トラウザーズのオーダーの際、重視されている仕様はありますか?
股上の深さやワタリ・裾の幅、腰のプリーツの入れ方、ベルトレス化などデザインに大きく左右するものもあれば、ボタンフライやパンチェリーナなど見えない部分の仕様もあり、トラウザーズの構成検討は意外と奥が深い世界ではないかと感じます。私も、雑誌やWebの媒体を渡り歩き、トラウザーズの仕様としてどういったものを取り込むとよいのかを検討してきました。
そうした中、実際にさまざまなトラウザーズを履き込む中で、個人的に重視したい一方、他では着目されることの少ない仕様が2つ浮かび上がってきました。今回は、そんなニッチなトラウザーズのカスタマイズのポイントを2つ紹介します。トラウザーズのあり方に対する提言めいたものではなく、何かの参考になればという思いで書き連ねてみました。
ポイント1 – 膝高を計測し、膝裏の長さを調整する
トラウザーズの内側、すなわち肌が触れる側には、布と膝との滑りを保ち、足捌きを良くするための裏地が据え付けられています。多くの場合、トラウザーズの裏地は前身頃 (脚の脛側) だけに取り付けられており、かつ長さは膝あたりまでとなっています。そうしたことから、トラウザーズの裏地は「膝裏」と呼ばれることが多いようです。
1つめのカスタマイズのポイントは、体型に沿って膝裏の長さを調整してもらうことです。
膝裏の長さはどのように決まっている?
そもそも、トラウザーズのオーダーの際に膝高 (膝の高さ) を測られたことはありますか?
私はビスポークテーラーから百貨店のイージーオーダーに至るまで、さまざまな注文服の店で十数着のトラウザーズを作ってきました。しかし、こちらから依頼することなく膝高を測ってもらったことは、記憶の限りでは皆無です。
とはいうものの、多くの方は膝裏の設えに違和感や不満を抱くことはないのかもしれません。というのも、膝高は身長などとの高い相関が明らかにされており、膝高は直接採寸せずとも他の採寸値から推定でき、股下から差し引くことで膝裏の長さをいい塩梅に設定できるためです。例えば、下のWebサイトには、医療従事者向けに膝高と年齢を基にした身長の推定式が掲載されています。
(2次引用になってしまいますが、1次資料を参照できなかったのでしたの記事を挙げています……)
膝高が低い場合は?
膝裏の長さが上の理屈で決まっている場合、例えば身長の割に膝高が低い人はどうなるのでしょうか?
膝高を計測することなく、身長と股下だけで膝裏の長さが決まってしまうとすれば、膝裏が膝に十分触れないぐらい短く作られてしまうことになります。そうすると、膝が表地に触れて摩擦が大きくなり、足捌きが悪くなることは言うまでもありません。それに加えて、膝周りの表地が膝に引っ張られて弛んでしまう、いわゆる「膝抜け」の原因にもなりかねません。
かく言う私も、身長に対して膝高が著しく低い体型です。オーダーのトラウザーズでも、膝裏の長さが足りないことは少なくありません。具体的には、直立姿勢をとった際に、膝裏が膝蓋骨 (膝のお皿) の中心にも触れないほどに短いのです。そして、これは既製品だと尚更の傾向です。そうしたことから、トラウザーズのオーダーの際には膝高の計測をお願いし、膝蓋骨の下端から数cm下まで裏地を確保いただくことをお願いしてきました。
傾向が掴めてくると…
そのようにして作られたトラウザーズが増え、傾向が掴めたこともあり、最近は「裾から30 cmのところまで膝裏を付けてください」と依頼すれば、満足のいくものが得られることがわかってきました。
(言うまでもなく、30 cmというのは私の体型に基づく数値であり、誰にでも当てはまるものではありません)
もしくは、裾の際まで裏地を延長してもいいのかもしれません。しかし、とあるメンズファッションのフォーラムを覗いてみましたが、アイロンの掛けやすさや通気性などの観点で、膝裏を裾まで伸ばすのはあまり人気ではないようです。
ポイント2 – 忍びポケットを追加する
ジャケットにせよトラウザーズにせよ、ドレスウェアのシルエットを美しく保つためには、ポケットにはなるべく物を入れないのが鉄則です。とはいうものの、スマートフォンや鍵、財布など、必要最低限の持ち物から逃れることはできず、ポケットに何かを入れざるを得ない状況も少なくありません。
忍びポケットとは?
ところで、多くの場合、トラウザーズの右の脇ポケットには「忍びポケット」と呼ばれる小さなポケットが縫い付けられています。私の手元にあるトラウザーズを調べてみましたが、日本製のもの・イタリアをはじめとした海外のもの、工場製のもの・サルトリアのものに限らず、1着の例外を除いて忍びポケットが取り付けられていました。
(1着の例外は、ナポリの高名なパンタロナイオのものでした。もしかすると意図的なものではなく、ただの付け忘れかも……)
そして、トラウザーズ注文次のカスタマイズポイントの2つ目は、この忍びポケットを左右両方の脇ポケットに取り付けることです。
忍びポケットの活用策
忍びポケットの元来の役割は、小銭や鍵などの小物がポケットの中で散乱することを防ぐことと聞きます。この役割もさることながら、私はスマートフォンや財布などの大きめのアイテムをポケットに入れた際のシルエットへの影響にも効果があるのではないかと感じています。
下の例は効果が過度に誇張されたものですが、スマートフォンをポケットに入れた際にその形状がトラウザーズにどのように影響するかを示したものです。
この場合だと、スマートフォンを忍びポケットに収めた方が、スマートフォンの形が表に響かないことが確認できます。
(さも何も入っていないように見えますが、実際には同じスマートフォンが入っています。これはかなり出来過ぎな例ですが……)
とはいうものの、忍びポケットは元来このようにポケットの中の物をシルエットに響かせないように設計されたものではないので、過度な期待をすることはできません。あくまで私の経験上ですが、履くトラウザーズとポケットにしまう物の組合せによっては、物を忍びポケットに入れた方が綺麗に収まることが少なくありません。そうしたことから、私はトラウザーズのオーダーの際には忍びポケットを左右両方の脇ポケットに取り付けていただき、状況に応じて忍びポケットを有効活用できるようにしています。
最後に
今回は、恐らく他ではあまり着目されないトラウザーズの仕様についてアイデアを紹介しました。
忍びポケットの点に関しては、願わくばこうした小手先の対処ではなく、パターンや副資材などの工夫によって、ポケットに物を入れても型崩れしないようになればと思います。
テーラリング技術のさらなる躍進に期待を込めて。
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