手縫いの洋服のディテールとして私が好きなものに、手縫いの閂 (かんぬき) 止めがあります。
手縫いの閂止めには、機械のそれとは大きく異なる趣があります。ニッチなディテールではありますが、今回はこの閂止めに着目してみたいと思います。
なお、閂止めは内羽根のドレスシューズにも見られ、こちらも別途取り上げてみたいと思います。そこで、今回は「ドレスウェア編」としてみました。
ミシンと手縫いの閂止めの違い
ミシンを使った閂止めは、例えば下の写真にあるようなものです。
こちらは、イタリアのトラウザーズ専業メーカー「PT Torino (ピーティートリノ)」によるトラウザーズの、サイドポケット周辺を写したものです。PT Torinoはいわゆるファクトリーブランドであり、機械化された工場での大量生産を主としているため、閂止めも機械での仕上げとなるのでしょう。
下の写真は、同じくイタリアのトラウザーズ専業メーカー「Rota (ロータ)」のフランネルのトラウザーズのバックポケット周辺を写したものです。
いずれも、ミシンでジグザグに縫ったものであろう閂止めがあるのがわかります。これは、ポケットに手を入れた時など、ポケットの縁に力が加わった時に記事や縫い目が避けないように補強してあるものです。家庭用コンピューターミシンにも、例えば下のように閂止めのメニューがあるようです。
一方、手縫いのトラウザーズに対して同様の場所にあしらわれている閂止めを写したのが下の写真です。
端正で立体感のある縫い目になっているのが見て取れ、ミシンのものとは見た目の美しさが大きく異なるように感じます。なお、このトラウザーズは過去に下の記事で紹介させていただいたものです。
YouTubeに、手縫いの閂止めの方法を映した動画があったので、下に引用させていただきました (この動画では、手縫いの閂止めを「本カンヌキ」と呼んでいます)。8の字にステッチを入れることで補強がなされているのがポイントのようです。
手縫いのトラウザーズの閂止め
閂止めは、一般的にはジャケットよりもトラウザーズに多く施されているものです。そこで、ここからはトラウザーズの閂止めに着目していきたいと思います。
下の写真は、ナポリを代表する某サルトリアによるトラウザーズを写したものです。ハーフミルド仕上げの、ブルーグレーのネイルヘッドに独特の雰囲気を感じさせられる生地となっています。
2つのプリーツの縁やサイドポケットの両端、ウォッチポケットの両端、ヒップポケットの端に閂止めが施されています。わかりやすさのため、印をつけたのが下の写真です。
また、上でも紹介したウールモヘアのトラウザーズの前立てにある、2つの閂止めで補強されたボタンホールに着目してみました。
これは、下の写真に示した箇所にあるボタンホールで、同じく図示したボタンを留めるためのものです。このようにあしらわれたボタン・ボタンホールも手縫いならではのもので、履き心地を良好にしてくれるものです。
手縫いのジャケットの閂止め
上でも言及したとおり、トラウザーズと比べるとジャケットには閂止めが施される箇所は少なめです。ジャケットに閂止めが施される箇所といえば、よく見るのはパッチポケットの縁の部分でしょうか。ノーフォークジャケットのボックスプリーツの端に閂止めが施されているものも、見かけたことがあります。
一方で、私が所有するジャケットの一着に、少し変則的な形で手縫いの閂止めが施されたものがあります。こちらはスーツの組ジャケットで、ダブルブレストのものです。
上の写真だとやや不鮮明なのですが、このジャケットには上襟 (カラー) の縁と胸ポケットのウェルトの縁に手縫いの閂止めが施されています。
同様に、袖口にも閂止めが施されています。
いずれも、何か強い力が加わるような箇所ではなく、意匠的な側面が強いように感じます。仕立てた際にも、スタイリストの方は「これは今回たまたまこのジャケットを縫った職人の個性で……」といったコメントをされていたのが印象的でした。
そういえば、サルトリアナポレターナの大御所、Sartoria Dalcuore (サルトリアダルクォーレ) もラペルの縁に閂止めを施したりしていますね。特徴的な赤い糸での閂止め。
最後に
手縫いのドレスウェアに施される閂止めに着目してみました。
当Webサイトでは、閂止めの他にもボタンや裏地、「マニカカミーチャ」と呼ばれる袖付など、洋服のディテールにハイライトした記事を公開しています。よろしければ、下のリンクから併せてご覧ください。
冒頭でも触れたとおり、また別途ドレスシューズの閂止めについて眺めていきたいと思います。
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