〈Yearn Shoemaker (ヤーンシューメーカー)〉
一昨年にこのWebサイトを立ち上げた際に最初のトピックとした、中国・雲南省発の手製靴ブランドです。
当時購入・紹介したのは、既成靴 (Ready-to-wear, RTW) の位置付けであるレイジーマン。〈OXF. 768〉というモデル名が冠されているものです。
399米ドル (送料および関税・通関手数料など除く、購入当時) と非常に安価な靴ではあったのですが、〈Y07〉という木型が私の足にシンデレラフィットしているということもあり、非常に気に入っています。履くのが楽なのでいつもついつい手が伸びてしまう一足。
次はMade-to-order (MTO) を試してみたいと思っていたのですが、残念ながら私の要望と先方でできることが噛み合わず、着地点を見出すことができていませんでした。そうした中、最近になって新しいオファーリングが提供開始されていることを知りました。〈Artisanal Line (アルティザナルライン)〉という、上級グレードのオプションです。
このArtisanal Lineに興味を惹かれてオーダーし、先日届いたのがこちら。
少し明るめの茶色のスウェードを纏ったレイジーマン。アッパーのパターンと木型は前回を踏襲し、素材と製法だけをアップデートした一足です。今回から数回にわたって、新たに手に入れたYearn Shoemakerのドレスシューズを紹介したいと思います。
Artisanal Lineとは?
Yearn Shoemakerの靴は、標準ラインであっても釣り込みやウェルティング、アウトソールのステッチングは手作業・手縫いとなっています。それでいて、以前は前述のように399米ドルスタートと破格のプライシングであったわけです。しかし、昨今の材料費の高騰、またはブランド価値の成長などもあってか、2024年8月現在、標準ラインはRTWが510米ドル、MTOが560米ドル (すなわち、MTOのアップチャージが50米ドル) に設定されています。
標準でフルハンドで製作されるYearn Shoemakerのドレスシューズですが、Artisanal Lineはその仕立てをさらにハイグレードなものにできるオプションとなっています。
2024年8月現在、標準ラインのMTOに対して239米ドルのアップチャージを支払うことで適用可能。アップグレードされる仕様については商品ページにも説明がありますが、Yearn Shoemakerに問い合わせたり、実際に届いた靴を見て確認できたものには以下の点があります。
標準ラインのMTO | Artisanal Line | |
---|---|---|
アッパーの革 | 一部の革に対してアップチャージが発生 | 全ての (またはほぼ全ての?) 革に対してアップチャージ無し |
出し縫いのピッチ | 8 stitch-per-inch (SPI) | 12 SPI |
アウトソールのウェスト形状 | 通常グレード (一般的なドレスシューズよりも絞り込まれてはいるが、ベヴェルドウェストが謳われてはいない) | ベヴェルドウェストとなり、底面の形状としてフィドルバックまたはラウンドを選択可能 |
ヒールリフトの形状 | ストレート | 傾斜 (テーパー) がかかる |
レザーソール摩耗対策 | トゥープレートやハーフラバーを追加可能。それぞれに対してアップチャージが発生 | アップチャージ無しでトゥープレートやハーフラバーを追加可能 |
このように、Artisanal Lineはビスポークのドレスシューズに多く見られる意匠・仕様を取り入れることを趣旨としたものとなっています。前回私が注文したレイジーマンのOXF. 768に当てはめると、標準のMTOが560米ドルで、Artisanal Lineのアップチャージを加えると799米ドル。昨今の為替動向も考慮すると、非常にお手頃な価格とは言い難いですが、依然欧州の高級ブランドの靴と比較すると十分訴求力があるのではないかと思います。
前回の注文の際にもお世話になったYearn ShoemakerのTimさんによると、多くの顧客がアップチャージを払ってトゥープレートやハーフラバーを選択している傾向にあるとのこと。その結果、MTOのアップチャージも含めると700米ドル前後になることが多いらしく、これらに加えてアップグレードされた底付け技法をもって799米ドルという値付けはリーズナブルなのかもしれません。
注文仕様の検討
このようなArtisanal Lineに興味を持ち、せっかくなので何か注文してみようということに。
明るい茶色の銀付きスウェードをアッパーに
冒頭でも言及したように、Y07ラストのレイジーマンをいたく気に入っていたため、今回も引き続きこの2つを採用することに。そして、ちょうど手持ちがなかった茶色のスウェードにしようかと構想していました。どんなスウェードがあるのかを尋ねてみたところ、〈Conceria Zonta (コンチェリアゾンタ、以下Zonta)〉の銀付きスウェードをストックとして取り寄せようとしているところとのことでした。
メールで送っていただいた端切れの写真を見ると、色味は当初イメージしていたダークブラウンよりも顕著に明るめの色味。一方で、タバコブラウンや金茶色などと呼ぶほど明るくはありません。革の実物サンプルを見て決められたわけではないので、できてからのお楽しみ、といった趣向で決めました。
1990年代にクラシコイタリアが世界を席巻するまでは、スウェードのドレスシューズはダークブラウンではなくこのような明るい茶色が主流であったと聞いたことがあります。コーディネートのしやすさの面で吉と出るか凶と出るか。
シームレスヒールは選択できず
前回の靴は、アッパーのヒールカウンターに縫い目がありました。
今回は上級オプションを選択したこともあり、シームレスヒールにできないかと相談してみたのですが、やはりそれはできないとのこと。スタンダードパターンや抜き型を新規に作成しなければならないことが障壁になっているのかもしれません。前回の靴はスムースレザーだった一方、スウェードや型押し革であれば縫い目はそこまで主張しないかもと考え、今回はできる範囲で進めてもらうことにしました。
余談ですが、シンガポールの〈Yeossal (ヨーサル)〉のMTOを注文した際は、注文当初は今回同様にシームレスヒールへの対応を断られたものの、完成した靴はシームレスになっていたということがありました。もしかすると、この時はヒールカウンターのパーツだけパターンを起こし、手裁断で対応してくれたのかもしれません。
アウトソール
前回のレイジーマンで少し残念だったのが、アウトソールの減りの速さでした。特に、ヒドゥンチャネルでドブを起こしたところの薄革がめくれるのが気になりました。
Artisanal Lineはアップチャージなしでトゥープレートやハーフラバーを装着可能なので、こちらを利用することにします。
最後に
今回は、Yearn Shoemakerの新しい製品ラインであるArtisanal Lineについて、そして私が注文した靴の仕様について紹介しました。
注文を実施したのが今年の6月中旬で、到着したのが8月上旬。当初はもう少し早く届く予定でしたが、前述のZontaの革の輸入に少し時間が掛かっていたようです。
下の続きの記事にて、届いた靴のアッパーまわりを紹介しています。よろしければ、併せてご覧ください。
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