昨年の暮れに、当年に仕立て上がった5着のドレスウェアを紹介しました。
翻って今回は、その中から秋冬シーズン向けの1着を紹介したいと思います。ウールのキャバルリーツイル (Cavalry twill) で誂えたトラウザーズです。
今回選んだキャバルリーツイルの生地
ずっと前からワードローブに加えたいと願っていた、キャバルリーツイルのトラウザーズ。フランネルやサキソニーなどと同様に秋冬を象徴するテキスタイルのひとつですが、縮絨による起毛ではなく独特の畝に季節感を見出すことのできる織地となっています。当初は既製品で試してみようかと探していたのですが、ちょうどいいものが見つからないため、昨年の春先にオーダーを進めることになりました。
いつもお世話になっている仕立て屋にキャバルリーツイルのトラウザーズを作りたい旨を相談したところ、提案いただいたのが〈William Bill (ウィリアムビル、W. Billとも)〉のコレクションでした。
William Billは、キャバルリーツイルのようにカントリー・スポーティな趣のジャケッティングやコーティングを得意とするマーチャント、というイメージ。一般に、バンチブックの表紙は往々にして暗い紺や茶、緑、または真っ赤なものが多い中、ちょうど上の写真の織りネームのようにビタミンカラーのような橙色をしたWilliam Billのバンチブックは目を惹きます。ところで、”Bill” は “William” の愛称 (“Bob” が “Robert” のそれであるように) なので、”William Bill” とは不思議な名前だなと常々思っていたのですが、その名前は創業者のWilliam Bill氏 (Williamが名、Billが姓) に由来しているようです。
〈Whipcords and Cavalry Twills Collection (ウィップコーズアンドキャバルリーツイルズコレクション)〉と名のついたバンチブック。ウィップコードもキャバルリーツイルと非常に似た (もしくはほぼ同一?) 組織や風合いを持つ生地で、こんな独特のツイル生地だけが収録されています。
トープ色の生地とBritish Warm
選んだのはトープ (Taupe) 色の生地。まさにイメージにぴったりの色合いでした。
この色味は、「British Warm (ブリティッシュウォーム)」と呼ばれる英国陸軍の将校が着用するオーバーコートにおいてよく見られるもののようです。寒冷地での野外活動を可能とすべく、British Warmは800-900 g/m程度のヘビーメルトンで仕立てられることが典型的とのこと。下のイラストのように街着、もしくはカントリーウェアに昇華するのであれば、William Billによるこちらの生地で仕立てるのも一興かもしれません。
General Research Division, The New York Public Library. “Model No. 933. Three button double-breasted belted raglan, top button does not button, split sleeves with cuffs, slash pockets; Model No. 934. Bal-raglan with military collar; Model No. 935. Smart raglan overcoat or topcoat.” The New York Public Library Digital Collections. 1940 – 1941.
https://digitalcollections.nypl.org/items/510d47dd-fefc-a3d9-e040-e00a18064a99
もし、このBritish Warmというオーバーコートに興味を持った方がいれば、英国の名門ビスポークテーラー〈Huntsman (ハンツマン)〉が過去に公開していた下のブログ記事をご覧になってみてください。残念ながら元の記事は削除されてしまっていますが、Internet Archiveでアーカイブを読むことができます。
600 g/mという目付
さて、上のバンチブックの写真からも垣間見えますが、目付は幅なりで600 g/mとなっています。数字だけ見ればオーバーコート地を想像させるものであり、オッドトラウザーズとしては非常にヘビーな部類といえるでしょう。仕立て上がったトラウザーズを手に持ってみると、やはりズッシリと重さを感じます。なお、トラウザーズ本体をキッチンスケールで測ってみたところ、その重量は890 gとなっていました。
キャバルリーツイルという名称は、この生地が元々騎兵隊 (キャバルリー) が履くパンツ (トラウザーズではなくブリーチズでしょうか) 用の生地として成り立っていることに由来しています。そうしたことから、この生地でトラウザーズを仕立てるのは生地の出自からして決しておかしいものではないはずですが、それにしても重い。
キャバルリーツイルという生地は得てして重いものなのだろうか、と調べていると、私が選んだWilliam Billのキャバルリーツイルは重めの部類のもので、もっと軽い目付けのものも多く流通しているようでした。例えば、〈Holland & Sherry (ホーランド&シェリー)〉による下の生地だと、目付は420 g/mとなっています。
ウィップコードやカバートクロスとの違いは?
ところで、今回色々調べている中で、結局結論に辿り着けなかったことがあります。
上でバンチブックの名前にあったウィップコード (Whipcord) やカバートクロス (Covert cloth) とキャバルリーツイル。これら3つの線引きがどのようになされているかです。数冊のテキスタイルの解説書に目を通しましたが、何となく一緒くたに扱われているような印象を受けました。畝の入り具合などに違いがありそうなのですが、今後何かわかれば追記したいと思います。
完成したトラウザーズ
そして、完成したトラウザーズがこちらです。
今の気分に照らし合わせると、少し股下に短さを感じます。そうしたことから、現在はもう少し丈を出してもらっています。今回掲載する写真は、股下を再調整する前のものであることをご承知おきください。
ディテールを少しだけ
ヘビーな生地だけあってハリが強く、重さで裾がストンと落ちます。そのため、シルエットが綺麗にでる印象です。共布のジャケットを仕立てると格好いいセットアップができそうだとも感じましたが、ちょっと暑すぎて使い勝手に何があるかも、といったところ。
腰のプリーツは、フォワードプリーツ (インプリーツとも) を1本としました。生地の雰囲気から、フラットフロント (プリーツ無し) も映えるかもしれません。
スーツではなくオッドトラウザーズとしては邪道かもしれませんが、ベルトループ無し、サイドアジャスター付きのベルトレス仕様としてみました。ただし、ブレイシーズまでは使わないだろうと考え、ブレイシーズのボタンは無しとしました。そのため、ウェストはゆとりを持たせずぴったり目のサイジングとしています。
なお、いつものことですが、他にも下に書いたような仕様も盛り込んでいただいています。加えて、下の記事には記載していないのですが、背面のポケットは右手側のみとするのも私の通例となっています。
コーディネート
カシミヤフランネルのジャケットと合わせてみました。冒頭で掲載した過去記事にも掲載した写真です。インナーとして着用したウールのニットポロシャツは第1ボタンを外していますが、最近はニットポロシャツのボタンは全て留めるようにしています。
足元は、下の記事で紹介しているドレスシューズです。
ミリタリーを出自とするもの同士ということで、ショート丈のトレンチコートと。コートのボディはネイビーのコットンギャバジンですが、見返しにホームスパンのような生地が使われたものとなっており、寒い季節にも馴染むデザインとなっています。写真からは分かりづらいですが、足元は黒のボックスカーフを使ったジョドファーブーツ (ジョッパーブーツとも) を合わせてみました。ジョドファーブーツとキャバルリーツイルの間には乗馬繋がりが。
最後に
今回は、昨年仕立てた洋服の中から、そろそろ出番が巡ってきそうな厚手のトラウザーズを紹介しました。
ここまで書いた文章を再度眺めてみると、我ながらあっさりした内容だなと感じた次第ですが、かなり満足度の高い一着です。色味もいい感じですし、上にも書いたようにシルエットが綺麗に出るのが気に入っているポイントです。気候の関係上、本稿をしたためている11月中旬の時点ではまだ出番が巡ってきていませんが、早く登板させたいと願うばかりです。
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