前々回の記事にて、イタリアのダウンウェアブランド〈Moorer (ムーレー)〉によるダウンコート〈Harris (ハリス)〉を紹介しました。
前回は防寒性や全体の雰囲気に着目しましたが、今回はディテールを紹介したいと思います。私の個体は2020・2021年秋冬シーズンに購入したもののため、紹介するディテールは現行モデルとは異なる場合があることにご注意ください。
表地の素材とモデル
はじめに、コートのキャラクターを決定づける重要なディテールである表地について見てみます。シーズンによってばらつきがあるようですが、Harrisには表地の違いによる複数のモデルが設定されているようです。
カシミヤ100%の「Harris-TI」
最も王道なのは、ウールカシミヤの生地を使用したモデル〈Harris-LE〉かと思われます。一方で、私が選んだのはカシミヤ100%のモデルで〈Harris-TI〉というもの。色はダークネイビー。
購入前に検討を進めていた際、東京・銀座にあるMoorerの店舗で両者を比べる機会がありました。言うまでもなく、表地の柔らかさ・滑らかさという点ではカシミヤ100%のHarris-TIに軍配が上がります。一方、Harris-LEの方は、カシミヤが10%混紡されている割にかなりゴワっとした印象。2つの間には非常に大きな価格差がありましたが、質感に惹かれてHarris-TIを選択した次第です。
なお、2023年11月現在、Harris-TIは公式サイト上のラインナップから消えているようです。また、Harris-TIとは別に、100%ベビーカシミヤを使用した〈Harris-BAB〉というモデルも設定があった模様 (Google検索結果) ですが、こちらも公式サイトには見当たりません。Harris-BABは、カシミヤの中でもベビーカシミヤを使用していることが明示的に謳われているモデルのようです。
選択を振り返ってみると……
上述のいきさつでHarris-TIを選んだのですが、やはりHarris-LEを選んでおけばよかった、と少し後悔しています。
私がHarrisのようなコートに求めていたのは、近所でも気兼ねなくサッと羽織って出かけられるような使い勝手の良さでした。しかしながら、カシミヤ素材だと、着用中や保管・メンテナンスに気を遣わなければなりません。翻って、Harris-LEのゴワっとした表地であれば、ある程度ラフに扱ったとしてもさほど傷みを心配せずに済んだのでは、と感じます。結局、人混みの中ではコートを脱いで手持ちしたり、着用のたびにブラシをかけ、汚れがついていないかを確認したり、防虫カバーをかけたり…… と、利便性を犠牲にしてしまっている結果となりました。
加えて、2倍にも近いぐらいの価格差に見合った満足度・付加価値を得られているかと問われると、返答に困ってしまうところです。Harris-LEを選んで、当時の軍資金を節約した方がよかったな、という気がします……。
余談ですが、寄る値上げ (為替の影響含め) の波には抗えずといったところでしょうか…… 私がHarrisを購入した当時と比べてMoorerの商品もかなり価格が上昇しています。当時はウールカシミヤのHarris-LEは20万円台前半程度であった記憶ですが、いつの間にか当時のカシミヤ100%モデルと大差ない価格となっています。
スクリーンショット出典: https://www.moorer.clothing/harris-le-navy-MOUGI100208TEPA209U0497.html (2023年11月取得)
Hernoの類似モデルとの比較
ところで、Moorerと同様にイタリア発の高級ダウンウェアブランドである〈Herno (ヘルノ)〉からも、似たようなスタイルのコートがリリースされています。しかし、Hernoのものはフィリングがダウンではなく化繊の中綿のため、Moorerと比べると少し見劣りしてしまいます。
スクリーンショット出典: https://www.herno.com/CA0091U380209480.html (2023年11月取得)
その他のディテール
その他のディテールにも目を向けてみます。
省略された (?) 胸ポケット
私の所有するHarrisには、胸のウェルトポケットがありません。Webの検索で見かける多くのモデルには胸ポケットがあります。この辺りはシーズンによって変化が加えられているのでしょうか。
高級感のあるボタン
茶系の色味のボタン。購入時に付属してきた冊子には、「ホーンボタンを使用」と説明がありました。水牛の角でしょうか。厚手で高級感のあるボタンです。
袖のボタンも同様です。袖は開き見せとなっています。
ベントにもスナップボタンが取り付けられています。刻印入りのメタルボタンです。
比較的おとなしめのブランドアピール
高級ダウンウェアにありがちなのが、やたらと主張の激しいブランドロゴ。肩に施されたブランドロゴが、さもステータスシンボルかのように崇拝されています。
一方、MoorerのHarrisは比較的おとなしい部類に入るのではないかと思います。外から見て、ロゴが見えるのはラペルの第一ボタンホールの真下と左手側の腰ポケットの縁の2箇所。
個人的には、こうしたロゴが一切ついていない方が好みではありますが、他のダウンウェアに比べるとまだマシな方かと。
能書だらけの裏地
他方、個人的に少しばかり辟易してしまうのが、やたらと自らのすごさを主張してくる裏地。見返しのポケットの下に「ダウンやカシミヤなどこんなにいい素材を使っているんだ」やら「高級衣類なので取り扱いに気をつけろ」やら、どういうわけか能書きが多いのです。
こうした表示がなくともクオリティの高さは十分伝わってきますので、こうした無粋さは勿体無いなと感じます。いずれも、文字は全部織り込まれて表現されています。そんなところにコストをかけなくても……、
謎のNFCタグ
最後に、ひとつ不思議なのが、内側に縫い付けられたNFCタグ。
スマートフォンをNFCリーダーとしてかざしてみると、nfc.moorer.itというドメイン上のWebページに導かれます。実際に遷移するのは、この場合だとHarris-TIの商品ページ。しかしながら、MoorerのWebサイトのドメインはmoorer.clothingに変わっており、リダイレクトもされません。すなわち、アクセスを試みてもエラーが生じるだけです。何を目的としたNFCタグなのでしょうか……。
最後に
今回、2度にわたってMoorerのHarrisを紹介しました。
今年はまだ出番が来ていないHarrisですが、最近になってぐっと冷え込んできたこともあり、活躍のチャンスが巡ってきそうです。
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