私の愛用品 (1) BacklashのOriceライダースジャケット

今回は、私が長年愛用するレザージャケット〈Italy Shoulder “Orice” Single Riders〉について紹介させていただきたいと思います。

日本のレザーウェアブランド〈Isamu Katayama Backlash (イサムカタヤマバックラッシュ)〉によるもので、以下では「Orice (オリーチェ) ライダース」と呼称します。色違いで黒 (Black)・赤 (Bordeaux) の2着を愛用しています。

Italy Shoulder "Orice" Single Riders, Black by Isamu Katayama Backlash
Italy Shoulder “Orice” Single Riders, Black by Isamu Katayama Backlash
Italy Shoulder "Orice" Single Riders, Bordeaux by Isamu Katayama Backlash
Italy Shoulder “Orice” Single Riders, Bordeaux by Isamu Katayama Backlash

私から見たBacklash

現在の私のファッションテイストは、クラシコイタリア系にやや傾倒しています。クラシコイタリア系と親和性の高いレザーウェアとして名前がよく挙がるのは〈Emmeti (エンメティ)〉や〈Cinquanta (チンクワンタ)〉といったイタリアブランドでしょうか。クリーンかつミニマムなデザイン・シルエットを有し、ウールのトラウザーズやドレスシューズにも馴染むのが魅力的ではあります。

一方で、レザーウェアに関していうと、私はBacklashや〈m.a+ (エムエークロス)〉〈Giorgio Brato (ジョルジオブラット)〉といったラギッドでグランジ感のあるものから入門しました。時代としては、2000年代 (ゼロ年代) 中盤から終盤にかけてです。こうしたブランドのレザーウェアと比べると、EmmetiやCinquantaのラムレザーやホースハイドは少しヤワに感じられてしまうところがあります。
端的に言うと「レザーブルゾンを着ている感じがしない」のです。加えて、使用する革についても、EmmetiやCinquantaはクロム鞣しメインでエイジングを存分に楽しめるものではないという側面もあります。一方で、Backlashの製品は大多数がベジタブルタンニン鞣しの革を採用しているようです。

Oriceライダースの位置付け

Backlashといえば、製品染めを施したレザーウェアが定番です。無染色の革をジャケットなど服の形に仕立てた後に染色を施すことで、革が縮んで独特のシワ感が生み出されています。例えば、下の〈イタリーショルダー〉通称「イタショル」は、そうした加工が施されたモデルのひとつです。

ITALY SHOULDER "Garment-Dyed" Single Riders by Backlash
ITALY SHOULDER “Garment-Dyed” Single Riders by Backlash
スクリーンショット出典: https://store-backlash.jp/?pid=129524489

一方で、Oriceライダースはというと、Backlashのラインナップの中では珍しく製品染めがなされていません。そのため、製品染め特有のラギッド感を抑えられ、着用時に比較的落ち着いた雰囲気が醸し出されます。一部では「Backlashらしくない」「大衆に迎合している」などと評されているようですが、私は後述するいくつかの特徴から、十分Backlashらしさのあるシリーズだと考えています。

そのほか、Oriceシリーズにはダブルブレストのものも展開されていますが、私は気後れして手を出せていません……。個人的にですがダブルブレストのライダースジャケットは本気でモーターサイクルに乗る人向けのイメージが強く、それを着て電車に乗ったりするのには違和感を感じるためです。
(ダブルブレストのライダースジャケットを着て、電車の吊り革につかまっているのはどこか滑稽だな、という根も葉もない偏見)

Isamu Katayama Backlashによる、ダブルブレストのOriceライダース
ダブルブレストのOriceライダース。一度入手したものの、上記の理由ですぐに手放すことに…

Oriceという名前と革の供給元

さて、そもそもOriceという名称は、ジャケットのボディに使われている革を鞣しているタンナリー〈Conceria Orice S.r.l.〉に由来しています。Oriceとは、イタリア・トスカーナ州のタンナリーで、ダブルショルダーのベジタブルタンニン鞣しを得意としているようです。

Orice - produzione di pelle conciata al vegetale
Conceria Orice pelli conciate al vegetale vegetable tanning leathers
「Conceria Orice S.r.l.」Webサイト
「Conceria Orice S.r.l.」Webサイト
スクリーンショット出典: http://www.orice.com (スクリーンショット取得: 2022年11月)

Oriceとは、イタリア語で動物のオリックスのことを指し、Conceria Orice S.r.l.のロゴはこのサーベル状の長い角を持つレイヨウの一種をモチーフとしているそうです。

動物のオリックス (イタリア語で "Orice")
動物のオリックス (イタリア語で “Orice”)

また、このイタリア中部のトスカーナ州にあるタンナリーは、ダブルショルダーのベジタブルタンニン鞣しを得意としているようです。

Oriceライダースの特徴

ダブルショルダーの風合い

Oriceライダースには、Orice (タンナリー) から供給されるフルグレインのダブルショルダーが使用されています。巷では背中が上下または左右で分離されているレザーブルゾンが多く見られる一方、Oriceライダースは、牛の左肩から右肩までがひとつながりとなったダブルショルダーなので、後身頃が1枚のパーツでできているというのが特徴的です。

とあるWebサイトにて、ダブルショルダーの牛革のイメージが紹介されていたので引用して紹介します。この図を見ると、ダブルショルダーは牛の両肩の革が使われていることがわかります。

Euro Leather Shopによる牛革のカッティング分類。上段左から3つ目がダブルショルダー (Double shoulder)
Euro Leather Shopによる牛革のカッティング分類。上段左から3つ目がダブルショルダー (Double shoulder)
スクリーンショット出典: https://elwshop.com

また、牛の生前の皮膚のシワなどが革に残った「トラ模様」などを楽しめるのもダブルショルダーのいいところです。ドレスシューズなど、他の革製品だとトラは忌避されることが多いですが、この手のレザーブルゾンだとトラがガッツリ入ったものが好まれる傾向にあるようです。

背面から Backside
背面から | Backside

私の手元にある品に関しては、シボの出方や革の柔らかさが黒と赤とで少し違います。黒の方がタイコによるシボ感が強く出ていて、かつ柔らかくもあります。黒は2015年頃、赤は2017年頃に入手したのですが、この違いは着用期間の差によるものではなく、製造時期が異なることによる革の特性、あるいは革を採った部位の違いからくるものではないかと想定しています。

首周り A closer look around the chin
首周り | A closer look around the chin
首周り A closer look around the chin
首周り | A closer look around the chin

革の厚み

使用される革の厚みが1.0 mmと大変厚手であることも、特徴のひとつに数えられます。羊革やクロム鞣しの牛革だと1 mm前後の革厚のものも見受けられますが、ベジタブルタンニン鞣しでこれだけの厚みを持たせるのは、かなり尖ったアプローチかと思います。

革が厚手なので、おろしたての状態からだと体に馴染ませるのも一苦労です。写真がないのが残念ですが、購入直後の状態だとジャケットが形を保ったまま直立するくらいカチカチです。ただし、革の鞣し工程でしっかりと加脂されているためか、着込んでいけば徐々に馴染んできます。

しかしながら、私はOriceライダースを着て乗り物を運転する気にはなれません……。 腕・肩の可動域は、ある程度着込んだ今でもかなり制限されるので、少なくとも車の運転は絶対無理だと思います。デザイン上の好みは分かれる所ですが、肩にはアクションプリーツがあってもよかったのではないかと思います。

なお、革が厚い分、非常に重たいのも一癖あるポイントです。私の手持ちの赤い方の重量を測ったところ、1.6 kgでした (表記サイズは「3」で、L相当)。同じく手持ちの、目付450 g/mのチェスターフィールドコート (着丈122 cm) は1.2 kgでした。恐らく、Oriceライダースは私の手元のアウター類を全部測っても最重量級になるでしょう。重いので疲れますが、「レザーブルゾンを着ている感」は存分にあります。

程よい着丈とシルエット

Oriceライダースの着丈・シルエットは、Backlashにしてはいい意味でコンサバ寄りな印象を受けます。参考までに (恥を忍んで) 下に着用画像を載せましたが、肩幅でサイズを合わせたときに、着丈は短すぎずゆとりのある長さで、身幅もピタピタ過ぎずといった感じです。若い頃はピタピタで短めもよかったのですが、歳をとった今となってはあまり攻めすぎないシルエットの方が安心感を覚えます。

袖の長さも個人的にはちょうどいい塩梅ですが、他のレザーブルゾンに比べるとやや長めかもしれません。

癖のあるファスナー

ファスナーは〈YKK (ワイケーケー)〉の〈Excella (エクセラ)〉で、エレメントもスライダーも大きく存在感のあるものが使われています。ただ、この仕様は個人的にはあまり好みではありません。主張のない一般的なサイズのものの方が、使い勝手がよいと感じるからです。いつかリフォームに出して交換してもらおう、と常々考えているのですが、前身頃・ポケット・袖・脇を全て交換するとかなりの出費になってしまうので躊躇してしまいます。

前身頃のファスナー Fasteners on the body
前身頃のファスナー | Fasteners on the body

スタイリング

今回紹介した2着のレザージャケットを着用した様子を紹介します。

Oriceライダースジャケット (ボルドー) のスタイリング
Oriceライダースジャケット (ボルドー) のスタイリング
Oriceライダースジャケット (黒) のスタイリング
Oriceライダースジャケット (黒) のスタイリング

先ほどもお話ししましたが、着丈やシルエットがほどよい具合なのが強調したいポイントです。なお、下に着用して窮屈さを感じないのはTシャツや薄手のニットまでです。私はあまりそうした着用はしませんが、下にスウェットを着られるほどの余裕はありません。

対抗馬になり得るレザーブルゾン?

私のニーズに応えてくれる既製品のレザーブルゾンのなかで、Oriceライダースの対抗馬になり得るものが過去にひとつだけ存在しました。Backlashの上位ライン〈Backlash the Line〉で展開されている〈イタリーカーフ〉を使用したモデル〈T-004〉です。

取扱店による、Backlash the Line T-004のショップページ
Backlash the Line T-004。スクリーンショットは取扱店Webサイトより引用させていただきました
スクリーンショット出典: https://www.haka4.com/?pid=141010233 (スクリーンショット取得: 2022年11月)

上述したOriceライダースを選んだポイントには反し、こちらは製品染めがなされたモデルです。一時期、諸々の理由で同じ革を使用したダブルブレストのモデル〈T-005〉を所有していたことがあります (一切着用はできませんでしたが……)。製品染めがなされてはいるものの、イタリーカーフはカーフらしく柔らかめの風合いで、見た目にも肌触りにもOriceよりワングレード上の印象を与えます。

定価40万円超の受注生産ということでなかなか手が出せなかったのですが、残念ながら2020年シーズンを最後に廃盤になってしまったとのこと。Backlash直営店の方曰く、革が安定的に入手できなくなった (海外の買い手に対して買い負けてしまっている?) のが原因なのだとか。

なお、Backlash the Lineからは〈Guidi (グイディ)〉シリーズのジャケットも展開はされていますが、こちらは個人的には風合いがあまり好みではありません。Guidiシリーズは、イタリアのタンナリー〈Guidi & Rosellini (グイディ & ロゼリーニ)〉のオイルカーフ〈Vitello Fiore (ヴィテッロフィオーレ)〉を使用した製品ラインのようです。Vitello Fioreは日本の鞄ブランド〈Ganzo (ガンゾ)〉の〈GUD2〉シリーズの鞄を所有しており、こちらは大変気に入っています。ただ、ジャケットになったものはあまりしっくりきませんでした。

GanzoのGUD2シリーズに属するソフトブリーフケース
GanzoのGUD2シリーズに属するソフトブリーフケース

最後に

長年愛用しているレザーブルゾンを紹介させていただきました。

Oriceライダースジャケット (ボルドー) のスタイリング

なお、上で挙げたイタリーカーフと同様、Oriceライダースも過去2, 3年プロパーに展開されていません。イタリーカーフの件も含め、新興国を中心に皮革の需要が拡大する一方、欧州における牛肉消費量が減少傾向にあったり、ESGの観点における皮革産業への向かい風 (動物倫理というよりも、鞣し工程における環境負荷の観点にて) が強まったりする中、高品質な革を使用した衣類への入手性が年々低下しているのかもしれません。革製品に関しては、欲しい時が買い時、ということを強く痛感させられる次第です。

Authored by
Navy Circle

サルトリアル・クラフツマンシップを中心としたクラシックファッションを追いかけるY世代。Respecting the long-lasting classics and craftsmanship

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