Dormeuilの15.7シリーズ (1) 15.7 4 Plyで仕立てた紺ブレ

昨年末から今年にかけて仕込んだ秋冬向けの洋服が、少しずつ届き始めました。

そんな秋冬向けの注文服ですが、とある生地シリーズの魅力に取り憑かれ、思いのほか一冊のバンチブックから3着も仕立ててしまいました。そのシリーズとは、フランスの高級生地マーチャント〈Dormeuil (ドーメル)〉〈15.7 (フィフティーンポイントセブン・15 Point 7)〉というものです。そして、そんな3着の中から最初に紹介させていただくのが、〈15.7 4 Ply (15.7 4プライ)〉というペットネームの生地で誂えたブレザージャケットです。

Dormeuil 15.7 4 Plyで仕立てたジャケット
Dormeuil 15.7 4 Plyで仕立てたジャケット

今回は、この15.7というシリーズのこと、および最初の1着に選んだ15.7 4 Plyというファブリックのことについて書いてみたいと思います。

Dormeuilの15.7シリーズについて

元々、ファッション誌〈The Rake (ザレイク)〉で頻繁に特集されており、私も何となく認知はしていたこのシリーズ。この「15.7」という数字は原毛の細さ (繊度) を表しており、直径15.7 μm、すなわちスーパー160’s相当の羊毛から作られた生地となっています。

Dormeuilの15.7シリーズの織りネーム
Dormeuilの15.7シリーズの織りネーム

鷹岡と三越伊勢丹によるエクスクルーシブコレクション

従前、Dormeuilが世界的に展開するプロパーのコレクションにおいては、この15.7シリーズは経緯とも2プライの生地のみが含まれていたそうです。こうしたスーパー160’s前後の双糸の生地については、今やそれほど珍しいものではない認識です。昨年、下の記事で紹介した別の紺ブレもスーパー160’s使い。詳しいスペックに関する確かな情報は得られませんでしたが、経緯とも2プライだろうと見立てました。なお、こちらは英国の生地マーチャント〈John Cooper (ジョンクーパー)〉の生地で仕立てたものです。

梳毛ではなく紡毛ですが、同じくスーパー160’sのウールを使ったダブルフェイスの生地を紹介したこともあります。こちらは獣毛を得意とする大阪の織元〈深喜毛織 (ふかきけおり)〉によるもので、単に繊度が高いだけでなく、エスコリアルウールのようなナチュラルストレッチがあります。

それに対し、生地商社の〈鷹岡〉が〈三越伊勢丹〉とのコラボレーションのもと、2本の双糸をさらに撚り合わせて四子糸として織った生地をDormeuilに別注し、三越伊勢丹エクスクルーシブで展開を進めたところ、人気に火がついたという経緯でしょうか。そして、この4プライこそ、今回私が選んだ生地となります。

フランスの名門ドーメルで昨今人気のファブリックのひとつに、スーパー160’sに相当する15.7マイクロンの原毛を使用した“15.7(フィフティーン・ポイント・セブン)”があげられる。同生地は世界で流通しているバンチもラインナップされているが、今までその中に入っていたのは経糸・緯糸ともに2プライの糸で織られたタイプのみだった。

15.7には三越伊勢丹の別注による4プライ(三越伊勢丹別注では、さらに酔狂な6プライ、8プライもあり)のタイプもあって、そちらはTHE RAKEでも何度か紹介しているが、あまりにその出来がよかったためドーメルのフランス本社たっての希望で、“15.7”のバンチブックに加わることになったのだ。

大変しなやかかつ艶やかで、しっかり芯があり、ウェイトも320g/mと、仕立て映えのするバランスのいい服地だ。いちど触っていただければ、世界展開が決まったというのも100%納得していただけるだろう。

出典: https://therakejapan.com/issue_contents/the-excellence-of-fabric/
東京・神田須田町にある鷹岡株式会社 東京支社の社屋
東京・神田須田町にある鷹岡株式会社 東京支社の社屋。昭和初期に建てられた特徴的な建物で、千代田区の指定建築物となっている

上で引用したThe Rakeの記事にもあるとおり、鷹岡・三越伊勢丹による別注品は4プライ以外にも多岐にわたっており、それらは〈Masterpiece (マスターピース)〉と名付けられた1冊のバンチブックに収録されています。上記の経緯からも伺えるように、こちらのコレクションはDormeuilの日本法人であるドーメルジャポンのものではなく、鷹岡によるものとなっているようです。

鷹岡によるDormeuilの生地コレクション〈Masterpiece〉のバンチブック
鷹岡によるDormeuilの生地コレクション〈Masterpiece〉のバンチブック

どういうわけか、市中に出回るようになった?

このMasterpieceコレクション、上にも書いたように三越伊勢丹の限定品であったわけですが、私がジャケットを注文したのは三越伊勢丹とは関係のない仕立て屋です。どうやら、三越伊勢丹だけでは捌ききれなかったのか、鷹岡から一部の仕立て屋にも卸されるようになった、といった趣旨の話を耳にしました。セレクトショップ〈Beams (ビームス)〉においても、カスタムオーダーだけでなく既製品でも本コレクションの生地の取り扱いがあるようです。

なお、Masterpieceのバンチブックの中には、オリジナルレシピの〈Tonik (トニック)〉や〈Sportex (スポーテックス)〉といった銘品も収録されていました。先細りのメンズドレスウェアの世界において、独自でこれだけ攻めたセレクションを手がけるのは、ひとりの服好きとしてとても頼もしく感じます。

15.7 4 Plyでジャケットを注文することに

そんなDormeuilの15.7シリーズですが、当初はあまり眼中にはありませんでした。

お勧めで覗いてみたMasterpieceのバンチバック

私にとって、高級生地のイメージが強いDormeuil。その昔、さほど特別感のない生地を、バンチブックから着分生地を注文する場合の値段を聞いて泡を食った記憶があります。同時に、昨今の物価上昇や円安で、値段が非常に高騰しているという話も耳にしていました。そうした中、とある仕立て屋にて「いい生地がある」と進めていただいたのがこのMasterpieceコレクションでした。

15.7シリーズの中には、Dormeuilを代表するモヘア生地のTonikや〈Super Brio (スーパーブリオ)〉の15.7バージョンである〈15.7 4 Ply Tonik (15.7 4プライトニック)〉〈15.7 4 Ply Brio (15.7 4プライブリオ)〉、スーパー160’sの細い原毛を何度も撚って太番手に仕上げた〈15.7 6 Ply (15.7 6プライ)〉や〈15.7 8 Ply (15.7 8プライ)〉など魅力的な生地が多く見つかりました。しかし、バンチブックを捲る中で最も目を惹いたのは、本シリーズの嚆矢となった15.7 4 Plyなのでした。

〈Masterpiece〉バンチブックに収録されている15.7 4 Plyのネイビーの生地
〈Masterpiece〉バンチブックに収録されている15.7 4 Plyのネイビーの生地

思ったよりも高くない……?

「どうせお高いんでしょう……」と価格を聞くも、なかなかどうして高額ではありません。むしろ、生地スワッチを触っての質感を考えるとお値打ちに思えるくらい。

上にも書いたように、15.7 4 Plyはシリーズの中でも初期にリリースされたもの。物価や為替が今ほど苛烈でなかった時代に、鷹岡がDormeuilに発注した在庫にありつけているのかもしれません (15.7シリーズの他の生地の値段については未確認のため、あくまで想像の域を超えませんが)。加えて、Masterpieceはカプセルコレクションの類であると見受けられることから、実は本コレクションは展開終盤に差し掛かっており、今や放出フェーズにあるのかも、なんてことを考えました。実際に、今回私が選んだ生地よりもワントーン暗いネイビー (本当はこっちが欲しかった) は、すでに品切れとなっていました。

今回選んだ15.7 4 Ply

こんな経緯で、15.7 4 Plyでジャケットを仕立てていただくことにしました。仮縫い・中縫いを経て、ちょうど夏の終わり頃…… と思われたタイミングで到着。しかしながら、一向に夏が終わる気配はなく。

Dormeuil 15.7 4 Plyで仕立てたジャケット
Dormeuil 15.7 4 Plyで仕立てたジャケット

上の生地スワッチの写真にも写っているとおり、320 g/mと合物として使い勝手の良い目付。生地の表面に寄ってみたのですが、これって組織は2/2の綾織りでしょうか……?織目を目で追ってみたのですが、今ひとつ判別ができませんでした。遠目で見てもそれほど綾目は感じないのですが……。私の読みが正しいとすれば、上で名前を挙げたもののにように15.7シリーズの生地は大半がトロピカル (平織り) の中、少数派のツイルということになります。

15.7 4 Plyの生地を3 x 2 cmにクロースアップ
15.7 4 Plyの生地を3 x 2 cmにクロースアップ

4プライだ6プライだと聞くと、何となくドライでゴリゴリなタッチを想起してしまいます。それとは対照的に、柔らかさ・肌触りの良さが光る生地です。それでいて、生地を握って放した時のハリ感・復元力も多少感じます。

Dormeuil 15.7 4 Plyの生地感
生地の風合い

そして、ドレープが優雅で綺麗な光沢感を湛えています。これは、原毛の細さが成せる技なのでしょうか。もしくは、4プライとはいうものの、もしかすると撚り自体は比較的甘めなのかもしれません。

Dormeuil 15.7 4 Plyで仕立てたジャケット。ドレープの様子
綺麗なドレープ

ここまで、生地にばかりフォーカスした内容となっていますが、ジャケット全体としては普通の6つボタン2つ掛けのダブルブレスト。ラペル周り・肩周りは比較的中庸に仕上がったイメージです。

ボタンは、以前購入した〈London Badge & Button (ロンドンバッジアンドボタン)〉による金メッキのメタルボタンを支給し、取り付けていただいています。上に挙げた昨年の紺ブレと同じボタンです。

昨年の紺ブレは、袖山がマニカマッピーナで仕上がってしまったのが少し失敗だったので、今回はイセを殺してもらっています。

Dormeuil 15.7 4 Plyで仕立てたジャケットの肩周り
肩周り

最後に

今回は、この秋届いた新しいジャケットを紹介しました。

Dormeuil 15.7 4 Plyで仕立てたジャケット

秋冬向けの、無地のネイビーブルー。既にクローゼットに何着も控えているのですが、性懲りも無く増やしてしまいました。本当は、茶系で柄物のジャケッティングを画策していたのですが……。

私は要望を伝えて取り寄せてもらう、または仕立て屋で在庫している着分の生地で洋服を仕立てることが多いのですが、今回はバンチブックからの注文となりました。着分生地から選ぶ場合よりも仕上がりのイメージが予測し辛い側面があるのですが、仮縫いに袖を通したときに「これはいい生地だな」と実感しました。同じスーパー160’s同士ということで、上で挙げたJohn Cooperの生地と今回のDormeuilの15.7 4 Plyが並べてあったとすれば、私は後者を選びます。

15.7シリーズの生地で仕立てた残り2着のうち、1着は既に手元にあり、もう1着は中縫いを待っているところ。どこかのタイミングで、これらもお披露目したいと思います。


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Authored by
Navy Circle

サルトリアル・クラフツマンシップを中心としたクラシックファッションを追いかけるY世代。Respecting the long-lasting classics and craftsmanship

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