「Caruso (カルーゾ)」私がクラシコイタリアファッションに目覚めた当初、好んで選んでいたイタリアのファクトリーブランドです。

実際に、これまでCarusoのスーツやジャケット、コートを10着ほど買い求めてきました。
しかしながら、最近はスーツやジャケット、コートといったテーラリングファッションに関する私の軸足がイタリアのファクトリーからサルトリア寄りに移っており、Carusoは私自身のメインストリームではなくなりつつあります。
加えて、昨今のリブランドを経て、Carusoの全体的なテイストがクラシックからややモード寄りに変わっていることも、足が遠ざかっていることの一因かもしれません。
そうした中でも、6-7年以上にわたって愛用しているCaruso一着があり、今回はそれを紹介することとしました。
「gobigold」という独自企画のキャメルヘアーを使用した、非常に軽い作りのジャケットです。

私にとってちょうど良く感じられた「Casuro」

「Belvest (ベルベスト)」や「Stile Latino (スティレラティーノ)」「Sartorio (サルトリオ)」「Isaia (イザイア)」… イタリアには有力なファクトリーブランドが数多く存在します。
私がクラシコイタリアファッションに足を踏み入れた2010年代前半は、Carusoはどちらかというとあまり強い存在感を覚えないブランドでした。
そうした中で、上に挙げたものほど高額でなく、かつ当時大変勢いのあった「Lardini (ラルディーニ)」や「Boglioli (ボリオリ)」ほどありふれていないという点で、Carusoに関心を寄せるようになりました。
下の記事をはじめとした、現在は更新が止まってしまったWebマガジン「大人になれる本」のライター田中さんの記事にインスパイアされたことも大きな要因でした。
もちろん、Carusoはあくまでファクトリーブランドなので、Carusoは他のファクトリーブランドと比べて品質やグレードがいい・悪い、といったことを十把一絡げに論じることはできません。
個々のアイテムのクオリティは、セレクトショップをはじめとした発注元の企画次第です。
実際に、私も安いが微妙なモノからセンスのいい企画まで、さまざま目にしてきました。
Carusoブランドの変遷
Carusoは、Umberto Angeloni氏によるディレクションの下での躍進で有名です。
「Brioni (ブリオーニ)」をCEOとして再建したAngeloni氏は2013年にCarusoの経営権を取得し、確かこれと同じくしてブランド名も「Raffaele Caruso」からCarusoに一新されました。

2019年には中国のコングロマリットである復星国際 (Fosun International) の資本下に入り、現在は復星国際の一部門である「Lanvin Group」を支える一ブランドとなっているようです。
これを機に再度リブランドが実施され、私の眼からは少しモードっぽさ・ストリートっぽさが強調されるようになったなと感じられるようになりました。
今は無きミラノの直営店
2017年秋にイタリア・ミラノを訪ねた際、ミラノの目抜き通りであるVia Montenapoleone (モンテナポレオーネ通り) の近くにあったCarusoの直営店に立ち寄ることができました。
しかしながら、当時は旅費が高く嵩んでしまい、せっかくの機会ながら服を購入することはできませんでした。
代わりに、ちょっと風変わりな小物と、下のフリーペーパーだけを手に帰ることとなりました。

見出しにある「The Good Italian」というのが当時のブランドメッセージでした。
また、コレクションアイテムが着せられた表情豊かなマネキンが、Carusoのアイコンでもあった印象です。
なお、このミラノの直営店はパンデミックよりも前の2018年・2019年には閉業となってしまったみたいです。
キャメルヘアーのジャケット
ここから、本題のジャケットについて紹介したいと思います。

コンストラクション
このジャケットの最大の特徴は、芯の使用を最低限に抑えた作りとなっていることです。
胸周りにほんの少し薄い芯が入っているだけで、ストレスを感じさせない着心地です。
芯を省いた設計
下の矢印の方向から中の構造を覗いてみると…

ラペルの部分に接着芯が貼られているのと、接着芯より多少厚めの芯が縫い付けられているだけです。

また、こうしたジャケットによくあるように、内ポケットは裾の近くに簡易なものがあるのみです。

かといってアンコンストラクテッドというわけではなく、袖のいせ込みやアイロンワークで構築的な仕上げとなっています。
余談:「センツァインテルノ」って…?
このジャケットのように、芯を使わないジャケットを指す呼称として「センツァインテルノ (Senza interno)」ということばをよく耳にします。
日本のテーラードクロージングの文脈で聞かれる一方、イタリア語のGoogleで「”senza interno” giacca」などと検索しても、なぜかこの「センツァインテルノ」という言い回しが使われる例は見られません。
もちろん、”senza”は英語の”without”、”interno”は”internal stuff”なので意味は通じます。
イタリア語ながら、ある種日本ローカルの用語なのでしょうか。
その他の仕立ての仕様
このジャケットは、2016年ごろにセレクトショップ「Ships」で購入したものですが、仕立てのグレードもどちらかというと良い部類のように感じます。
袖付け・襟掛けは手縫いで行われているように見えます。


襟はいわゆる「二枚襟」ですが、これは素材の特性上あえてそのようにしたのかもしれません。
加えて、フラワーホール・前身頃のボタンホールとも手かがりになっています。
Carusoのジャケットはフラワーホールこそハンドのものが多いですが、前身頃のボタンはミシンのものも見かけます。


Carusoのような比較的安めのファクトリーブランドの場合、安さ重視でコンストラクションやディテールを妥協した商品も少なくありません。
プロパーでの消化率を考慮すると、価格を最大限抑えられた方がリスクが少ないのでしょうか。
(高価格帯のブランドでも、同様の傾向は無くはありませんが…)
そうした中、こだわりを持った仕様で企画・発注した商品が店頭に並んでくれることは、個人的には嬉しいことです。
「gobigold」という独自企画の生地
こちらのジャケットには、Carusoとイタリアの服地メーカー「Loro Piana (ロロピアーナ)」のコラボレーションによる「gobigold」という生地が使用されています。

このgobigoldというテキスタイルのリリースに際して、WWDの報道生地があったので引用します。

There are only 1.4 million Camelus Bactrianus, a camel species that lives in Northern Asia, so total annual production is limited to 2,000 tons of fiber and only 30 percent of this can be used for apparel. This compares with 16,000 tons of cashmere, of which 6,500 tons are of the fine variety. Camel hair represents only one-tenth of the cashmere supply, observed Angeloni.
He said the so-called gold variety fiber measures 17 microns, and its length, superior to that of cashmere, gives threads more stability, avoiding pillage and loss of shape. Yet it is stronger and lasts longer.
Since the climate of the Gobi Desert is one of great extremes, camels are insulated from cold and heat — an advantage replicated in the clothes.
…
Additional fabric varieties include 100 percent pure camel “double,” which has a construction that leaves a micro layer of air between the two fabrics for additional thermal insulation, making it ideal for outerwear.
(拙訳) 北アジアに生息するフタコブラクダ (Camelus Bactrianus) は140万頭しか生息していない。そのため、繊維の年間総生産量は高々2,000トンで、アパレルに使えるのはその30%程度である。一方、カシミヤは16,000トンで、そのうち6,500トンが高品質なものである。すなわち、キャメルヘアーはカシミヤの10分の1しかない。Angeloni氏はこのように話す。
高品質なキャメルヘアーは繊維が17ミクロンと細く、かつカシミアよりも長い。そのため、しっかりとした糸を作ることができ、かつ毛玉ができにくくて形が崩れにくい。加えて、より丈夫で長持ちする。
ゴビ砂漠の気候は大変過酷であるため、ラクダ達は (訳注: 体毛によって) 寒さや暑さから身を守っている。このことは、(訳注: 毛を繊維として使う) 生地の特性としても有利に働く。
…
これとは別に、キャメル100%の「double」は、2枚の生地の間に空気の層を作ることで保温性を高めた構造で、アウターウェアに最適な生地である。
https://wwd.com/feature/loro-piana-caruso-gobigold-camel-hair-10295911/
読んで字の如く、ゴビ砂漠に生息するラクダの毛で織った生地、ということみたいですね。
過去にカシミヤについて紹介したときにも、カシミール山羊の生息地における寒暖の激しさが高品質な繊維の秘訣となっていることを紹介しましたが、ラクダも同じようです。
さらに、上で言及したフリーペーパーにもgobigoldの説明が掲載されていました。

“gold quality” を持つ、黄金色をしたゴビ砂漠のラクダの毛、ということでgobigoldであることが示唆されています。
生地に少し寄ってみるとこのような感じです。
恐らく、上のWWDの記事でも言及されている「double」という記事ではないかと思われます。

着てみた
こちらのジャケットを、ダークブラウンのニットポロの上に着てみました。

ゴージラインの高さ・角度に少し2010年代前半~中盤の時代性を感じますが、その他は概ね中庸な雰囲気かなと思います。
サイズ48で、着丈は実寸で73 cm。ラペル幅は9 cmです。
これからも、大事に着用していこうと思います。
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