ポータブル分光計「ColorReader」で服地の色を知る (1) きっかけと比較

「分光計」は、モノの色を定量的に測るための道具です。
ワードローブへの投資をより効果的・効率的に行なっていくために、安価な分光計を導入してみました。
私が確認できた限り、一般消費者がファッションの文脈で分光計を導入・活用している例は英語圏を含めても見当たりません。
日本のファッショニスタの参考になれば、また、そこからもっと便利な使い方が生まれてくれば、というモチベーションでこちらの記事を作成してみました。

今回導入した分光計「ColorReader」| ColorReader, a portable spectrometer

きっかけ

本ブログのタイトルにも垣間見えるように… 私は青や紺という色が好きです。

Image by vixrealitum from Pixabay

そうしたことから、ワードローブにもついつい青系・紺系の服ばかり追加されがちです。特に、青や紺が定番色になっているスーツやジャケット、コートなどの重衣料でこの傾向が顕著です。
新しいスーツやジャケット、コートを誂える際、現在のワードローブにおける色味の構成を踏まえて生地を選べるのが理想です。しかし、そうした色味を的確に把握することは往々にして難しいものです。

また、私は理工系の出自ということもあってか、目の前の布地の色味はどんなものなのかを客観的・数値的に確認してみたい、と感じる瞬間があります。
例えば、汎用性の高そうな紺無地の相物のサージがあったとした場合。見た目で感じ取れる以上に、明るさ・暗さはどの程度なのか、どれくらい花紺、茄子紺、または鉄紺寄りなのか。
主観的な見た目は、照明条件も状況によって大きく異なります。日中の自然光の下で色味を確認できれば多少客観的な色味の把握に繋がりますが、必ずしもそうした環境で生地を確認できるとは限りません。
生地の見た目を決める要素であるテクスチャはある程度客観的に把握することができますが、色味の確認は往々にして難しいものです。

色のものさしを得るということ

上で挙げたような問題には、色を客観的に測る指標、いわば色のものさしがあればよいといえます。

色見本を使う

色のものさしとしてプロ・アマ問わず一般的に講じられているのは、Pantone (パントーン) に代表されるような色見本を使う方法でしょう。
私も、過去に奮発してテキスタイル対応のPantone色見本帳を購入したことがあります。
確かに、目の前の布地の色を客観的に捉えることができます。ただ、布地と見本の色の照らし合わせにどうしても時間がかかってしまったり、その場の照明条件の問題で細かい判別が難しかったりすることが少なくありません。
私の場合、買った色見本帳は早々に紛失してしまい、あまり有効活用することもできませんでした。
安くはないので、再度買い直すことも躊躇してしまいます。Pantoneとは別の色見本なら多少は安いかもしれませんが。

Pantoneの色見本帳 | Image by Yanis Ladjouzi from Pixabay

そうした中で、分光計という手段にたどり着いたのは、Kindle Unlimitedで暇つぶしに読んでいた雑誌の記事でした。確か、MONOQLO家電批評だったような気がします。
1万円台と気軽に手を出すことも憚られない価格で、小型で、スマートフォンと接続して情報を管理できるというもので、非常に強い興味をそそられました。
具体的なデバイスの紹介に踏み込む前に、分光計について少しだけ紹介したいと思います。

分光計とは

分光計とは何か、を語弊を恐れずに平たく言うとすれば、「入ってきた光に含まれる、さまざまな色成分の強さを測る道具」と言えるかなと思います。
ここでいう「色成分」とは、赤橙黄緑青藍紫、といったイメージのものです。下の写真のように、プリズムに入ってきた白い光は、色ごとの屈折率の違いによってさまざまな色の成分に分離されます。
より学術的な文脈だと「さまざまな色成分の強さ」は「波長の強度スペクトル」と言い換えることになります。

Image by Daniel Roberts from Pixabay

ところで、分光計は入ってきた「光の色」を測る道具です。
一方で、服地をはじめとした多くのモノは、自ら発光しているわけではありません。
例えば、郵便ポストが赤く見えるのは、ポストに塗られた塗料が赤い成分の光を強く反射し、それが目に届いているからといえます。これと同じ原理で、モノの表面の色を測る場合は対象物の表面に光を当て、そこから反射した光の色を測ることになります。
このように、光ではなくモノの色を測る分光計は「分光測色計」と明示的に呼び分けられることもあるようです。

これまた誤解を恐れずに平たく表現すると、分光測色計は下のようなはたらきのもとでモノの色を測るものといえるはずです。

分光測色計のはたらき | How a spectrophotometer works

反射して得られた光に含まれる各成分の強さをデータベースに照合 (必ずしも正しくはない表現ですが) して、表面の色を推定しています。

ここで大事になってくるのが、図中にもある「モノの表面の色を測るのに最適な光源」です。
人間の目に見える色域の成分の光を、なるべく満遍なく含んでいる光を出せる必要があります (演色性が高いとか、白色性が高いと言われるものです)。
そうした要求もあり、分光測色計は基本的には高価で複雑なデバイスです。
しかしながら、今回紹介するように1万円台で入手でき、スマートフォンと接続して使えるようなデバイスがいつの間にか登場していたようです。

以下では、分光測色系のことも単に分光計と呼びます。

一般消費者が趣味の延長で買えそうな分光計

この手の分光計のようなデバイスに、例えば趣味の範疇で3万円まで投資できるとすると、どんな選択肢があるのでしょうか?
日本国内のECで購入できるものを挙げると、記事の冒頭で紹介した製品も含めて下のような選択肢が見つかります。

そこまでじっくり検討したわけではないですが、私はDatacolor社ColorReaderを選びました。
Datacolor社は今回検討したような安価な製品だけでなく、プロ用・業務用のハイエンドなソリューションも展開していること、および検討当時Amazon.co.jpで比較的安かったことが主な要因です。
なお、Datacolor社は映像クリエーターが使用するカラーグレーディングツールも提供するメーカーのようです。そうしたことから、別の切り口からDataColor社の名前をご存知の方もいるかもしれません。
なお、上に挙げた製品の中には、厳密には「分光計」ではなく「色差計」に分類されるものが混じっているかもしれません。今回の用途であれば、色差計でも使用に耐え得るとも想定されますが。

なお、上記のどの製品も、対象としているワークフローは「塗料の色を決めるための色の計測」であるのが興味深いポイントです。
私が選んだColorReaderを含め、これら製品は布地を含むさまざまなモノの色を計測し、数値化できます。ただし、その上で導き出される次のステップは「計測された色に一番近い塗料は、日本塗料工業会 (JPMA) の番号○○の色に近似している」といったものになるようです。
そうしたことから、例えばインテリアデザイナーの方が「この壁をこのテキスタイルの色と同色で塗るなら、どの塗料を選べばいい?」といったことが合理的に判断できるようになるというもののようです。
今回の私のユースケースでは、もちろん塗料の色を知る必要はなく、布地の色を数値化できればそれで十分となります。

終わりに

服地の色を測るためのポータブル分光計、実力の程はどのようなものでしょうか?
次回の記事でレビューしてみたいと思います。

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