昨年、インドネシア発の手製靴メーカー〈Winson Shoemaker (ウィンソンシューメーカー)〉に出会い、靴の注文を進めたエピソードを紹介しました。
最初にコンタクトを取ったのが2023年の4月上旬で、注文を完了したのが5月の下旬。注文から丸8ヶ月が経った2024年1月末に、待望のドレスシューズが到着しました。当初は納期6ヶ月の見込みとのことでしたが、やや遅れての完成と相成りました。
今回は、靴のアッパーの雰囲気を中心に、届いたばかりのWinson Shoemakerの靴に対するファーストインプレッションをお届けしたいと思います。底付けを中心としたコンストラクションや履き下ろし後の印象は本シリーズの最終章となる次回記事で紹介しており、これら2本を通じてWinson ShoemakerのMTOドレスシューズに興味のある方に有益な情報をお届けできればと考えています。
到着から開封まで
まずは、手短に到着時の様子を。
到着時の荷姿はこんな感じでした。DHLでインドネシアから発送されます。
過去の記事でも紹介した、中国・雲南省発の〈Yearn Shoemaker (ヤーンシューメーカー)〉やシンガポールのブティック〈Yeossal (ヨーサル)〉の靴を注文したとき、そしてハンガリーの〈VASS (ヴォーシュ)〉の靴を購入した時などもそうなのですが、私が海外から靴を輸入すると決まって開封検査に遭遇します。対照的に、他の洋服や小物ではそうしたケースは稀なのですが。
関税、内国消費税および通関手数料の支払いは、以前紹介したYearn Shoemakerの靴の輸入時と同じ方式。しかしながら、なぜか今回は支払い手続きを促すための通知のSMSが正常に届かないトラブルが発生。このトラブルがなければ2, 3日早く届いたのに、という顛末でした。
薄い段ボールのカートンを開封すると、そのまま紙製の元箱が出現。
パッケージはかなり凝ったもので、唐草模様のようなエンボスが施されています。
靴は、1足ずつシューズバッグに包まれて梱包されています。
アッパーのデザイン
そして、出てきた靴がこちらです。
装着されているシューツリーは、ラストの形状をコピーしたラステッドシューツリー。シューツリーはMTOの標準仕様に含まれています。
アッパーの全体像とカラリング
はじめに、アッパーの全体的な雰囲気に着目してみたいと思います。
今回オーダーしたのは、Instagramで見て気になっていた〈Equinox Single Monk Strap (エキノックスシングルモンクストラップ)〉というデザインのものです。母趾球のあたりからつま先、足の小趾側、踵、甲にかけて、1枚の螺旋状の革で作られています。アッパー全体が1ピースの革で構築されているという点で、これも一種のホールカットシューズと呼べるものではないかと思います。
カラリングは手染めで、スパイラルに沿ってコニャック色から暗い紫へとグラデーションが施されています。フランスのタンナリー「Tannerie d’Annonay (アノネイ)」のクラストカーフが使用されているのだとか。
お化粧されているので写真からは伝わりにくいのですが、革の質はちょっとイマイチかも、といったところ。肌理が少し荒く、毛穴が目立ちます。一方で、靴の価格を考えると製甲のステッチはとても精緻。丁寧なミシンワークを伺わせます。この後に続く写真からもご覧いただければと思います。
John Lobb ParisのJermynとの類似
届いた靴を眺めていると、〈John Lobb Paris (ジョンロブパリ)〉の〈Jermyn (ジャーミン)〉シリーズを彷彿とさせられます。甲のストラップの構造や、アッパー全体が一枚の革で仕立てられていることなど、類似点が確認できます。Winson ShoemakerのEquinox Single Monk Strapも、John LobbのJermynやその他の古のアーカイブに着想を得ているのかもしれません。
ストラップ周りの仕様
アッパーの重要なディテールのひとつとして、ストラップの周辺に注目してみます。
ストラップを留めるためのバックルは楕円形で、曲線を多用したアッパーのデザインと調和しているように感じます。バックルは真鍮製のもののようです。
下の記事でも書いたように、私は金色の金物が好みであり、それに沿った仕様としていただきました。
ストラップ留めの靴においては、金具をアッパーに留めるパーツとして伸びるリボンが使われたものが多く見受けられます。一方で、この靴ではアッパーと同じ革が使われています。
ストラップへと続く部分とヴァンプ (甲革) の間には、補強のために閂止めが施されています。綺麗なシャコ止め。
シャコ止めについては、思うところを下の記事にまとめました。よろしければ併せてご笑覧ください。
シルエットとラストの雰囲気
続いて、靴のシルエットに着目してみたいと思います。
様々な角度から
今回選んだのは、以前も紹介した〈Aurora (オーロラ)〉という名のラストです。ややラウンドなチゼルトゥのラスト。
まずは側方から。一の甲が低く抑え込まれた、流麗なフォルム。
注文前にも着目したように、土踏まずの両側面はブラインドウェルト構造のべヴェルドウェストとなっています。
反対側から見ると、こんな感じです。
次に、つま先側から見たシルエット。一の甲からサイドウォールにかけては比較的滑らかに繋がっており、丸みを帯びています。
そして、踵から見たシルエットです。ビスポークではなく既成のラストとしては、小ぶりな部類の踵ではないかと感じます。これは、前述のYeossalの靴を見た時にも同様の印象を持ちました。
木型のサイドウォール
ところで、私がこれまで見てきた限りでは、ハンドラスティング (手釣込み) を前提として設計されたラストの場合、一の甲の天面からサイドウォールに至る角を出し、サイドウォールを強調するようなデザインが多いように見受けます。これは見た目の洗練性もさることながら、ラスティングマシンでアッパーを釣り込む量産靴との差別化を図る側面も強いものと考えられます。過去に紹介したYeossalの靴がその典型例で、これでもかと言わんばかりにサイドウォールが屹立しています (Yeossalの靴の紹介はこちら。Yeossalの靴にもラステッドシューツリーが装着されています)。
Winson ShoemakerのAuroraラストの場合、こうしたアプローチとは意図的に一線を画しているのかもしれません。つま先から甲にかけてのラストの雰囲気はラステッドシューツリーからも読み取ることができますが、この辺りは次回の記事に譲りたいと思います。
最後に
今回は、届いたばかりのWinson Shoemakerのファーストインプレッションをお届けしました。
底付けなどのコンストラクションや試着した上での所感などを下書きしていると、非常に長文になってしまいました。このシリーズを徒に引き延ばしてしまうのもやや憚られるところではありますが、これらのポイントは下の続きの記事にて紹介させていただくこととしました。
Winson Shoemakerに加え、この記事でも言及したYearn ShoemakerやYeossalの靴に関する記事や、日本の靴職人の方に作っていただいたビスポーク靴に関するエピソードを公開しています。ご関心があれば、下のリンクから併せてご覧ください。
《関連記事》手製のドレスシューズの紹介
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