料で仕上げていただきました。色は、奇を衒わずに革と同色の黒にて。

革と同じ色の水性顔料で仕上げたコバ
革と同じ色の水性顔料で仕上げたコバ

最後に

今回は、今年に入ってから製作いただいた、象革を使ったミニ財布を紹介しました。

象革のミニ財布を手に持って

エキゾチックレザーということもあり、一見繊細そうなイメージもよぎる象革やワニ革ですが、実は非常に丈夫な革だとされています。この2つがあれば金輪際財布に困ることはないでしょうが、やはりヌバックのワニ革が気になります。次こそ、アガリの財布となるはず。

財布を含む革小物や鞄について、他にもエピソードを公開しています。よろしければ、下のリンクから併せてご覧ください。

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