前回・前々回に引き続いて、〈Yearn Shoemaker (ヤーンシューメーカー)〉の上級ライン〈Artisanal Line (アルティザナルライン)〉のドレスシューズを取り上げていきたいと思います。
前回は靴のアッパーに注目しましたが、今回は底付け周りにフォーカスしていきます。
Artisanal Lineのアウトソール
ということで、アウトソール周りのコンストラクションについて見ていきたいと思います。Artisanal Lineと標準ラインとの違いが最も多く詰め込まれた部分です。
ウェスト部のアウトソールの成形
まずは底面の全体像を。細く絞り込まれたベヴェルドウェストが目を惹きます。
フィドルバックウェストの造形。
アウトソールをウェルトの上に巻き込まないベヴェルドウェスト
ベヴェルドウェストといえば、過去に紹介したインドネシアの〈Winson Shoemaker (ウィンソンシューメーカー)〉の靴は、ウェスト部のアウトソールの革をウェルトの上に巻き込むブラインドウェルト製法が採られていました (下に写真を掲載していますが、写真からはその仕様を読み取りづらいですが)。
一方、Yearn ShoemakerのArtisanal Lineにおいては、そこまで手の込んだ技法は適用していないようです。ウェスト部のソールとアッパーとの境目はウェルトが露出しており、覗き込むと出し縫いのステッチが見えます (これまた写真からは判別が付きづらいですが……)。
X (旧 Twitter) を眺めていると、安価なハンドウェルトの靴は出し抜いと掬い縫いの糸が内部で絡まっており、ソール交換の際に出し縫いの糸を切ろうとすると掬い縫いまで切れてしまう…… といった指摘を目にすることがあります。ベヴェルドウェストのようにウェルトの張り出しを抑えた作りの場合、構造上こうした傾向はより顕著になるのかもしれません。目に見えないところまでどれくらいしっかり作り込まれているのかも気になるところです。
テーパーの効いたヒールブロック
ヒールブロックにはテーパー (傾斜) がかかっています。
アジア発の手製靴においては、ウエスタンブーツよろしく強烈なテーパーのヒールをしばしば見かけます。そうしたものと比べると、Yearn Shoemakerのヒールのテーパー具合はほど良い感じ。
標準ラインとの比較
アウトソールの成形具合を、前回注文した標準ラインの靴と比較してみました。
ウェストの幅やヒールのアゴの幅や縦方向の長さを実測した結果を書き入れていますが、ウェストの幅やヒールブロックは総じて1割ほどコンパクトに作られています。確かに、Artisanal Lineにアップグレードすることで、エレガント志向なビスポークシューズの雰囲気を味わえそうだといえます。
アウトソールの摩耗防止オプション
レザーソールとした1足目はアウトソールの減りが速かったことを踏まえ、ハーフラバーを貼ってもらっています。今回ウェストをフィドルバックとしたのは、そうすることで形成されるソールの稜線に沿ってハーフラバーを貼ってもらうことで、アウトソールの表情をメリハリのあるものにすることを期待してのものでした。
また、標準ラインなら35米ドルのアップチャージであるトゥープレートが無料とのことなので、こちらも装着していただきました。新生〈Triumph (トライアンフ)〉の#150プレートが埋め込まれています。ドレスシューズのつま先の保護については、ここ最近はスチールではなくラバーに傾倒していたのですが、ラバーは外れ落ちることが多いため、スチールに回帰しつつあります。
ラステッドシューツリー
ここまでの写真にも見え隠れしているとおり、今回はシューツリーも手にすることとなりました。素仕上げのブナ材を使ったツインチューブ型のもので、今回私が注文した〈Y07〉という木型向けのラステッドシューツリーです。
ラステッドシューツリーを入れると、サイドウォールが立ったラストのキャラクターがよくわかります。前回は、手元に汎用のシューツリーが山ほど余っているということもあり購入を見送ったのですが、ラステッドツリーは靴の所有満足感を高めてくれる重要なアイテムだと感じます。
シューツリーの商品ページを見てみると、現在はいくつかの色に染めることもできるようです。
以前、シンガポールの〈Yeossal (ヨーサル)〉のMade-to-Order (MTO) ドレスシューズを紹介しましたが、その際も染める色を選ぶことができました。それと似たアプローチです。
履いてみた
新品の靴を表に履いて出かける前に、少しばかり洋服との組み合わせを考えてみました。
個人的に一番組み合わせたかったのが、ベージュのコットンリネンのスーツ。10年以上前に発刊されたファッション誌の中で、まさにこのような色合いの組み合わせのコーディネートが掲載されており、それを再現したいと常々思っていての試行です。残念ながら、普段スーツを装う機会にはあまり恵まれていないのですが……。
秋冬をイメージして、ツイーディなトラウザーズと。洋服の色調とのバランスを考慮すると、コーディネートの面では今回選択した明るめのアッパーよりもダークブラウンの方が融通が利きそうだなという所感です。これから色々試行錯誤していきたいと思います。
最後に
ここまで、3度にわたってYearn ShoemakerのArtisanal Lineの靴を紹介してきました。
現状、それほど多く履いて出かけることができていないため、履き心地も含めた総評はもう少し先送りにしようかと考えています。その際は、Artisanal Lineと価格帯が近しいYeossalやWinson Shoemakerとの比較にも踏み込んでみるのも一興かもしれません。
今回は、ラストの素性がわかっていたYearn Shoemakerをリピートする形となりました。一方、中国の有力なドレスシューズメーカーとしては、Yearn Shoemaker以外にも〈Acme Shoemaker (アクメシューメーカー)〉や〈Oct. Tenth (オクトテンス)〉などが知られています。前者はYearn Shoemakerよりも顕著に上位の価格帯で、後者は概ね同じレンジ。この辺りにも少し興味があり、きっかけがあれば手を出してみたいと思います。
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