少し前に公開した記事の中で、タイドアップした装いがマイブームだ、なんてエピソードを紹介しました。
さまざまなネクタイの中でも、私はいつもペイズリー柄のタイばかり買ってしまいます。特に、プリントではなく織りによって柄が表現されているジャカードのものが好きなのです。そんなことから、今回は特に出番の多いペイズリーのジャカードタイをいくつか紹介したいと思います。
そもそも、ペイズリーとは?
普段何気なく身につけているペイズリー。本稿をしたためるなかで、そもそもペイズリーとはどんな柄なのだろう?と思い、手元の書籍をひも解いてみました。ペルシャで生まれたものがインドを通じて西欧に渡り、洋服における普遍的なデザインに昇華されたということのようです。そして、その名前は起源であるオリエント世界ではなく、模造品が盛んに製造されたスコットランドの地名に由来するというのも興味深いエピソードです。
日本では勾玉の形に似ていることから「勾玉模様」とも言われる装飾的な植物文様。起源はペルシャとされ、ペルシャの花鳥文がインドやイスラムに伝わり抽象化されたという。松かさ、菩提樹の葉、ヤシの葉、糸杉、あるいはゾウリムシなどの説もある。インドでは、カシミール地方で売られている「カシミア・ショール」の代表的な模様となっている。カシミア・ショールは19世紀初め頃、ヨーロッパで大流行となり、生産が追いつかなくなったため、イギリスで模造品が作られるようになった。スコットランドのペイズリー市でも、インドのモチーフを様式化したカシミア・ショールが量産化されるようになったことから広く知れ渡り、代表的なこの柄が「ペイズリー」と呼ばれるようになった。
出典: 成田 典子、テキスタイル用語辞典、株式会社テキスタイルツリー、2012年
上の文献に登場するカシミア・ショールというものがどのようなものなのかイメージできなかったのですが、調べてみると写真が見つかりました。確かに、ペイズリーのような柄が垣間見える、優雅なショールです。
By Hiart – Own work, CC0, Link
ペイズリーに関するWikipediaの日本語記事も非常に内容が充実したものとなっているので、とりあえずリンクだけ貼っておくこととします。
ペイズリーといえば、私の手元には下の写真のようなアイテムも。ペイズリーの形をした、全長9 cmほどと大きめのブローチです。時折りコートなどに取り付けて愛用しています。
他にも、初めて洋服のイージーオーダーに挑戦したあの頃の私は、ペイズリー柄のジャカードの裏地を張り切って選んだりしていたものです……(遠い目) こんな風に、ネクタイに限らず私の好きな柄のひとつがペイズリーとなっています。
1本目: 茶色ベースのビビッドなタイ
さて、ここからが本題。まずはじめに、茶色の土台に赤と緑の糸で模様があしらわれたタイ。
プリントにせよジャカードにせよ、ペイズリータイはトーンオントーンのように控えめな表現のものが多いように見受けていますが、本品はガッツリ華やかなペイズリー。このようにして改めてみると、なんとも賑やかなタイだなぁとしみじみ。構造は裏地あり・芯ありの、いわゆる普通のネクタイという感じです。
こちらは、イタリアの〈Etro (エトロ)〉のもので、新卒で働き始めて間もない頃に近くのアウトレットモールで購入しました。今回取り上げるものの中では最古参となります。Etroといえばペイズリー、ペイズリーといえばEtroというイメージが強いですが、上述の文献にも搭乗したカシミア・ショールの復興こそが、Etroというブランドが創業したきっかけであったようです。Etroはテキスタイルメーカーでもあるので、ネクタイの生地も自社で企画・製造していたりするのでしょうか?
春夏シーズンの装いに合わせてみた様子がこちら。ジャケット・オッドトラウザーズはいずれも強撚のウールモヘア生地で仕立てたものです。
ドレスシャツは茶色のベンガルストライプで、コットンリネンの生地。ジャケットやトラウザーズの柄や杢糸、またはドレスシャツでタイの赤や緑を拾う、なんてことは一切考えていません。
なお、上のジャケットとオッドトラウザーズは、それぞれ下の記事で紹介しています。
2本目: ブルーグレー × 黄色のタイ
2本目は、ブルーグレーのベースに黄色の模様のタイです。
ブルーグレーのベース部分は直角の階段状に見えますが、ネクタイの生地は45度バイアスされているので、ヘリンボーンだということがわかります。こちらはイタリア・ナポリのシャツメーカー〈Luigi Borrelli (ルイジボレッリ)〉のもので、コンストラクションについては1本目と同じく普通のネクタイ、という分類となります。
このタイは、ベージュのコットンリネンのスーツとともに。
ドレスシャツは、緑のドビーストライプがあしらわれたものです。
今回は5本のペイズリーのタイを取り上げていますが、遠目で見てもペイズリーだとわかりやすいのは本品と1本目くらいかもしれません。この後登場する残りの3本は、よくよく目を凝らしてようやくペイズリーだとわかるような意匠となっています。
上の写真でコーディネートしたアイテムについては、スウェードのドレスシューズを下の記事で取り上げています。
3本目: 金 × 赤のタイ
今回紹介する5本のうち、最も派手さを極めるのがこちらではないでしょうか。
金色のベースに赤の模様となっています。ちょうどこの記事を公開する旧正月シーズンを迎えると、東京・銀座など外国人観光客の多い商業エリアで見かけることが多くなる配色です (笑)
色味の関係上、遠目からはペイズリーだとわかりにくく、近づいてみて初めて模様が浮かび上がってきます。こちらは英国の〈Drake’s (ドレイクス)〉のもので、スフォデラート (Sfoderato) と呼ばれる裏地のない作りとなっています。三つ折りで芯は入っているものです。
この派手なタイを、ダブルブレストのネイビーブレザーと太めのベンガルストライプのドレスシャツと組み合わせてみました。
派手なタイには派手なシャツ。ネイビーやチャコールグレーのダークトーンの無地のスーツ (ダークスーツというには明るいくらいの色味) やジャケットに、ベンガルストライプのシャツとこのタイを持ってくるのが個人的に好きなのですが、少しオラついた感じが拭えないでしょうか……。せめて、シャツのストライプのピッチをもう少し狭くする、もしくはストライプの色として薄めのものを選ぶなどすれば、押出し具合が和らぐのかもしれません。
ブレザーとトラウザーズはともにフランスの生地商社〈Dormeuil (ドーメル)〉の〈15.7 (フィフティーンポイントセブン、15 Point 7)〉というコレクションの生地で仕立てたもので、それぞれ下の記事で紹介しています。
ドレスシャツは〈土井縫工所〉のもので、〈帝人〉の〈Solotex (ソロテックス)〉という機能性ポリエステル生地で作られています。こちらも、下の記事で紹介しています。
4本目: バーガンディーのストライプミックス
次の一本は、少し変わった織柄となっています。遠目で見るとただのストライプですが……
近づいて見ると、ストライプのピッチの太い部分に、植物のツルに囲われたペイズリー紋が描かれているのがわかります。
私はこのタイを初めて見た時に、刺繍入りのタイで有名なフランスの〈Dominique France (ドミニクフランス)〉を連想しました。しかし、実際には本品は国内の某セレクトショップによるオリジナル品です。ただ、誰がこの生地を企画し、どのメーカーが織ったのかが非常に気になります。もしも日本の生地メーカーが織ったものだとすれば胸熱です。
コンストラクションについては、今回紹介するものの中で唯一、セッテピエゲ (Sette pieghe) やセブンフォールド (Seven fold) と呼ばれる七つ折りのものとなっています。もちろん芯も入っていませんが、生地がしっかりしているためか、それほど軽やかさはありません。
こちらは、ウィンドウペーンの入った茶色のスーツとともに。エスコリアルウールで織られたサキソニー地で仕立てられたものです。
非常にエレガントな雰囲気のタイで、とても気に入っている一本です。
上のスーツは、下の記事でも取り上げています。
5本目: 茶色のボタニカルミックス
最後の1本も、少しヒネリのある品です。一見すると、ペイズリーとはまた異なるボタニカル調のモチーフが目に飛び込んでくるのですが……
近づいてみると、ベースの茶色の部分にトーンオントーンでペイズリー柄が織り込まれているのがわかります。4本目のタイも非常に凝った生地だと感じましたが、こちらも負けず劣らずです。それもそのはず、こちらも4本目と同じセレクトショップによるプロデュースの品となっています。
構造については、3本目と同様に三つ折りのスフォデラート。
こちらは、ネイビーブルーのサキソニー生地のスーツを合わせてみたのですが……
こちらのタイ、どこか南国っぽい雰囲気を覚えるは私だけでしょうか……? そんなことから、秋冬の紡毛の洋服にはミスマッチだったかもしれないと感じています。このように、自宅や出先の姿見で見る分には何も思わず、写真などで客観視して初めて気付く違和感というのは少なくありません。
なお、こちらのスーツについては、下の記事で少しだけ言及しています。
最後に
今回は、私が好きなペイズリーのジャカードタイを5点まとめて紹介しました。一応ドレスクロージングをメインテーマだと標榜する当Webサイトですが、ここ数年の私自身のネクタイ離れもあってか、タイについて言及したのは今回が初めてとなりました。
最近、私の中でタイへのパッションが再燃しつつあることは冒頭に書いたとおりですが、何の用事もないのに、たまに勤め先にもタイドアップして赴くことがあります。そうした際、一部の同僚からはタイを堅苦しい異物としてではなく、ファッショナブルなアイテムとして見てもらえるような出来事も生まれています。
なお、今回撮影した単品のタイの全体像は、一度自分の首元にプレーンノットで締め、それを緩めて首から外し、輪っかの大きさを再調整して平置きする…… というまどろっこしい手法で撮影しています (笑) これは、韓国・ソウルのメンズショップ〈Andrea Seoul (アンドレアソウル)〉のInstagram投稿にインスパイアされてのもの。こちらのお店もいつか訪ねてみたいものです。
この他にも、私の愛用品と題していくつかの品を紹介しています。もしご関心があれば、下のリンクからその一覧をご確認ください。
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