2020年ごろからInstagramで見かけるようになった、中国の手製靴ブランド〈Yearn Shoemaker (ヤーンシューメーカー)〉
スクリーンショット出典: yearnshoemaker.com (2022年9月取得)
手釣込み・完全手縫い (Hand-lasted, hand-welted & hand-stiched、いわゆる「ハンドソーンウェルテッド」) ながら399米ドルスタート (2022年9月現在) とセンセーショナルなプライシング。モノは試しと1足購入してみたところなかなかの満足度だったので、購入体験を含めてレビューしてみます。
Yearn Shoemakerとは
Instagramでドレスシューズをウォッチされている方は、まあまあな頻度で @yearn_shoemaker がサジェスチョンに登場しているのではないでしょうか。
なんと言っても刺さるのはその価格。少なくともアッパーの革は欧州の名だたるタンナリーのものを使い、なおかつ釣込み・底付けを手作業で進めるとすれば、この価格でどうやって原材料・工賃をペイできているのか不思議です。アッパーの革は、RTWで主にラインナップされているのはドイツのタンナリー〈Weinheimer (ワインハイマー)〉のボックスカーフ、あるいはイタリアの〈Bonaudo (ボナウド)〉のクラストカーフを使ったハンドパティーヌ。2022年9月現在、Weinheimerは419米ドル、Bonaudoは399ドルという値付けになっています。
スクリーンショット出典: yearnshoemaker.com (2022年9月取得)
なお、Made-to-order (MTO) だとフランスの〈Annonay (アノネイ)〉による型押しカーフや、米国の〈Horween (ホーウィン)〉のシェルコードヴァンやハッチグレインカーフなどを準備しているとのこと。MTOのラインナップも非常に魅力的です。
話を戻すと、こうしたタンナリーの皮革はたとえ低等級のものであってもそれなりのコストがかかるはずです。となると、副資材や工賃・固定費にカラクリがあるのでしょう。
Yearn Shoemakerは中国は四川省・成都市を拠点とした靴工房とのこと。統計データは少し古いものの、成都市や四川省に関するJETROの調査資料を見てみると、四川省全体の1人あたりGDPは中国全体のそれをやや下回るようです。破壊的な価格は、工賃の違いが成せる技でしょうか。
○ 基礎的経済指標(2019年)
JETRO. “四川省概況”. 2020
・域内総生産(GRP) 4 兆 6,615 億 8,000 万元(前年比 7.5%増)
*中国全体の GDP は 99 兆 0,865 億元(前年比 6.1%増)
・1人当たりのGRP 5万5,774元(前年比7.0%増)
*中国全体の 1 人当たりの GDP は 7 万 0,892 元(前年比 5.7%増)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/seibu/pdf/overview_sichuan_202012.pdf
中国発の手縫いドレスシューズとなると、Leather Portさん主催の〈名も無きドレスシューズ〉やシンガポールのセレクトショップ〈Yeossal (ヨーサル)〉のMTOなどが有名どころでしょうか。
これらは購入・着用レビュー記事も多くみられますが、Yearn Shoemakerはまだまだこれらほど強力に日本市場にアウトリーチできていないようです。
現状、Yearn Shoemakerの靴を日本で入手するには公式オンラインストア一択になりそうですが、Shopifyベースのストアなので既製靴をポチって買う分には何も支障はないでしょう。なお、イギリス・ロンドンの〈Arterton (アータートン)〉というブティックでも取り扱いがあり、紳士靴の本場でも存在感を発揮しているようです。
このArtertonがスポンサー (?) した、「靴修理職人がJohn Lobb ParisとYearn Shoemakerの既成靴を分解してみた」動画なんてものもあります。ウェルトを解いた後の内部構造にはあまり踏み込めておらず、残念ながら動画の資料的価値はそれほど高くはありません。ただ、「中国製」の本格靴に対する認知を変えていくひとつの潮目になっていくのかもしれません。
問い合わせてみました
サイズ感を確認したく、オンラインストアにある問い合わせフォームから質問を投げてみました。
返事をくれたのは「Timさん」という方。この方、ドレスシューズについて非常に博識で、サイズ感に限らず多くの観点から有用なアドバイスをくれます。サイズ感に関しては、私は「足長 (Length)・ボールガース (Ball girth)・ボール幅 (Breadth) の実寸がXX cmなんだけど、この木型だとどのサイズがいい?」を質問したところ、「このサイズ」とスペシフィックな回答が返ってきました。下の記事でレビューしているとおり、提案されたサイズは私の足にピッタリでした。木型と足の親和性もとても高いです。
他にも、購入前にアッパーのデザインや釣込み・底付けの製法に関する仕様やMTOでできることなどについて根掘り葉掘り聞いてみましたが、全てTimさんからワンストップで回答が得られました。話を聞いてみると、日本からもちらほらと注文は来ているとのこと。日本は好事家も多く有望な市場と位置付けてはいるものの、越境ECで新規顧客を呼び込むのは難しいのかもしれません。
なお、2022年9月の四川省での地震や感染症によるロックダウンの影響で、問合せ対応や受注品制作のリードタイムに少なからず影響が出てしまっているようです。
試しにRTWを注文してみました
Timさんに諸々相談をぶつけた上で、まずはRTWを一足注文してみることとしました。下の記事にて、注文時に考えたことを簡単にまとめてみましたので、あわせてご覧ください。
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