既成のスムースレザーに型押しする、という選択肢

少し前に、東京の靴職人の方に型押しのカーフを使ったビスポーク靴を製作いただきました。

スコッチグレイン型押しのカーフを使用したエプロンフロントダービー | Apron front derby made of scotch grain embossed calf
スコッチグレイン型押しのカーフを使用したエプロンフロントダービー | Apron front derby made of scotch grain embossed calf

エプロンフロントダービーで、ヒールをシームレスにして製作いただきました。
非常に贅沢なパターン取りをした一足で、ダービーながらドレッシーな雰囲気を纏えていると思います。

シームレスヒール | Seamless heel
シームレスヒール | Seamless heel

服や靴のビスポーク注文は大変個人的な体験のため、Webサイトで製作に関する具体的なストーリーを紹介するのは控えるようにしています。
一方、この型押し革の供給方法がユニークだったので、そこだけを紹介したいと思います。

ライトアングルモカを縫うためには?

この案件では、私の要求は「シボ革のエプロンフロントダービー」で決まっていました。
革の銀面のシボにもさまざまな種類がありますが、その中でもスコッチグレインとすることで気持ちは固まっていました。
革のシボの種類については、下の飯野高広さんの記事が詳しいです。

シボの種類とは?牛革のシボの出し方や付け方とシボの種類
革に表情を付けるシボや型の代表的な「種類」と、シボの「出し方・付け方」とを分けてご紹介致します。シボには、それ自体にも種類がありますが、シボの出し方やつけ方も、革の種類によっていくつかの方法があります。それぞれのポイントを押さえましょう!

余談ですが、ヒロカワ製靴のブランド「スコッチグレイン」があるために、シボ革のスコッチグレインに関する検索性が低くなってしまっていることには難儀してしまいます。

また、ヴァンプのモカ縫いはライトアングルステッチ、さらにスキンステッチで縫い合わせたスプリットトゥと、古典的なコンビネーションを想定していました。

甲のスキンステッチ | Skin stitching on the vamps
甲・つま先のスキンステッチ | Skin stitching on the vamp and toe

職人の方に相談を進めたところ、ライトアングルステッチを含むスキンステッチは、硬めの革でないとステッチが綺麗に入らないとのこと。
しかしながら、スコッチグレインのシボ革は往々にして柔らかいものが多いのだそう。
職人の方の手元のサンプルに良いものが見当たらないとのことで、革を探していただくことを含めて制作の依頼をしました。

流通しているスムースレザーを型押しする

しばらくして、仮縫いのフィッティングのために職人の方を再訪することになりました。
仮縫いの靴に使用されていたのは、フランスのタンナリー「Tannerie d’Annonay (アノネイ)」のセミアニリンカーフ「Vocalou (ボカルー)」を型押ししたものでした。
Vocalouは、表面が平坦なスムースレザーとして流通している革です。

話によると、持ち込みの革に型押しを施してくれる業者がいるのだとか。
すなわち、スムースレザーとしてタンナリーから出荷され、流通している革に対し、後から型押しなど表面加工を施してもらう選択肢があるようです。

Annonayからは「Highland (ハイランド)」というスコッチグレインのシボ革が提供されていますが、Highlandも例に漏れず柔らかなのだそうです。
そうしたことから、適切な硬さを備えたVocalouに型押しすることでシボ革を得ることが、今回の最善策となったようです。

肝心のシボの具合ですが、そこそこくっきりとシボが入っているのではないかと思います。

シボの入り具合 | Close look at the emboss
シボの入り具合 | Close look at the emboss
シボの入り具合 | Close look at the emboss
シボの入り具合 | Close look at the emboss

最後に

今回は、靴のアッパー素材の調達について、私がユニークだと感じた案件を紹介しました。
前述のとおり、仮縫いの際にこうした提案をいただき、本製作の際も同じ革で進めていただきました。
結果、とても綺麗なスキンステッチで、靴を仕上げていただくことができました。

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