ここ数日、東京では陽気に包まれる日が続いています。

三寒四温で行ったり来たりの気候が続きそうですが、いよいよ春物の洋服の出番が巡ってきました。そこで、今回は昨年2024年の春に仕込んだ一着である、〈Valstar (ヴァルスター)〉の〈Valstarino (ヴァルスタリーノ)〉を取り上げたいと思います。

Valstarinoといえば、スウェードを筆頭にさまざまな素材が表地に使われていますが、今回の主役はリネン100%のトロピカル (平織り) で作られた、少しばかりニッチなものです。
元々所有していたValstarino
本題に入る前に、昨年このリネンのモデルを入手する前から持っていた別のValstarinoについて触れてみたいと思います。
定番なるゴートスウェード
それがこちら。ゴート (山羊革) のスウェードをボディに使ったものです。

上でも言及したとおり、Valstarinoにはスウェードに限らず、コットンやナイロンなどの布帛のものなど、数多くのバリエーションが存在します。ただ、下のValstarによる説明にもあるとおり、ゴートスウェードこそがValstarinoのデザインソースとなっている米軍の〈A-1フライトジャケット〉の流れを忠実に汲み取ったものであるといえそうです。そうしたこともあり、主役のリネンモデルに先立って取り上げることにした次第です。
Very few original A1s exist today, but it’s well-known that the shell was made from capeskin, which is a tough, grainy and malleable leather derived from sheep.
(中略)
Our Valstarino pays homage to the iconic A1 and in turn, elevates it through small tweaks in the design and use of luxurious materials with a high level of craftsmanship.
While the Valstarino is available in woven and technical fabrics, we pride ourselves on our rendering of it in goat suede, which has the optimal level of softness, elasticity and breathability. We source the majority of our skins from a venerable tannery in Tuscany, and we press them to achieve the desired thickness of 0.5mm to 0.6mm.
The skins are then carefully tanned to obtain rich colours full of depths. From conservative browns and navies to more contemporary colours, the Valstarino suits all occasions and looks great in every tone. The skins are transported to our laboratory in the Veneto and Tuscany regions, whereby our team craftspeople scan them for any imperfections and irregularities.
(拙訳) 現存するオリジナルのA1フライトジャケットはごく少数であるが、そのシェルはケープスキンという、丈夫でシボがあり、柔軟性に富む羊革であることは広く知られている。
(中略)
我々のValstarinoは、アイコニックなA1フライトジャケットをリスペクトしつつ、デザインを調整し、高級素材と高いレベルの職人技を投入することで、その魅力を一層引き立てている。
Valstarinoは布帛や機能性素材でも展開しているが、特筆すべきは極上の柔らかさとしなやかさ、通気性を兼ね揃えているゴートスウェードである。我々は、主にトスカーナの由緒あるタンナリーから革を調達し、0.5から0.6 mmと理想的な厚さに加工している。
革は慎重になめされ、奥行きのある豊かな色合いとなる。保守的な茶色や紺色に始まり、コンテンポラリーなものに至るまで、Valstarinoにはさまざまなオケージョンに即した色彩が用意されている。革はヴェネトおよびトスカーナに位置する我々のラボに所属する職人によって、欠陥や色ムラ、凹凸などが丹念に検査される。
出典: https://www.valstarmilano.com/the-valstarino
色は金茶色。私の勝手な思い込みかもしれませんが、ゴートスウェードという素材がValstarinoの看板であるのと同様、この金茶という色もValstarinoを象徴するキャラクターを備えたものではないでしょうか。「サンダル (Sandal)」という名前が付けられた色なのですが、なぜこの色をサンダルと呼ぶのか、その理由が気になるところです。サンダルウッド (Sandalwood、白檀) に由来している、などでしょうか。

裏地なしの春夏モデル
ところで、ゴートスウェードのValstarinoは、春夏と秋冬の通年で展開されていますが、春夏モデルと秋冬モデルの間にいくつかの違いがあります。
その際たるものは、裏地の有無です。そして、私が選んだのは裏地なしの春夏モデル。ただし、意図的に選んだわけではなく、たまたま手に取って購入に至ったのが春夏モノであったというだけです。購入当時は、春夏モデルと秋冬モデルの間に違いがあることや、裏地ありのオプションが存在することなど知る由もありませんでした。
私の場合、Valstarinoは初夏や初秋に軽快に着たいブルゾンジャケットという位置付けです。多少涼しく、かつ細かい温度調整にも向いているという点で、裏地なしのものを選んで正解でした。

リネンモデル購入のきっかけ
さて、ようやくここからが本題です。まずは、リネンのValstarinoの購入に至った理由から。
昨年、春夏物の洋服の下見にいくつかのお店を巡っていたところ、もっとも目を惹かれたのが今回のリネンのValstarinoでした。確か、東京・丸の内の〈Beams House (ビームスハウス) 丸の内店〉や、同六本木の〈Ring (リング)〉もしくは〈guji (グジ)〉など、いくつかの店舗で取り扱われているのを目にしました。
そんなこんなで興味を持って調べていると、一部のオンラインストアでも取り扱いがあることを発見します。ポイント還元などで多少安く手に入ることもあることから、最終的にとあるオンラインストアで購入しました。
リネンのValstarinoのディテール
次に、一部ゴートスウェードのものとも比較しながら、ディテールを覗いてみたいと思います。

リネンの生地
冒頭でも書きましたが、生地はリネン100%のトロピカル。
シャツ用ではなく、ジャケット用のリネンファブリックであるように見受けます。目付は目測で250-300 g/mくらいでしょうか?

色はやや赤みのある焦茶色で、「Caramello (カラメッロ)」すなわちキャラメルという名前となっています。
Valstarinoの公式Webサイトには、現時点でもリネンモデルが掲載されています。そちらを見ると、生地の出自はイタリア・ナポリ近郊だとの記述があります。ナポリでリネンだと、生地マーチャントの〈Caccioppoli (カチョッポリ)〉もしくは〈Ariston (アリストン)〉などが取り扱っている生地などでしょうか。

リネンのValstarinoを手にする前は、ジャケット用のリネン地を使ったオーバーシャツが欲しいと思っていました。下の〈Luca Avitabile (ルカアヴィタービレ)〉のオンラインMade-to-orderを試してみようかなとも画策していました。ただ、こちらのブルゾンジャケットが手に入ったので、オーバーシャツとは使い勝手がやや異なるものの、これでよしとしています。

リネンとゴートスウェードの風合いの比較
リネンのものとゴートスウェードのものを並べてみました。

Valstarinoについては、ツルッとしたコットンや化繊よりも、これら2つのようにザラっとした風合いの方がしっくりくる気がします。

全体のコンストラクション
コンストラクションについては、手持ちのゴートスウェードのものと大きな差分はありません。
それは裏地に関しても然りで、こちらもアンラインで仕上がっています。素材からして妥当なところ。

写真は準備できていませんが、前立ての裏側には芯が張られており、ハリ感が出るようなつくりとなっています。
シルエット
Valstarinoについては、日本国内では〈Japan Fit (ジャパンフィット)〉というややボディを細身に絞ったものが多く流通しているようです。
一方、こちらは本国使用の〈Regular Fit (レギュラーフィット)〉となっています。記憶の限りでは、BeamsやRing/gujiで見たものもRegular Fitだったような。トレンドの兼ね合いなのか、それともリネンモデルはRegular Fitでしか作ってもらえないのか。
なお、上のゴートスウェードもRegular Fitです。ゴートスウェードの個体を購入したときは本当に何も知らず、シルエットに種類があることもわからないまま選んでいました。なので、フィット感の違いなどを見極めて選んでいるわけではありません。
買ったはいいが、今ひとつ着こなせていない
実のところ、こちらの一着、購入したはいいもののなかなか上手く着こなせていません。
ハンガーに掛かって店頭に並んでいるときは「なんて素敵で、使い勝手の良さそうなブルゾンジャケットなんだ」と思ったのですが、いざ試着してみるとあまりしっくりと来ませんでした。それでも、買ってみてから考えてみるかと手元に取り寄せましたが、1年経ってみてもやはり今ひとつ御することができていない気がします。
無難に、ブルージーンズとクルーネックのTシャツに合わせてみました。

足元のレザースニーカーは、下の記事で紹介した〈FEIT (ファイト)〉のものです。
Valstarinoはタイドアップしたコーディネートの提案をよく見かけるので、真似してやってみました。でもやはりしっくりこない。理想的には、このベクトルの着こなしを追求したいと思っていたのですが……。

トラウザーズはコットンリネンで、足元はスウェード。組み合わせた銀付きスウェードのドレスシューズとタイについては、それぞれ下の記事で取り上げています。
なお、上の2例は、どちらもこのジャケットを洗ったり水通ししたりする前の状態です。リネンは洗いが掛かってナンボな風潮もあるので、洗ってくたびれた感じが出てくる頃がちょうどいいのかもしれません。今年も引き続き試行錯誤しようと思います。
最後に
ちょうど巷でも春夏の洋服の立ち上がりが進んでいそうなタイミングで、私が昨年入手したリネンのブルゾンジャケットを紹介してみました。

今年も一部で展開が進んでいるようで、2025年3月現在、セレクトショップ〈Tomorrowland (トゥモローランド)〉で予約注文が受け付けられているようです。
本稿の制作に際してValstarの公式Webサイトを眺めていたのですが、布帛についてはコーデュロイも素敵ですね。今年の秋冬シーズンに店頭に並ぶことがあれば、一度見てみたいと思います。

スポーティーなジャケットについては、シアリングのジャケットやベジタブルタンニンなめしのダブルショルダーを使ったジャケットなどを紹介しています。ご興味があれば、併せてご覧ください。
また、Valstarinoのようなスポーティーなジャケットのことを総じて「ブルゾン」と呼ぶことが多いですが、このブルゾンとは何であって何でないのか、についてまとめた記事を公開しています。ご関心があれば、下のリンクからご覧ください。
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