自動巻きの機械式腕時計の保管時、ワインディングマシンはお使いでしょうか?時計の精度維持や内部の機械部品の摩耗などを考えた時に、使った方がよい・使わないほうがよいと意見が分かれているようです。
私はもともと「使わないほうがよい」という見解になびいていました。しかしながら、パンデミック下で腕時計を装着する頻度が減り、一度着用してから次回着用するまでの期間が空きがちに。そうすると、使用している時計のパワーリザーブがあまり長くないということもあり、着用のたびに巻き上げ・時刻合わせをしなければならない問題が生じます。それも面倒なので、と導入したのが、アメリカのワインディングマシン専業メーカー「Orbita (オービタ)」の「Siena 1」です。
諸事情につき、記事中の一部の写真でSiena 1に収納しているのは機械式時計ではありませんが、そこはお目こぼしください。
Orbitaとは
金額で見たワインディングマシンのボリュームゾーンは、10,000円前後でしょうか。10,000円も投資すれば、ワインディングマシンとして十分な機能を持ったものを入手できます。しかしながら、筐体の素材がプラスチックや合成皮革だったりと、どことなくチープさを感じてしまうものが少なくありません。一方で、私は筐体に高級感のあるものが欲しく、いろいろと調べた結果辿り着いたのがOrbitaでした。
Orbitaはアメリカのワインディングマシン専業メーカーで、ハイエンドなモデルがラインナップされています。
数十本の時計をリザーブできる、大変高級感のある家具調のワインディングマシンも展開されています。
出典: Orbita社カタログ (参照: 2023年6月)
また、手巻き時計用のワインディングマシンもラインナップされています。
出典: Orbita社カタログ (参照: 2023年6月)
日本にも代理店があるようですが、私は購入に至るまでに国内の店舗で実物を見る機会はありませんでした。街中の時計小売店などには、あまり多く卸されていないのかもしれません。
過度な摩耗を防ぐ、という考え方
Orbitaのワインディングマシンにおける中核的な思想として、ワインディングマシンによる時計の過度な摩耗を防ぐべし、という考えがあるようです。
Continuous rotation of an automatic watch increases wear and tear of the winding mechanism components. Typically, motion of the wearer’s wrist when walking or working is only intermittent. Obviously, some watchwinders do not replicate this human motion. Buyer beware….your expensive watch could be at risk!
(拙訳) 自動巻きの腕時計を巻き上げ続けると、巻上げ機構の部品の摩耗・劣化が加速する。一般に、歩行時や作業時の手首の動きは断続的であるが、そうした動きを再現できていないワインダーが少なくない。高価な腕時計を駄目にしないために注意が必要である。
https://www.orbita.com/winder-support/winder-basics/
「ワインディングマシンは使わないほうがいい派」の主張にも通じる考え方のように聞こえます。こうした考えのもと、それぞれのワインディングマシンのモデルに2種類の機構が用意されています。
- Rotorwind (振り子巻き上げ) – 振り子回転による巻き上げを間欠的に行う
- Programmable (プログラマブル) – 定常回転を間欠的に行う。回転数・回転方向は時計に合わせて設定可能となっている
Programmableに相当するものは他のメーカーのワインディングマシンでも見受けられるものですが、Rotorwindの機構はユニークなものかと思います。
Siena 1 Rotorwind
冒頭でも言及したとおり、私は筐体に高級感のあるワインディングマシンを探しており、辿り着いたのがOrbitaのSiena 1です。
購入したのは2019年頃ですが、当時の定価は2023年6月現在のそれよりも2割程度安価だったかと記憶しています。
外観
Sienaシリーズにはチークを使ったもの、カエデの瘤の部分を使ったものがあります。私はチークを選びました。チークはブラックウォールナット・マホガニーと並んで世界三大銘木に数えられる木材です。
表面は、ラッカー塗装で光沢のある仕上げとなっています。せっかくのチーク材の素の表情を味わうことはできませんが、これはこれでインテリアに映えるのでいいと思います。筐体はひとつのチーク材の塊を削り出し、とはいかないでしょうが、木目を見る限り、各面のパーツは突板ではなく無垢材ではないかと見受けます。
蝶番などの金属部品も高級感があり、抜け目がありません。
蓋を開け、このように時計をセットできます。開閉時の蓋の動きは、とても滑らかです。
振り子の巻き上げ機構「Rotorwind」
Rotorwindが動く様子を、動画に収めてみました。
動画のように、静止状態から時計回りに180度回転させ、あとは振り子のように惰性で回転させることで時計のゼンマイを巻き上げています。すなわち、ワインディングマシンのモーターが駆動するのは静止状態から180度回転させる数秒間だけ、といえます。また、動作の間隔は10分または15分に設定することができます。10分であれば、1時間に6回だけ動作し、後は静止状態ということになります。こうした機構にすることで、恐らく電力消費を抑えているのでしょう。
動作音は、静かな部屋で、かつSiena 1が耳の側にあるなら少し気になる程度かも、という印象です。私はSiena 1を仕事机の真横に置いていますが、PCファンの騒音などに埋もれるためか、Siena 1の動作音が気になることはほとんどありません。
下のように、筐体から機械の部分だけが外れるようになっています。
さらに、時計を取り付ける土台の部分を外すと、下のように駆動間隔を切り替えるスイッチが見えます。下の写真では、間隔は10分に設定されています。
電池の入手性
筐体には他に類を見ない高級感があり、巻き上げのメカニズムも時計の機械に極力負担を掛けないという点で、全般的に優れたワインディングマシンだと思います。一方で、一つ大きな難点があります。電池の入手性です。
RotorwindのOrbita 1には、コンシューマー製品では見かけない特殊なリチウム電池が使用されています。バッテリー駆動の産業機器などに使用される、塩化チオニルリチウム電池かと推測されます。私も、昔仕事で塩化チオニルリチウム電池を評価したことがありますが、エネルギー密度と自己放電の少なさに特徴を持つ一次電池であった記憶です。
大変性能の良い電池なのですが、身の回りの家電などに使われることが少なく、家電量販店・電器店などで簡単に入手することができません。OrbitaのWebサイトにて替えの電池が販売されていますが、安全上の問題で発送できるのは米国内に限られるようです。
恐らく、下の電池などが替えになるのではないかと考えられます。
また、Amazon.co.jpで出品されているこちらの電池に、「Orbitaのワインディングマシンに使えた」という旨の口コミがあったりもします。
理由の考察
このように、Rotorwindにはトリッキーな電池が使われている一方、Programmableの方はアルカリ電池が使用できるのに加え、ACアダプタによる給電にも対応しているようです。この違いは何なのでしょうか?私が想像するに、Rotorwindは電力消費量が著しく小さい (10分・15分に一度、数秒間モーターを駆動するだけ) ので、入手性は悪いものの長期的に使える大容量のリチウム電池を使って、電池駆動ながら長期間交換せずに使えるものを目指したのでしょうか。
実際に、Orbitaは「バッテリーは5年持つ」と主張しています。
(ソースは、Siena 1と同等もしくは類似の機構を持つ「Sparta Deluxe」という機種の商品ページ)
また、私のSiena 1は購入後4年弱運転していますが、まだ電池交換は行なっておりません。5年間連続運転するのか、それとも毎日時計を装着する前提で、決まった時間のみ運転… といったユースケースを想定したものかは不明ですが、後者のケースで5年持つなら悪くはないのかもしれません。
最後に
OrbitaのSiena 1、電池の入手性に問題ありですが、総じて買ってよかったと感じています。私は時計好きの部類ではないので、今後機械式時計が増える見込みはありません。そのため、Siena 1が1台あればやりくりできるのではないかと考えています。今後もSiena 1をじっくり使っていこうと思います。
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