ユニクロ・無印良品からのステップアップ先としてのメーカーズシャツ鎌倉 (2)

前回の記事にて、ユニクロや無印良品といったファストファッションからのステップアップ先のブランドとして、私が個人的に〈メーカーズシャツ鎌倉〉を推したいことを紹介しました。

前回に引き続き、具体的な推しポイント、および脱ユニクロ・無印良品の観点で見た使い勝手の悪さについて議論したいと思います。記事公開の時期に反して、秋冬のアイテムばかり紹介しております。これは記事を作成していたのが2022年の秋口であったものの、諸々のタイミングでこのタイミングまで公開ができていなかったためです。

メーカーズシャツ鎌倉の推しポイント

ここからは、メーカーズシャツ鎌倉の推しポイントを、いくつか具体的な商品を挙げつつ紹介したいと思います。

無難なアイテムが多い

私が考える一番のメリットは、アパレル商品が割と無難に纏まっているのでファッションセンスに自信がなくとも失敗しにくい点かと思います。ただし、サイズ選びは別で、店員を含む有識者に見極めてもらうことが望ましいでしょう。

例えば、ジャケットのラインナップ。

メーカーズシャツ鎌倉によるスポーツジャケットのラインナップ
スポーツジャケットのラインナップ
スクリーンショット出典: https://shop.shirt.co.jp/shop/c/c106020/ (2022年10月取得)

色・柄・素材感ともベーシックなものが多く、サイズ感さえ適切ならどれを選んでも失敗することはないと思います。

具体的な商品を取り上げてみます。2022年10月下旬に、下のフランネルのブレザージャケットを東京都内の実店舗で見る機会がありました。

メーカーズシャツ鎌倉によるウールフランネルのブレザージャケットの商品Webページ
ウールフランネルのブレザージャケットの商品Webページ
スクリーンショット出典: https://shop.shirt.co.jp/shop/g/gZMAM28A144/ (2022年10月取得)

日本国内の織物工場で織られた、しっかりとした目付けで低速織機の風合いを備えたフランネルを使用したジャケットです。私の主観ですが、生地の風合い、パターン (シルエット)、縫製はこの価格だと十分かと感じました。ボタンや芯地などの副資材はしっかり確認できませんでしたが、価格に対して及第点といったところでしょうか。

身頃のポケットが切りポケットなのは好みが分かれるところかもしれませんが、秋冬で汎用性の高い濃紺フランネルのブレザージャケットが高いコスパで入手できる一例かと思います。もちろん、予算が許せばメーカーズシャツ鎌倉以外からよりグレードの高い選択肢を模索することも可能でしょうが、脱ファストファッションという観点ではちょうどよい位置付けなのではないでしょうか。

クラシコイタリア系下位を意識しつつも、それを上回るトラウザーズとニットウェア

上ではメーカーズシャツ鎌倉のジャケットを紹介しましたが、残念ながら私自身はジャケットは誂え (オーダー) かクラシコイタリア系ファクトリーブランドのものを選ぶことが多く、メーカーズシャツ鎌倉のジャケットは一度も購入したことがありません。一方、メーカーズシャツ鎌倉のアパレルの中で私も活用しているのが、トラウザーズとニットウェアです。トラウザーズ・ニットウェアに関しては、クラシコイタリア系ブランドをしっかりベンチマークし、価格競争力のある日本製の製品を出しているな、と感じます。

トラウザーズ

例えば、下の商品はイタリアの服地メーカー〈Vitale Barberis Canonico (ヴィターレバルべリスカノニコ)〉の梳毛フランネルを使ったトラウザーズです。

メーカーズシャツ鎌倉によるウーステッドフランネルのトラウザーズの商品Webページ
ウーステッドフランネルのトラウザーズの商品Webページ
スクリーンショット出典: https://shop.shirt.co.jp/shop/g/gZKBK14G144/ (2022年10月取得)

手にとってみると、価格の割にしっかりとクセ取りがなされている印象です。私の主観では、コンストラクションはイタリアのトラウザーズメーカーの雄である〈Incotex (インコテックス)〉や〈PT Torino (ピーティートリノ)〉〈GTA (ジーティーアー)〉などに引けを取らない印象です。それでいて、価格は定価ベースで3分の1程度なので高いコスパを窺わせます。

メーカーズシャツ鎌倉のトラウザーズへの意気込みは、下の記事でも語られています。

シャツ屋が考える究極のトラウザーズ | メーカーズシャツ鎌倉 公式通販 | 日本製ワイシャツ ネクタイ ブラウス|メーカーズシャツ鎌倉 公式通販
|メーカーズシャツ鎌倉のオンラインショップ。ワイシャツ、オーダーシャツ、ビジネスシャツ、カッターシャツ、オフィスカジュアル、ネクタイを中心に上質なアイテムを手頃な価格で提供します。国産で良質なものを作る、鎌倉シャツの知識と技術を集めたトラウ...

私も、メーカーズシャツ鎌倉のトラウザーズとして、主に春夏向けのウールのものを多く活用しています。

ニットウェア

下のニットカーディガンは、私も個人的に愛用しているものです。

メーカーズシャツ鎌倉のスタンドカラーカーディガンの商品Webページ
スタンドカラーカーディガンの商品Webページ
スクリーンショット出典: https://shop.shirt.co.jp/shop/g/gNM10442946/ (2022年10月取得)

イタリアのニットウェアブランド〈Zanone (ザノーネ)〉の名品〈Chioto (キョート)〉を忠実にコピー ベンチマークしたのであろう一着です。私もメーカーズシャツ鎌倉の本品とZanoneのChiotoを比べてみましたが、見分けはつきません。ニットのリンキングなどの仕上がりもほぼ同等ではないかと思います。パターニングも同様で、Chioto同様襟を綺麗に立てて着用することができます。

ZanoneのChiotoの商品Webページ
ZanoneのChiotoの商品Webページ
スクリーンショット出典: https://www.slowear.com/jp-ja/zanone-認証メリノウール・スリムフィットスタンドカラーカーディガン/812519.ZR229.Z1375.html (2022年10月取得)

それでいて、価格は本家の半分以下ですね。特に5ゲージから7ゲージあたりのウールのChiotoは人気が高く、ネイビーやグレーなどの定番色はプロパーで売り切れることが多いと聞きます。セールに出回るチャンスの少ないChiotoの代わりに、こちらのメーカーズシャツ鎌倉の選択肢。非常に訴求力が強いなと思います。

メーカーズシャツ鎌倉のスタンドカラーカーディガン
メーカーズシャツ鎌倉のスタンドカラーカーディガン

トータルコーディネートできる

上ではジャケット、トラウザーズ、ニットカーディガンを例にあげました。こうしたアイテムをトータルコーディネートできる、というのもメリットの一つかと思います。ユニクロや無印良品からのステップアップを考慮すると、1ブランドでなるべく上から下まで全ての用品が揃うのが理想でしょう。

なお、ラインナップにはセットアップやコートも含まれますが、私が個人的に見たり試したことがないのでなんとも言えません。

メーカーズシャツ鎌倉の使い勝手に関する注意点

とはいうものの、メーカーズシャツ鎌倉はユニクロ・無印良品からのステップアップを考えるうえでの注意点があります。その多くが、リアル店舗の使い勝手の悪さに関するものです。

ユニクロを展開するファーストリテイリングの決算情報によると、日本国内のユニクロ事業の売上高に占めるEC販売の比率は高々16%程度のようです。すなわち、残りの84%はリアル店舗での売上だといえ、売上の大部分がリアル店舗で生まれていることがわかります。無印良品を含む他の主要ファストファッションも大体同じ傾向だと想定すると、脱ユニクロ・無印良品の次のステップにはリアル店舗での良質な体験が元来重要になるものと考えられます。

■国内ユニクロ事業:通期は減収増益。下期は増収、大幅増益と業績が回復

国内ユニクロ事業の当連結会計年度の売上収益は8,102億円(前期比3.8%減)、営業利益は1,240億円(同0.6%増)と、減収増益となりました。既存店売上高(Eコマースを含む)は、同3.3%の減収となりました。上期は、冬物売れ筋商品が欠品し、お客様の需要に応えきれなかったことで、前年同期比9.0%減収となりました。下期は、外出ニーズの高まりに伴い、感動ジャケット・感動パンツやシャツの販売が好調だったことに加え、7月以降は気温が高く推移したことから夏物商品が好調となり、同4.7%増収となりました。通期のEコマース売上高は1,309億円、前期比3.1%増、売上構成比は16.2%となりました。売上総利益率は、原材料や輸送費の高騰で原価率が悪化した一方で、販売価格のコントロールを徹底したことで値引率が大幅に改善したことから、前期比2.5ポイント改善しました。売上高販管費率は、中長期を見据えて、ブランディング強化のために広告宣伝費を増やしたことや、自動倉庫への戦略的な投資を実施していることにより、同1.5ポイント上昇しました。

ファーストリテイリング 2022年8月期 決算サマリー | FAST RETAILING CO., LTD.
https://www.fastretailing.com/jp/ir/news/2210131800.html

その一方で、メーカーズシャツのリアル店舗の状況はどういったものなのでしょうか?

店舗の規模が往々にして小規模

注意点のひとつは、実店舗の規模が比較的小さいこと。

神奈川県鎌倉市の本店は比較的ゆったりしていますが、他の店舗はフロアが小さく在庫もあまり豊富ではない印象です。その狭めのフロアも大半が既成シャツに占有されてしまっており、上で挙げたようなジャケットやトラウザーズ、ニットウェアなどは手に取って触れるものが多少限定されてしまうかもしれません。ユニクロや無印良品のように、あらゆる製品の在庫の全サイズが棚にずらりと並んでいるわけではなく、欲しい商品にたどり着くには店員のサポートが必要な場面も多く出てくるかもしれません。

東京・丸の内のメーカーズシャツ鎌倉の店舗
東京・銀座のメーカーズシャツ鎌倉の店舗
東京・銀座のメーカーズシャツ鎌倉の店舗

店舗のロケーションが限られる

また、店舗の所在地が限定されるのも注意点です。

ユニクロや無印良品とは異なり、メーカーズシャツ鎌倉は全国津々浦々に展開しているわけではありません。2022年10月現在、都道府県別だと、本店のある神奈川県をはじめ東京都、愛知県、大阪府、兵庫県、福岡県、広島県にしか店舗は展開されていません。近隣にメーカーズシャツ鎌倉の店舗がない方には、かなり不便を強いられるポイントといえます。

店舗限定商品が多い

特にシャツ以外の製品は、取り扱い店舗限定の商品が多く見受けられます。上で挙げたジャケットのラインナップを見ても、取り扱い店舗限定の商品が多く確認できます。全ての商品を最寄りの店舗で手にとって確認できないのも、不便な点に数えられるでしょう。

リアル店舗の使い勝手の悪さはどこから?

念のためメーカーズシャツ鎌倉を擁護しておくと、ユニクロ・無印良品と比べたリアル店舗の使い勝手の違いは、ビジネスモデルの違いに由来するのかもしれません。

メーカーズシャツ鎌倉の売上高に占めるECの比率は33%と、先ほど挙げたユニクロのそれよりも顕著に大きいです。主力商材であるシャツは比較的ECとの親和性が高い、といった性格もあるのかもしれません。

売上高は、額の大きい都心の丸の内や品川の店舗がコロナ禍前の約8割に戻り始め、大阪は19年度も超えている。変則決算になるが、年間で見れば損益分岐の目安である45億円には届きそうで、ほぼ19年度の水準。EC比率が約33%に高まるまで伸びたほか、出勤の増加によるシャツの買い替えや猛暑の半袖需要などが売り上げを支えた。

製販一体となったメーカーズシャツ鎌倉 27年度売上高100億円へ | 繊研新聞
https://senken.co.jp/posts/makers-shirt-kamakura-220818

事業全体におけるECの位置付けの違いなどから、リアル店舗への注力具合が変わってくるのでしょう。

最後に

ユニクロや無印良品からのステップアップ先としてのメーカーズシャツ鎌倉。

私はメーカーズシャツ鎌倉の回し者でもなければ、同社の特段のファンというわけでもありません。ただ、メーカーズシャツ鎌倉はトラッド・コンサバスタイルに関心がある方からもっと着目を浴びてもいいのでは、と感じます。ファッションのカジュアル化に押されてそうしたスタイルの存在感が薄くなりつつある今、ファストファッションからのステップアップのよい入り口になってくれればと思います。

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