前回の記事にて、インドネシア発の手製ドレスシューズブランド「Winson Shoemaker」の靴作りについて紹介しました。
今回は、実際に注文を進めた過程を紹介したいと思います。前回と同様に、Winson Shoemakerの許可を得て記事中で彼らのInstagramの投稿写真を転載しています。
リクエストした仕様
靴の仕様は、先方から送られてくるオーダーフォームに記入する形でリクエストする形となります。項目ごとにドロップダウンメニューから仕様を選ぶことができるようになっています。
今回は、私がWinson Shoemakerを知るきっかけとなり、かつ大きく感銘を受けた下の作例そのままに製作を依頼することとしました。ラストも、この作例と同様に「Auroraラスト」を使用いただくことにしました。
アッパーのパターン
アッパーは、トゥからクォーターまでが1枚の革パーツで構成されるスパイラルカットになっています。日本の靴界隈だと「アップルピール」と呼ばれているアレですね。アップルピールは「John Lobb (ジョンロブ)」の2009年のイヤーモデルが有名です。後に、2020年のイヤーモデル「Strand」として復刻もされています。
翻って、Winson Shoemakerのこのモデルは「Equinox Single Monk Strap」と名付けられています。個人的には、John Lobbのイヤーモデルのような紐靴型よりも、Winson Shoemakerのシングルモンクの方が、スパイラルカットという構造がより良くデザインに昇華されている印象を受けます。なお、Winson Shoemakerからはダブルモンクのアンクルブーツ型のモデルも展開されているようです。
アッパーの革とカラリング
色についても、上の作例に沿っていただくことにしました。ハンドパティーヌの場合、フランスのタンナリー「Tannerie D’Annonay (アノネイ) 」のクラストカーフを使用しているとのこと。
なお、結局そうしたオーダーはしなかったのですが、モンクストラップの尾錠を留めるための穴を穿たない状態で納品してもらうことも考えました。MTOだからこそ相談できるオプションですし、自分の甲高に沿って穴が一つだけあるのは誂え靴としての雰囲気が高まるちょっとした仕掛けになるかも、と着想した次第です。
コンストラクションの仕様
底付けをはじめとしたコンストラクションは、前回の記事でハイライトした標準仕様で進めていただくことにしました。底付けはフルハンドで、ベヴェルドウェスト、ブラインドウェルトを採用したドレッシーな仕上げです。ベヴェルドウェストの場合、標準でフィドルバックになるようです。
ひとつだけオプションで、オリジナルの真鍮製トゥープレートを装着いただくようお願いしました。Winson Shoemakerの代表のEmilさんのルーツをモチーフにしたものとのこと。
真鍮は柔らかい金属なので、恐らく早々に摩耗してしまうでしょうが、綺麗な模様のトゥープレートを一目見てみたいと思った次第です。個人的には、ドレスシューズの爪先補強は金属よりもラバー派なので、削れたらラバーに交換しようと思います。
サイズ調整のコミュニケーション
今回進めたのはMTOのプランで、言うまでもなく既成の木型に沿って製作を進めていただくことになります。乗せ甲・幅貼りのようなプラス補正のオプションがあるかどうかは、確認していないため不明です。
適切なサイズを選定するうえで、両足の以下の寸法を伝えるとともに、足のアウトラインを紙に描いてスキャンし、送るよう依頼されました。
- 足長 (Length)
- 足幅 (Width)
- 一の甲の足囲 (Joint girth)
- 二の甲の足囲 (Waist girth)
- 三の甲の足囲 (Instep girth)
足長と足幅 出典: 飯野 高広 著、「紳士靴を嗜む はじめの一歩から極めるまで」、朝日新聞出版、2010年、ページ21、22 足囲
足のアウトラインは、A4の紙に足を乗せて足の縁をペンでなぞり、スキャナーでPDFにして送付しました。スキャンした原稿がA4サイズであることを伝えれば、先方にサイズが正確に伝わるはずです。
支払い
先方との確認のうえ、着手時に代金の半額、完成時に残り半額を支払うことにしました。
なお、支払い方法として指定されたのは、送金サービスのWise (旧 TransferWise)。手数料が比較的安価であることで有名な送金サービスです。
Wiseの米ドル口座への残高チャージに苦戦
私は、今回初めてWiseを使用したのですが、送金完了までの手続きに少し苦戦しました。
今回は、米ドル建ての支払いです。昨今の対米ドルの円安の状況も鑑み、円口座ではなく米ドル口座からの送金を試みました。
Wiseで米ドルを送金するためには、一旦Wiseのアカウントに米ドルをチャージする必要があります。それに際し、当初は手数料の安さ・リスクの低さを鑑みて、ソニー銀行の米ドル口座からの電信送金で進めようと考えました。
スクリーンショット出典: wise.com Wiseの米ドル口座に対する残高チャージのオプション
ソニー銀行は海外送金・被送金の手数料の安さを売りにしており、私も海外証券口座からの被送金に活用しています。ソニー銀行からの海外送金手数料は、一定額以上の口座残高があれば無料になるのが大きなアドバンテージです。
しかしながら、ソニー銀行の米ドル口座からの海外送金にあたり、手続き完了に至るまでの銀行側の手続きが遅く、かつ色々とやってくる指摘に対応する必要があります。「マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与対策」のため、海外送金のための監査が非常に厳しい模様。厄介なのが、今回の送金の目的が「製品・サービスの購入」なのに対し、送金先が製品・サービスの提供者自身ではなくWiseの口座であること。ソニー銀行に対するこのあたりの説明に難儀し、結局電信送金を諦め、Visaデビットでの入金を進めることにしました。
電信送金であれば3.52米ドルの手数料で済んだかもしれないところ、デビットにしたために41.50米ドルの手数料が生じてしまいました。
(上のスクリーンショットにある「14.04 USD」は、米国銀行口座のデビットの場合で、米国外銀行口座のデビットの場合はこの限りではない模様)
米国証券口座からの送金も考えましたが、Wise口座への電信送金先の名義は自分自身ではない (Wise名義口座) ため、トラブルが生じるかも… と断念。今回の注文を経て2回目の注文をすることとなった場合に向けて、Wise口座への米ドルチャージの最善策を研究しておこうと思います。
2023年9月追記
ソニー銀行は、Wiseのような資金移動業者への仕向け送金は取り扱えないようです。
最後に
今回は、Winson ShoemakerへのMTO靴の注文プロセスを紹介しました。内容の大半がWiseを通じた送金関連になってしまいました。この辺りは、試行錯誤を通じて経験を積んでいくしかないのかもしれません。
納期は約6ヶ月とのこと。6ヶ月後に、届いた靴のレビューをしてみたいと思います。
Winson Shoemaker以外にも、中国・雲南省の「Yearn Shoemaker」やシンガポールの「Yeossal」などに靴を注文したエピソードを公開しています。ご関心があれば、下のリンクから併せてご覧ください。
2024/2 追記 – 到着した靴の紹介
予定より少し遅れましたが、本稿で注文のエピソードを紹介した靴が届きました。下の新着記事にて紹介しています。
《関連記事》海外の靴職人とのインタラクション
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